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第三十一話 聖女の加護は強くなり

 ルシフル教団の魔の手を退けてから、シエステラたちはミシェルたちの元へと帰ってきた。


 ルーシィは気絶したままだったが、神官たちによって無事に家まで送り届けられていた。外には護衛の神官たちがおり、ミシェルたちを守っている。


 帰ってきたシエステラを見た神官たちは、まるで最初からそこにいなかったかのように音もなく姿を消した。


 家に入ると、ミシェルがソワソワした様子で玄関をグルグルと回っていた。

 そして、傷だらけのシエステラたちを見た瞬間、ミシェルは泣きそうな顔で抱きついてきた。


 その表情は安堵に溢れていたが、いつもの強気な表情は崩さない中途半端な意地が見えた。


 それからシエステラたちは、ルーシィの様子を見ていたガットにも事情を説明し、今回の事件が終わりを向かえたことを伝えたのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


「ということなので、今回の件はニコラ様のせいではなく、私が原因でした。皆さんには本当にご迷惑をおかけしました」

「そ、そんな、聖女様。お顔をお上げください」


 頭を下げるシエステラに、ガットは恐縮してしまう。


「悪いのはルシフル教団の方ではありませんか。シエステラ様たちは、ルーシィを助けてくださいました」

「いえ、ですが、私たちがここにいなければ、こんなことは起こりませんでした」


 シエステラは神妙な顔で言った。


 今回のルシフル教団の行動は、シエステラを狙った陰謀の一部だった。ルーシィはそれに巻き込まれたに過ぎない。


 シエステラに連なってフィーラも深々と頭を下げ、ニコラも続く。恐縮するガットの少し後ろからミシェルが顔を覗かせた。


 その顔は苛立ちと不安、そして、葛藤が入り交じる複雑な表情だった。


「あんたのせいで、ルーシィがあんな目に遭ったの?」

「はい」


 シエステラは一切の言い訳をせず受け入れる。

 ミシェルは真っ直ぐにシエステラを見て、手を振り上げた。そして、勢いよくシエステラの頬へと振り下ろす。


 フィーラが微かに動きそうになるが、なんとか踏みとどまり、シエステラはただそれを待っていた。

 しかし、ミシェルの手はシエステラの頬の寸前で止まり、そこからゆっくりと頬に当てる。


 ミシェルは悔しそうにしながら、歯噛みしていた。


「わかってんのよ。あんたが悪いわけじゃないって。でも、そんなに簡単に受け入れられないの。だから、一週間、床掃除で許してあげるわ」

「なっ! 聖女様になんてことをっ!」


 フィーラが異議を唱えようとしたが、シエステラがそれを手で制する。そして、ミシェルに微笑みかけた。


「寛大なお心遣い、痛み入ります」


 ミシェルはシエステラのすべてを悟ったような笑みに苛立ったように口を尖らせる。


「ルーシィにも、ちゃんと謝りなさいよ」

「えぇ、もちろんです」

「ん、んぅ?」


 と、そこでちょうどよくルーシィが目を覚ました。ルーシィはボーッと辺りを見渡して、ハッとしたように起き上がった。


「わ、私、どうしてっ!」

「落ち着いて、ルーシィ。大丈夫よ。こいつらが全部解決してくれたわ」

「え? え?」


 それからシエステラたちは、ルーシィにも事情を説明した。ルーシィは自分が誘拐されたということを改めて聞かされ、動揺する。


 しかし、もう脅威はなくなったということを聞くと、少しだけ安心したように身体の力が抜けたようだった。


「ルーシィさん。この度は私のせいでご迷惑をお掛けして、申し訳ありませんでした」

「い、いいえ! そ、んな、シエステラ様のせいじゃありませんよ!」

「そんなこと言ってないで、一言ぐらい何か言ってやんなさいよ」


 おどおどしたままのルーシィに、ミシェルが焚き付ける。しかし、ルーシィはそんなミシェルにもう、と言うだけだった。


 しかし、それからすぐルーシィは不安そうに顔を伏せる。


「ルーシィ?」


 シエステラが声をかけると、ルーシィは悲しそうに眉を歪めていた。


「もしかして、出ていってしまうのですか?」


 ルーシィの声は震えていた。

 今回の事件に責任を感じて、シエステラが宿を出ていってしまうのではないかと。


 しかしそれは、ルーシィの杞憂だった。


「いえ、もう少しいますよ。ミシェルさんに一週間の床掃除を命令されましたからね」

「え? お、お姉ちゃん!」

「ふん! よかったじゃない。もう少しここにいるって言ってんだから」


 ミシェルは得意気に言う。ルーシィは恐れ多いという顔をしていたが、シエステラは微笑ましくそれを眺めていた。


 ◇◇◇◇◇◇


「それはそうと、ニコラ様」

「ん? どうした?」


 リビングに戻り、やっと一段落ついたかと思った頃、やや興奮した様子でシエステラがニコラに話しかけた。


 いつもよりも前のめりな雰囲気に、ニコラは少しだけ身を引いてしまう。


 しかしそんなことなど気にも止めず、シエステラは話を続けた。


「今回の事件で、私は新たに女神様の力を手に入れたのです」

「あ、あぁ、そういえばそうだったな」


 女神の力。それは今回のシエステラたちの旅における目的だった。


 元々はネフィリウムの泉にあると予想していた女神の力を求めたものだったが、魔神との遭遇の結果、女神の力を吸収することができた。


「シエステラ様。お加減はどうですか?」

「好調です。いつもと変わりません。が、以前よりも女神様の力をより強く感じます」


 いつもと変わらない。その言葉にフィーラとニコラが少しだか表情に陰りを落とす。が、シエステラの嬉々とした雰囲気に、何も言えなくなってしまう。


 シエステラはものすごく勝ち誇ったような、満足げな笑みを浮かべている。


「ふふ、一時はどうなるかと思いましたが、期せずして、私はさらに女神様に近付いたのです」

「ということは、まさか?」


 フィーラがハッとする。

 それにシエステラはニヤッと笑った。


「えぇ、これだけの力があれば、ニコラ様のスキル『不運』も消し去ることが可能なはずです!」


 シエステラが女神の力を欲したのは、聖女の力を高め、ニコラのスキル『不運』を打ち負かし、自分の力を証明するためだった。


 そして、その準備が整った。


「さぁ、お見せしましょう。本当の聖女の加護というものを」


 そうしてシエステラの体を光が包み込む。それは以前に見た時よりも、遥かに美しく、厳かな光だった。ニコラはそれを少しだけ物寂しそうに見つめる。


(そっか。そうなると、この旅も終わりか。いや、魔王が復活した時のために協力するって話だったけど、それでも、なんとなく寂しいな)


 この旅が始まった経緯を思いだし、物思いに更ける。それもまた、シエステラの嬉しそうな笑顔で吹っ切れてしまったが。


(まあ、まだシエステラたちとの関係は終わらないし、いっか)


 ニコラはシエステラたちとのこれからも続く縁を思い浮かべながら、シエステラの加護を受け入れた。


「さぁ、与えましょう。あなたに聖女の加護を」


 目映い光がニコラを包み込む。

 確かな気配はあった。


 気がした。

 

 しかし、なんとなく嫌な結果を想像し、シエステラとニコラは、少しだけ目を泳がせた。


「シエステラ様。どうでしたか?」

「え? えーっと」


 シエステラが何かを言うよりも前に、リビングの扉が開いた。


「もう、ルーシィ。まだ休んでなさいって言ったでしょ!」

「大丈夫だよ、お姉ちゃん。もう体も動くし」


 ルーシィとミシェルが部屋へと入ってくる。元気な二人の様子は微笑ましい光景だが、その光景に若干の既視感を覚えたのは、シエステラだけではなかった。


 ルーシィは熱いお茶の入ったお盆を持っている。そして、ルーシィはミシェルと話していて、きちんと前を向いていない。


 瞬間、シエステラは手を伸ばした。

 しかし、遅かった。


「あっ!」


 ルーシィが何かに躓き体勢を崩す。咄嗟にミシェルが支えるが、お盆は引っくり返って熱いお茶が宙を舞う。


 スローモーションで飛んでいくお茶は、吸い寄せられるようにニコラの頭上へ。

 シエステラは限界まで手を伸ばしてお茶を掴む。それがニコラにかからないよう。


「おぉ! 流石はシエステラ」

「えぇ。って、きゃあ!」

「え? ふべぇ!」


 なんとかお茶を掴んだシエステラだったが、それしか見ていなかったシエステラの膝が、見事にニコラの顔にクリーンヒットする。ニコラはそのまま倒れ込んだ。


「ぐおっ。くっ」


 大したダメージではなかったが、突然の衝撃にニコラは目を閉じる。そして、ゆっくりとそれを開くと、そこは薄暗く、何かに覆われているようだった。


「ん? これは?」

「なっ! なっ!」


 フィーラがワナワナと震える。


 どういう状況なのか、シエステラとニコラは一瞬わからなかったが、すぐにその状況が鮮明にわかった。


 わかってしまった。


「……白」

「っ!」


 ニコラの眼前に広がっているのは、シエステラのスカートの中身だった。


 シエステラはすぐに後ろに飛び退くが、ニコラの頭に残った映像は消えない。


 シエステラは泣きそうな顔でうつむく。ニコラは気まずそうに目をそらしたが、その後ろで禍々しいオーラが渦巻いていることに気づいた。


「あぁ、えぇ、えぇ、なるほど。ラッキースケベですか。とてもラッキーですねぇ。聖女の加護はきちんと作用しているようですね」

「ちょっ、こんなのが聖女の加護の効果なわけないでしょ!」


 シエステラが顔を真っ赤にして抗議するが、フィーラは聞く耳を持たない。


「ちょっ、待った! フィーラさん、待った。見てない。俺は何も見てないっ!」

「問答無用!」

「ぎゃあぁぁぁ!」

「ちょっ、暴れるなら、外でやって!」

「ああぁ、ご、ごめんなさい! 私のせいで」


 混沌に包まれるリビング。下着を見られたシエステラは、羞恥に唇を結び、顔が燃えそうだった。この瞬間だけは、身体の痛みすらも、本当に忘れてしまいそうで。


(忘れません! この屈辱忘れませんよ! 今度こそ、もっともっと女神の力を手に入れて、絶対にそのスキルに打ち勝って見せますから!)


これで第一幕が終了となります。ここまで読んでいただきありがとうございました。


次回からは第二幕が始まります。少し準備の時間をいただきたいと思いますので、ご了承ください。


また、感想などいただければ励みになりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
途中からニコラがヒロインに見えてきました(笑) ニコラをお姫様抱っこしてる雄々しいシエステラ様の絵が浮かんでしまいます……「私が貴方を幸福にします!」って勇者のプロポーズのような(笑) シエステラ様の…
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