第二十三話 行方不明のルーシィ
「ルーシィさん! どこにいるんですかーっ!」
「ルーシィ! 返事をして!」
シエステラたちは町の中を大声を出しながら走り回っていた。
探しているのはもちろんルーシィだ。
シエステラたちと一緒に帰ってきたはずのルーシィだったが、シエステラたちがニコラに気を取られている内に行方不明になってしまった。
「ねぇ、ルーシィを見なかった?」
「え? いや、見てないけど」
「ねぇ、ルーシィ知らない?」
「いや、わからねぇな」
町の人々に聞いても、ルーシィを見た人間はいなかった。何処を探しても見つからず、ミシェルはどんどん顔を青ざめていく。
「どういうこと? 何処に行ったのよ! ルーシィ! ルーシィィィ!」
ミシェルは焦りのせいで周りが見えなくなっていて、人にぶつかりながら、ただ宛てもなく走り続ける。声が枯れるのも関係なく、ただ大声を上げて。
だが、そんなことをしても、ルーシィは見つからなかった。
人混みに紛れてしまいそうなミシェルを、シエステラが腕を付かんで引き留めようとする。
「ミシェルさん。一度、落ち着いてください」
「落ち着いてられるわけないでしょ!」
ミシェルはそれを振り払おうとするが、シエステラは決して離さなかった。
「気持ちはわかります。ですが、焦っても何も解決しません。ルーシィさんは私が必ず見つけてみせます。だから、少しだけ落ち着いてください」
シエステラが真剣な眼差しでミシェルを見つめる。ミシェルは泣きそうな顔でシエステラを見返して、やっと抵抗をやめた。
「ルーシィ。何処に行ったのよ」
「わかりません。ですが、ルーシィさんは意味もなく、私たちを心配させるような子ではありません。となると、何か事件に巻き込まれた可能性が高いです」
シエステラの推測に、ミシェルはさらに顔を歪めた。
「だったらやっぱり、早く見つけないと」
「わかっています。ですが、闇雲に探しても意味はありません」
「でも、でも……」
頭だわかっていても動かずにはいられない。
ミシェルは頭がぐちゃぐちゃになりそうだった。
「ミシェルさんの心配な気持ち、わかります。大丈夫。必ず、私が助け出しますから」
シエステラはミシェルを優しく抱き締めた。ミシェルをされるがまま、シエステラの服を強く掴む。
そうして、ほんの少しだけ、ミシェルは落ち着きを取り戻した。
「シエステラです。そちらはどうですか?」
そんな中、シエステラが耳に手を当てて何かを聞いていた。
それは魔法による通信だ。
シエステラはその先にいるフィーラからの情報に頷き、返事をする。
「わかりました。すぐに戻ります。ミシェル」
シエステラがミシェルを呼ぶ。ミシェルは縋るようにシエステラを見上げた。
「一度、家に戻りましょう。作戦会議です」
◇◇◇◇◇◇
「ルーシィさんの行方は掴めていませんが、町の外に待機していた神官たちの話では、怪しい人物はこの町を出た形跡はないとのことでした」
シエステラに遣える神官たちは、陰ながらサポートをするために町の外にも控えている。
その具体的な数はシエステラも認識していなかったが、フィーラが言うには、かなりの数が動いているらしい。
そして、その神官たちはシエステラの危険を未然に防ぐためにあらゆる調査を進めていた。
その中には、シエステラが誘拐される可能性も含まれており、町を出る隠れたルートがないかも調べ尽くされていた。
その結果、この町には秘密のルートがないとの結論が出ていた。
つまり、見張っていた神官たちの目を掻い潜って町の外に出ることはほぼ不可能ということを意味している。
「よって、ルーシィさんは、まだこの町にいる可能性が高いです」
「組織的な犯行ですか?」
「いいえ、少なくとも実行犯は単独でしょう。私たちが家に入ってからミシェルさんが来るまで、それ程の時間はありませんでしたから」
「なるほど。大人数ではそこまで素早く犯行はできないと?」
「そうなります」
シエステラとフィーラは迅速に結論を導く。
「わかりました。ここに来ている神官の皆さんを全員を動員してもいいので、すぐにルーシィさんの捜索を始めてください」
「承知いたしました」
フィーラは懐から小さな石のようなものを取り出し、それに口を当てる。
これは魔法により作られた道具、魔法具だ。
魔法具は高価である代わりに魔法を持たない者でも魔法に近い力を使うことができ、かつ安定した効果を持っている。
今回の魔法具は遠くに離れた人物との会話を可能とするもので、同時に複数の人間へ連絡することができる貴重な魔法具だった。
「緊急事態発生。緊急事態発生。最優先事項を変更。行方不明者の捜索を開始する。行方不明者の情報を送る。捜索区域の割り振りは各エリアの班長に任せます。私は総指揮に当たりますので、何かあればすぐに報せること。以上」
フィーラの簡潔な説明に、魔法具の奥から了解の声が聞こえてきた。
「シエステラ様。私も動きます。どうか、お気をつけてください」
「えぇ、よろしくお願いします」
本来、シエステラの護衛であるフィーラがシエステラの元を離れることは禁止されているが、今回はシエステラからの命令ということで、免除されている。
目の前で行われるやり取りも、ミシェルは他人事のように眺めることしかできなかった。
「ミシェル! 大丈夫か?」
「お祖父ちゃん」
ニコラと共にルーシィを探していたガットも帰ってきた。
「悪い。何の情報もなかった」
ニコラは申し訳なさそうに言う。
「いえ、私たちも同じです。とりあえず今の状況を説明しましょう」
それからシエステラは、ニコラとガットにシエステラの神官たちを動員し、ルーシィの捜索を開始していることを説明した。
◇◇◇◇◇◇
「そうでしたか。本当にありがとうございます」
「いえ、お礼を言われることではありません。とにかく今は、早くルーシィさんを見つけないと」
「そう、ですね」
ガットは崩れ落ちるように椅子へ座った。
「どうして、こんな、ことに」
頭を抱え項垂れるガットに、ミシェルもしがみつくように近寄る。疲れ果てた様子の二人に、ニコラは歯痒そうにシエステラに尋ねた。
「やっぱり俺も、捜索に参加した方が……」
「残念ですが、ニコラ様では無駄でしょう。更なる不運が起きる可能性すらあります」
「それは、くっ」
ニコラは血が滲む程、唇を噛み締めた。そんなニコラにシエステラも悔しい思いを抱えながら、フィーラの報告を待った。




