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第四十八話 捜査会議

「それでは、現時点までの調査の結果を報告いたします」


 あれから数日後、騎士団による調査結果について、会議が開かれることになったため、シエステラたちは再び騎士団の駐屯地に来ていた。


 会議に参加するのはシエステラとフィーラ。

 ニコラとコットンは宿で留守番だ。


 フィーラはシエステラの少し後ろに立ち、見るべき資料を示すなどの補佐をしている。


「さて、今回の議題はルシフル教団の人間が殺された事件についてだ。手がかりとなるのは、スキル『影潜り』を持つ可能性が高いというものだ。各自、結果を報告してくれ」


 ヘイムの言葉に、まずは一人の騎士団員が立ち上がり、報告を始めた。


「お配りした資料は、ここ最近、この町に訪れた人間のリストになります。スキルの保有をしているか調査をしましたが、それらしいスキルを持った者はいませんでした」


 資料を見ると、ここ最近に初めてこの町に訪れた人間は、およそ五百人。そのうち、七割が今も町に残っており、すべての調査が終了したと記載されていた。


 スキルの保有の確認には、聖女神教会から正式な術師を派遣されており、スキルを隠すことは難しいとの見解だ。


「すでに町を出ており、調査ができていない者もいます。足取りを追っていますが、そちらについては難航しています」

「ふむ。それも仕方ないだろうな。だが、重要な調査だ。引き続き続けてくれ」

「はっ!」


 ヘイムの指示に団員が敬礼で答え、着席する。


「次に、ヘカティア。報告を頼む」

「はっ!」


 次に立ち上がったのはヘカティアだった。


「今回、聖女神教会からの情報提供をいただいているところですが、その中で重要な情報がありましたので報告いたします」


 ヘカティアが資料のページをめくり、各々がそれに倣って資料を読み進める。


「皆さんもご存知の通り、ここ最近、この町で起きている通り魔による事件が起きていますが、この通り魔と今回の事件について、関連性が浮上しました」


 そこで一度、ヘカティアはシエステラの方へと目配せする。シエステラがそれに頷くと、ヘカティアは続きを話し始めた。


「先日、聖女様が通り魔に襲われる事件が発生しました」


 その報告に会議室がざわつく。聖女であるシエステラが襲われるなど、世界を揺るがすような大事件だ。すでに話を聞いていた者もいるが、それでも耳を疑うような話だろう。


 ヘカティアは周囲がざわつくのを予想していたように、その中で凛とした声で報告を続ける。


「通り魔は聖女様たちによって撃退され、その残党も確保しましたが、魔法によって操られていたらしく、有力な情報は得られませんでした」


 シエステラたちが撃退した残党は、すぐに騎士団によって尋問をされたが、精神が壊れたようにまるで話ができない状況だった。


 今も厳重に監視されているが、これ以上何を聞いても進展がないだろうと判断された。


「ですが、聖女様からの情報により、その通り魔は先日、この辺りで発生した人攫い事件の犯人たちと同じ組織であることが判明しました」

「人攫い事件? それは確か、聖女神教会が調査をしていた事件だったな」


 人攫い事件。それはシエステラが不注意で巻き込まれた、あの事件の話だ。


 事実は、シエステラがただ騙されて、ただ誘拐され、ただシエステラ自身が解決しただけの話なのだが、


「はい。聖女神教会はその組織が、ルシフル教団の殺害事件の犯人と睨んでいるようです」


 公式な情報としては、聖女神教会が独自調査により、ルシフル教団殺害事件に関与したと思われる人攫いグループを捕らえた。ということになっている。


「何? つまり最初から、聖女教会はその人攫いグループと今回の殺害事件は繋がっていると考えていたということか?」

「えぇ、その通りです。事前にそれを見抜いた聖女神教会は、独自に動いていたようです」


 その報告に「おぉ」という感嘆の声が漏れ、尊敬するような眼差しがシエステラに向けられる。


 しかし、推理が進むにつれて、シエステラはポカーンと口を開けてしまった。それをさりげなく指で隠すが、シエステラは内心驚いていた。


(あの事件と今回の事件が繋がっていた?)


 シエステラはフィーラの方を見る。フィーラはそ知らぬ顔で会議の様子を見ていたが、その心中を察することができた。


(なるほど。聖女神教会に都合の良いストーリーを作ってくれたのですね。流石はフィーラ)


 ともすれば、ただシエステラが不注意で誘拐されただけの事件が、ルシフル教団殺害事件の犯人と思われる組織の尻尾を掴むための調査という話に化けている。


 調査の結果に基づくものではあるが、それをシエステラの名誉を傷付けず、むしろ威光を高めるようなストーリーへと昇華したのは、フィーラたちの尽力によるものだろう。


「人攫いグループと通り魔、この組織は同一であり、そして、ルシフル教団殺害事件の犯人として最有力候補になります」

「して、その組織というのは?」


 一人の騎士が尋ねた。ヘカティアは神妙な顔を浮かべ、はっきりとした口調で言う。


「影狼の牙、です」

「っ!」


 ヘカティアがその名前を出した時、会議室内が俄にざわめいた。


「影狼の牙ですか?」

「えぇ、様々な犯罪を繰り返す厄介な組織です。騎士団も手を焼いているようですね」


 聞いたことのない名前にシエステラがさりげなくフィーラに尋ねると、フィーラは淀みなく説明をした。


 本来、聖女神教会が犯罪の捜査に関与することはないが、シエステラの護衛として、フィーラや神官たちはあらゆる情報を持っている。


「そして、影狼の牙のリーダーはネブラという男であることが判明していますが、新たな情報として、ネブラはスキル『影潜り』を所有していることがわかりました」


 言いながら、ヘカティアは一枚の姿見をボードに貼り付けた。


 そこに描かれていたのは、一人の男の粗描だった。顔の詳細はぼやけているが、太い首筋や骨格から壮年期の屈強な男であるとわかる。


「ルシフル教団の人間が殺害された事件では、スキル『影潜り』の使用の可能性が上がっております。そのため、この辺りで活動しているネブラは最重要容疑者であると判断します」


 ヘカティアの推論に、周りの騎士たちも頷き、納得しているようだった。


「影狼の牙に関する捜査は、東部方面支部が担当しており、拠点についてある程度目星を付けているようです。近々、大規模な掃討作戦をする予定でした」


 配られた資料の中には、影狼の牙の拠点に関する捜査資料もあった。そこには地理的根拠に基づいた予想地点がマークされていた。


 騎士たちは資料を読みながら、思い思いに意見を交わす。その中で一人の騎士が口を開いた。


「しかし、ネブラが今回の事件の犯人であるとして、その動機はなんだ?」


 騎士の一人が疑問を呈する。


 今回の事件は、ルシフル教団の関係者が殺害された件だ。一犯罪組織がそんな事件を起こす理由が思い付かなかった。


「不確定ではありますが、聖女神教会の見解では影狼の牙がルシフル教団の下部組織である可能性も示唆されております」

「何っ!」


 騎士団の中に先ほどのざわめきとは違う、明確な動揺が走った。


 騎士団が追っていた犯罪組織が、ルシフル教団の下部組織となれば、事態はかなり大きな話へと変わる。


 そんな中、シエステラは、毅然とした態度のまま、視線をまっすぐ前に向けていた。


(おそらくフィーラやテスラが真剣に調べてくれたのでしょうね)


 シエステラの頭の中では、フィーラやテスラの捜査能力を評価していた。


 基本的にフィーラやテスラなど神官たちは、シエステラのために行動する。

 特に今回のような犯罪組織の調査となれば、シエステラの手を煩わせることは決してしない。


 シエステラがこの場で求められているのは、聖女神教会の代表としての、毅然とした態度を取ることだけだった。


 フィーラはヘカティアに視線を送り、次の発言の機会を得る。


「影狼の牙は、ごく最近にできた組織にも拘わらず、その勢力の拡大の仕方は異常でした。背後に大きな組織の存在を疑うのは当然です」


 フィーラに頷き、ヘカティアが補足する。


「東部方面支部においても同じ見解を持っていたようです。そして今回、聖女神教会との情報交換の結果、その背後にいるのがルシフル教団である可能性が高いとの結論に至りました」


 一連の報告を受けて、ヘイムは眉を歪め、深い溜息を漏らした。


「聞いての通り、頭の痛い話だが、事は単純な犯罪組織の討伐ではなくなったわけだ」


 ヘイムの声の重さが、そのまま事の重大さを示していた。


 団員たちの表情も険しくなっている。


「現在、東部方面支部騎士団の指揮の元、影狼の牙の大規模掃討作戦を計画しています」


 ヘカティアが次の資料を掲げる。

 フィーラはシエステラに資料を見せた。


「作戦の実行部隊は、トリトーラ支部、東部方面支部の合同部隊となります。さらに、聖女神教会の魔法師も後衛に協力をいただけます」

「おぉ! それは心強い」


 聖女神教会の魔法師は、その実力が騎士団の精鋭と並び称されるほどだ。


 特に、身体強化や治癒などの補助系魔法においては、騎士団付きの魔法師を遥かに凌駕する卓越した力を持っている。


「影狼の牙が潜伏しているとされるのは、ここトリトーラから南西に位置する嘆きの森。森の奥深くにある、廃墟となった鉱山跡地です」


 ヘカティアは目的の場所を、地図に赤くマークをつける。そこはここから数日もかからずに辿り着ける距離の場所だった。


「さらに今回は、シエステラ様も同行していただきます。万に一つも失敗は許されません」


 ヘカティアの決意に満ちた、鋼のような声に、団員たちの顔には期待と、それ以上の真剣な覚悟が浮かんだ。


 決意に満ちた団員たちを見回したヘイムは、重厚な声で劇を飛ばす。


「作戦の詳細は各部隊に直接伝える。各自、己の責務を果たすように」

「はっ!」


 ◇◇◇◇◇◇


 捜査会議が終わり、シエステラとフィーラはヘイムに言われて、その場に残っていた。


 そして、団員たちが全員部屋を出た後、ヘイムはヘカティアともう一人、男の団員を連れて現れる。その男の男性に、シエステラは僅かに眉を寄せた。


「シエステラ様、この度の作戦に関して、ご協力を賜り、誠にありがとうございます」


 頭を深く下げるヘイムに、シエステラは軽く手を振って答えた。


「いいえ、今回の事件にルシフル教団が関与しているとなれば、聖女神教会と無関係ではありませんから」


 ヘイムはその言葉に、心底から安堵したような表情を見せた。そして、後ろに控える騎士たちを振り返って示した。


「今回の作戦では、ヘカティアとギルバートの部隊と共に行動をしていただきたく思います」


 ヘカティアは、一歩踏み出し、ヘイムよりも鋭く、しかし丁寧な敬礼を行った。


「改めまして、ヘカティア・エルミナ。小隊の隊長を務めます。シエステラ様、身命を賭してお守りいたします!」

「同じく、ギルバート・バルカス! ヘカティア隊長の補佐役です! よろしくお願いいたします!」


 ギルバートは敬礼の勢いが良く、バシッと小気味良い音を立てて胸の鎧を叩いた。


「そうですか。ヘカティア様、ギルバート様。こちらこそよろしくお願いいたします」


 シエステラは恭しくお辞儀をした。


 その所作は、これから血と剣が交錯する戦場へ向かう人間とは思えないほど、神聖な優雅さを放っていた。


 ヘカティアは、シエステラの完璧な美貌と威厳に一瞬息を飲み、その瞳に尊敬と畏敬の念を込めた。しかし、ギルバートは違った。彼はシエステラを凝視し、口を半開きにしたまま、感動と興奮が入り混じった表情で見惚れていた。


「やっぱり聖女様は美しいですね!」


 その言葉は、まるで子供がお菓子を見つけたかのように、純粋で、そして全くもって場を弁えないものだった。


「っ! ギルバートッ! 何て軽率な言葉を!」


 焦燥に駆られたヘカティアは、すぐさまギルバートの鎧の隙間から露出した後頭部を、手の甲で思い切り叩いた。


「ぐえっ!」


 ギルバートは蛙のような呻き声を漏らし、よろめいたが、その顔には一切の反省の色がなく、彼はなぜ怒られたのか、本当に理解できていないようだった。


 シエステラは、一瞬ポカンとして、いつもの完璧な笑みが凍り付いた。


 シエステラが容姿について褒められることは日常茶飯事だ。だが、ここまで明け透けで、感情ダダ漏れの、場の雰囲気にそぐわない賞賛を浴びせられたのは初めてだった。


 案の定、フィーラの涼しげな表情は一気に氷点下になり、ギルバートを射殺さんばかりの鋭い視線を送る。


 それを見て、ヘイムは顔面蒼白になり、大慌てで弁明に回った。


「し、失礼いたしました、シエステラ様! この男は、戦闘能力は騎士団随一ですが、空気を読む能力が絶望的に欠如しておりまして! 言葉遣いについては、後で徹底的に叩き直しますので、どうか、ご容赦を!」


 ヘカティアとヘイムが、揃って必死に頭を下げる。ギルバートはよくわからないまま、「え? 何か悪いこと言った?」という戸惑いの表情で、おずおずと頭を下げた。


 シエステラは数秒の硬直の後、プロの聖女として完璧な笑みを取り戻し、優雅に手を振った。


「大丈夫ですよ。少し、その……新鮮でしたから」


 シエステラは必死に平静を装う。

 しかし、心の中では、


(この男、このうるさそうな雰囲気、やはり好きになれなさそうですね)


 何てことを考えていて、これから一緒に作戦を遂行しなければならないということに、少しだけ憂鬱な気持ちになったのだった。

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