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第四十一話 面影

 一度、調査を騎士団に任せ、駐屯地を離れたシエステラたちは、ひとまず街の中を散策し、街の様子を観察していた。


「やっぱり、その変装、すごいな」


 ニコラが感心したように言う。


 シエステラは以前と同じように魔法による変装をしていた。騎士団の調査に協力するため、なるべく目立たないようにするためだ。


「ふふ、この変装がバレることはありません。完璧な変装ですから」

「そのせいでこの前は大変なことになりましたけどね」


 フィーラはジトッとした目を向ける。

 それはまさしくシエステラが人攫いグループに誘拐された時の話だった。


 あの時もシエステラは完璧な変装をして、フィーラたちの追尾を回避してしまった。それが誘拐に繋がるという大惨事は、今のシエステラの耳には痛い話だった。


 シエステラはなんとか非難の目を避けるため、話題を変える。


「うっ。そ、そういえば、町の雰囲気が少し殺伐としてませんか?」

「……そうですね」


 フィーラはシエステラに責めるような視線を向けつつも、その感想に同調した。


 町を歩くと、騎士たちが巡回をしている姿をよく見かける。騎士団が常駐している町で騎士が巡回警備をしているのは珍しいことではないが、その頻度が高すぎるように感じたのだ。


「事件の件で増強されてるんじゃないのか?」

「そうかもしれませんね。ただ、少し雰囲気が違う気もしますが」


 フィーラが納得しがたい様子で言う。


「雰囲気?」

「えぇ、騎士団の方々は調査というよりも、警戒をしているように見えます」


 騎士団がルシフル教団の殺害事件のために、聞き込み調査を行っている話は聞いていた。


 しかし、フィーラが言うように、騎士たちは聞き込みをするよりも、怪しい人物がいないかを鋭い目付きで見ていたり、人目のない場所を警戒しているようだった。


「そう言われれば確かに」

「もしかしたら、ルシフル教団の件以外にも、何か事件があったのか知れませんね」


 シエステラはそんな光景に眉を潜めながらも、努めて明るい声を出す。


「まあ、ひとまず事件のことはヘイム様たちに任せましょう。それよりも、今は待つことしかできないので、少しだけ買い物をしませんか?」


 場の空気を変えるようにシエステラが言う。


「買い物って、何を?」

「そうですね。コットンさんの服とか」


 指摘されたコットンは、ゆっくりとシエステラを見上げた。


 今のコットンは薄汚れた服を着ていて、所々が解れている。顔や体についていた汚れは昨日のうちに綺麗にしていたが、服だけは持ち合わせがなかった。


「確かに、このままというのは」


 フィーラもそれには同意する。


 シエステラは今、騎士団の調査を手伝うため、目立たないように魔法により変装している。シエステラに気付くことは難しいだろう。


 しかし、いくら変装していたとしても、もしもの事を考えた時、コットンが薄汚れた姿のままというのは、聖女にとって都合が悪い。


 そうしてシエステラたちは、子供服の店に入っていった。


「いらっしゃいませ!」


 元気な声の店員に迎えられながら、シエステラたちは店の中を見て回る。


「これなんてどうですか?」

「……シエステラ様。それは何のキャラクターですか?」

「え? うーん。わかりませんが、可愛いでしょう?」


 シエステラが出してきたのは、よくわからないキャラクターが描かれた服だった。魔物をモチーフにしたのかと言いたくなるような、奇妙なデザインの服だ。


 流石のフィーラも、それには眉を潜める。


 反応の悪さに気付いたのか、シエステラは不満げな顔で引き下がる。小さく「絶対可愛いのに」というシエステラの声が悲しく消えていった。


「お。これはどうだ?」

「……あぁ、それなら、まあ」


 今度はニコラが持ってきた。今度の服は特別悪くもなく、良くもなく、無難な服だった。

 しかし、この町ではなるべく目立ちたくないシエステラたちにとっては、むしろそのくらいの服の方がいいだろう。


 フィーラの反応にニコラがホッとして、コットンの体格と服のサイズを見る。が、コットンに合うサイズは売り切れていた。


「めっちゃでかいやつか小さいやつしかない」

「……はぁ、最初にそれを確認してください。まあ、ニコラ様が欲しい物を見つけるのは不可能かもしれませんが」


 ニコラのスキル『不運』の前では、欲しい商品が手に入るということは稀である。絶対に手に入らないというわけではないが、九割くらいの確率で手に入らない。


 シエステラのセンスは信用できず、ニコラは不運のせいで、例え良いデザインのものを見つけても、手に入れることは難しい。


 仕方なくフィーラは、コットン用の服を探すのだった。


「あなたには、あまり派手なものは似合わなそうですね」


 フィーラはコットンと視線を合わす。屈んだフィーラと同じくらいの背丈のコットンは、無感情な瞳でフィーラを見つめていた。


 何とも言えない不気味な雰囲気だが、何を考えているかわからないというより、何も考えていない。いや、何も考えられないような表情だ。


(シーラの言う通り、自由意思はないように見えますね。まだ完全に信じることはできませんが)


 フィーラの警戒は緩んでいない。


 しかし、ふと無感情なコットンの瞳が、昔のシエステラと重なった。



『私は、聖女ですから』


 光の失った瞳を持つシエステラ。

 それはフィーラとシエステラが出会ってから、しばらく経った頃の話だった。

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