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第四十四話 捜査協力


「いやぁ、驚きました!」


 模擬戦を終えたニコラたちは、会議室でヘイムの到着を待ちながら談話をしていた。


「ニコラ様は生まれながらに不運で、よくトラブルに巻き込まれるのです」

「そうなんですね! 実感しました!」


 ギルバートは大笑いしながら、シエステラの説明を受け入れる。


 ちなみに、ギルバートたちにはニコラの不運は持ち前のもので、スキルによるものだという説明はしていない。


 聖女の加護が通用しないスキルがあるということを広く公言しないためだ。


「ですが、まさかあのタイミングで、地面にヒビが入り段差ができてしまうとは。正直、信じられませんね」


 ヘカティアも目の前で起きたことが信じがたい様子で言う。


「ああいったことはよくあるのですか?」

「まあ、そうですね」


 ニコラは遠い目をして答える。


 その表情からは、今日よりもさらにひどい状況を思い出していることが伺えた。ヘカティアは二の句が継げなくなっていた。


「ははは! ニコラさんは面白いですね! コットンさんもそう思いますよね!」

「っ!」


 ギルバートはコットンの背中を豪快に叩く。コットンは驚いたように肩を震わせた後、またシエステラの後ろへ隠れた。


(コットンさんすらも怯むとは、本当に騒がしい人ですね)


 シエステラはさりげなくコットンの頭を優しく撫でて、落ち着かせる。


 そんな様子を恨めしそうに見つめるフィーラだったが、原因となったギルバートは呑気に笑っているのを見て、苛立った視線をギルバートへ向けていた。


 そんな中、会議室に近づいてくる規則正しい足音が聞こえてきた。


 その足音が聞こえると、先ほどまでの緩やかな空気が一瞬で張り詰め、ヘカティアとギルバートがきっかりとした敬礼の姿勢を取った。


 その様子を見て、シエステラたちも、やって来たのがヘイム団長だと察する。それから程なくして、予想通りヘイムが入室した。


「シエステラ様、お待たせしてしまい、申し訳ありません」

「いいえ、こちらこそ、お忙しい中にお呼び立てして申し訳ありませんでした」


 形式的な挨拶を交わした後、シエステラとヘイムは本題に入った。


「さて、今回は聖女神教会で収集した情報について資料にまとめたものが届いたので、お持ちしました」

「これは、態々ありがとうございます」


 フィーラから渡された資料を受け取り、ヘイムが後ろに控えるヘカティアへと渡す。


「こちらの資料は、聖女神教会に寄せられた様々な情報を集めたものになります。個人を特定する情報は伏せていますが、情報量はかなりの量があるはずです」


 フィーラが資料について説明した。


 聖女神教会には、市民からの様々な情報がもたらされる。噂話から各業界の裏話まで、真偽不明なものまで集めれば、その情報の多さは騎士団を遥かに凌駕する。


 その情報が外部の機関に提供されることは稀だが、今回はシエステラが関係するということで、特例として許されたのだった。


「これだけの情報提供を。本当にありがとうございます」


 ヘイムは深々と頭を下げ、丁重に感謝の意を伝えた。


「今回の資料で、何か突破口が見つかれば良いのですが」

「これだけの情報があれば、すぐに突破口なんて見つかりますよ!」


 シエステラの憂いの言葉に、ギルバートが被せるように能天気なことを言う。


「ギルバート。自信があるのは結構だが、適当なことを言うな」

「いやいや、ヘカティアさん。これだけの情報をもらったのに、何も成果が出せないなんて、騎士団の名が廃りますよ!」


 ギルバートが力強く言う。

 その発言だけを聞けば心強いのだが、どうしてもギルバートの雰囲気に引っ張られ、素直に信用することができなかった。


 ヘカティアは、頭痛を訴えるように眉間を指で押さえ、深く溜息を漏らした。


「とにかく、今回いただいた資料を基に、我々も全力を尽くします。シエステラ様、どうか引き続き、教会からの情報連携をお願いいたします」


 そんなギルバートたちを横目に、ヘイムが締めくくった。


「もちろんです。我々も全力で協力させていただきます」


 シエステラは固くそう約束した。



 ヘイムとの話が終わり、シエステラたちが部屋を出ようとした時、ふと思い出したようにヘカティアが声をかける。


「そういえば、シエステラ様。最近、この辺りで通り魔が現れるとの噂がありますので、ご注意ください」

「通り魔が?」


 シエステラは驚いたように振り向く。


「はい。我々も警備を強化しているのですが、神出鬼没でまだ捕まっていません。死者が出ていないのが救いですが」


(なるほど、それが原因だったのですね)


 シエステラは町を散策していた時の殺伐とした雰囲気を思い出していた。


 警戒する騎士たちは、通り魔の調査をしていたのだろう。フィーラも同じように考えていたようで、神妙な表情を浮かべていた。


「そうですか。わかりました、気を付けますね」

「シエステラ様! もしよろしければ、護衛としてご一緒しますか! 自分、絶対にお役に立てると思うんです!」

「え……」


 ギルバートのけたたましい提案が轟く。


 シエステラは一瞬言葉を失い、フィーラはギルバートを睨みつけた。ニコラが助け船を出そうと、また一歩前に出た。


「ギルバートさん。事件の調査があるんじゃないですか?」

「あ、そうでした!」


 ギルバートはガクッと肩を落とし、しょんぼりとした表情になる。


(危ないところだった……!)


 シエステラは心の中で冷や汗を拭った。彼の騒がしさと前のめりな態度は、彼女にとって常にストレスの種だったからだ。


「ギルバート、まずは目の前の資料の確認を急げ」


 ヘイムが会議室の奥から声をかけ、それによってギルバートは渋々、その場に留まることになった。


「では、失礼いたします」


 シエステラは深々と一礼し、早足で会議室を後にした。廊下を歩きながら、フィーラはホッと一息つく。


「本当に、助かりました、ニコラ様」

「いや、俺は別に……」

「あの人は、本当に何を考えているのか。シエステラ様に安易に近づこうとするなんて」


 フィーラは、まだ怒りが収まらない様子でギルバートの不満を漏らす。


 その背後で、コットンは依然としてシエステラのローブの影に隠れるように歩いていた。

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