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第二十五話 見えざる敵

 フィーラたちは晴れた空の真下までやってきた。


 そこは人通りの多い繁華街だ。

 他の場所とは違い、雨も降っていないため今でも人が多い。


 そんな中、少し奥まった所にポツリと寂れた建物があった。人が隠れるには丁度いい建物にフィーラが目を付ける。


 神官たちを周りに潜ませ、フィーラと数人の神官たちが建物の中へ侵入した。


「どうやら、当たりのようですね」


 そこには殺気を放つ人の気配があった。


 フィーラは槍を構えて気配の先を探る。しかし、相手はかなりの手練れのようで、何処にいるのかはわからない。


「数は一人。ですが、かなりの強者ですね」


 フィーラが神経を集中する。無音の時が流れ、フィーラが足を一歩を前に出した。


 その瞬間、


「っ!」


 ギィィンと金属音が鳴り響いた。


 フィーラの振り抜いた槍が何者かのナイフを弾き返し、地面に突き刺さる。飛んできた方向を見るが、そこには闇が広がるだけ。


 フィーラはすぐさまそこへ飛び出すが、やはりそこには誰もいなかった。


「逃げられた? いや、まだいる!」


 今度は後ろからナイフが飛んできて、フィーラはそれを紙一重でかわす。


「ヒュウ、やるねぇ」

「はあぁぁ!」


 微かに聞こえた声の先へ槍を突き抜く。が、それも風を切るだけ。しかし、ナイフは四方八方から飛んできた。


 フィーラは槍を回転させて、それらを全て弾き返すが、見えない相手に翻弄され、身動きが取れない。


 しかも、狙われているのはフィーラだけでなかった。同じく建物へと入ってきた神官たちにもナイフが飛んでくる。


「きゃあぁ!」

「うわっ!」


 何処から飛んでくるかわからないナイフに、神官たちも翻弄される。


「くっ。ここはいいから、あなたたちはルーシィさんの捜索を!」

「し、しかし!」

「早く行きなさい!」


 叫ぶフィーラに神官たちは躊躇しながらも建物の中へ散らばっていった。


 神官たちを追撃するように投げられたナイフをフィーラが防ぎ、入り口を塞ぐ。


「ひひ、一人でなんとかなると思ってるのか?」


 不気味な声は反響するように聞こえてきて、何処からの声かもわからない。


 フィーラは槍を構え、ナイフが飛んでくる方向にのみに集中する。


 感覚を研ぎ澄まし、微かな物音に身体が反応した。死角から飛んできたナイフを弾き、即座にその先へ槍を投擲する。


 当たった感覚はなかったが、それはフィーラの想定内。魔法で槍を操り、そこからフィーラを中心に一回転し、建物全体をなぎ払う。


「うおっ!」

「そこかっ!」


 円形に壁を削り取りながら、微かな感覚に相手の存在を感じとる。逃げられるよりも先に飛び込むと、そこに確かな気配があった。


「今度こそ逃がさない」


 フィーラの槍が手元に戻り、目の前の相手に突き向けられる。


「はっはぁ。やるなぁ」


 槍とナイフが交差する。そこでフィーラは初めて相手の姿を視界に捉えた。それはマスクで顔を隠した男だった。


 槍とナイフの刃が交わる。睨み合う中で、フィーラが皮肉っぽく言葉を投げる。


「姑息な戦い方が得意なのですね」

「その方が効率がいいんでね」


 マスクの男は何かを投げる。

 フィーラは咄嗟にそれを槍で切り落としたが、そこから煙が立ち上ぼり、マスクの男の姿を見失ってしまった。


「つくづく面倒臭いですね」

「真っ正面から戦う意味がないだろ?」


 声だけでは、マスクの男の位置は掴めない。気配はあるはずなのに、マスクの男を捉えることはできなかった。


 不思議な感覚にフィーラはある予想をした。


「姿を隠す系統のスキルですか」

「お、よくわかったな」


 マスクの男は嬉々とした声を出す。


 飄々とした雰囲気にフィーラは苛立ちながら、男の行方を探る。しかし、どう探ってもマスクの男の位置は掴めなかった。


 右からのナイフ、左からのナイフ。

 上から、また右から。


 予測の付かないナイフの軌道に、フィーラは防戦一方だった。


(スキルの種類はわかりましたが、具体的にどういうスキルなのか。さっきは姿が見えましたし、姿を消すスキルではないはずですが)


 日の光も入らない薄暗い建物。音も反響し、正確な位置を掴めない。


 しかも、マスクの男はナイフの投擲しかしてこないため、気付いた時にはすでに移動済みで、攻撃から位置を予測するのも困難だった。


(さっきの攻撃も、もう通用しなさそうですし)


 マスクの男は先ほどの槍による高範囲攻撃を警戒しているようで、横だけでなく縦にも移動し、立体的に動いているようだった。


 攻撃の方向が増え、フィーラはさらに追い込まれていく。


 しかし、遠距離からの攻撃は、フィーラを確実に仕留めることはできない。

 近距離とは違い、攻撃が届くまでに時間があるため、マスクの男のナイフがフィーラに届くことはなかった。


 何度も何度も続けられるナイフの投擲に、フィーラは嫌な予感を覚える。


(私を仕留めるつもりならこんなことを続ける理由がありません。もしやこれは単なる時間稼ぎ?)



『ルシフル教団は今のうちに逃げる準備をしているのでは?』



 フィーラは、ルーシィを探している時のテスラの言葉を思い出していた。


(逃げる準備? いえ、それだけのためにルーシィさんを誘拐するとは思えない)


 神官たちがルシフル教団を調べていた時、フィーラたちはまだルシフル教団の居場所さえ掴めていなかった。


 ただ逃げるだけならば、ルーシィの誘拐などしなくとも簡単にできただろう。人一人を誘拐する手間をかける必要がない。


(それなら、何が目的? ルーシィさんを誘拐することで何が起きた? 神官が一時的にルシフル教団の調査を止めた。でも、これは一時的なものでしかない。それにどんな意味が……)


 そこまで考えて、フィーラは一つの推論を導きだした。


(もし、その一時的な時間だけでも欲しかったのだとしたら、ルシフル教団はその一瞬で自分たちの拠点がバレてしまうような大きなことをするつもりってこと?)


 フィーラの背筋に冷たいものが走った。


「まさか、本当の狙いはシエステラ様?」


 思わず声に漏れた瞬間、マスクの男が飛び出してきた。


 さっきまでの遠巻きな攻撃ではない。防御を無視し、フィーラに考える暇を与えないような苛烈な攻撃だ。


「くっ。邪魔ですね」

「それが任務だからな」

「やはり、時間稼ぎですか」

「今さら気付いても、もう遅いぞ?」


 マスクの男が嘲笑う。

 その時。


「な、何!」


 地面が大きく揺れた。槍で身体を支え、何とか耐えるが、大きな地震は町全体に響いているようだった。


「これは?」

「ははは。動き出したか」


 マスクの男は勝ち誇ったように笑う。


「何ですか、これは?」

「教えると思うか?」

「くっ、このっ!」


 フィーラは男を追い込む。しかし、すぐにその姿は闇に消えてしまった。露骨な時間稼ぎにフィーラは奥歯を噛み締める。


「はっはぁ。あんなガキのために、聖女様をほっぽるなんて、神官失格なんじゃないか?」

「あなたに私の決意の意味が理解できるはずないでしょう」


 言葉を投げても、相手は見えない。気配は感じるのに、相手の場所を掴めない。霧を探るような感覚に、フィーラは焦っていた。


(このままでは、シーラに危険が)


 フィーラは焦りのままに槍を振るう。しかし、その隙は相手にとって格好の的だった。


「ぐうっ!」


 フィーラの肩にナイフが刺さる。熱を帯びる肩にフィーラは喘ぎを漏らした。しかし、抜く暇もなく、次なるナイフが飛んでくる。


 気付いた時には目の前に迫るナイフに、フィーラは下がることしかできない。


(せめて、相手のスキルがわかれば)


 フィーラはシエステラ程、スキルに詳しいわけではない。姿を眩ませるスキルの存在は知っていても、それがどういう理屈なのか、知らないことも多い。


 そして、スキルを持つ者を相手にする時には、それは致命的なハンデだった。


「さて、そろそろ終わりにしようか」


 不穏な声が聞こえてくる。その声に乗った気配は、フィーラの後ろからだった。

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