第二十一話 お買い物
「来週はミシェルさんの誕生日なのですか?」
「そうなんです! だから、プレゼントを買いに行きたくて」
ルーシィが目を輝かせてシエステラに言う。
夕食を終えた後、シエステラはルーシィに、相談があると、部屋に呼ばれていた。ちなみにフィーラは後片付けのため、ここにはいない。
ルーシィの相談というのは、ミシェルの誕生日プレゼントの相談だった。
「それは良い考えですね。何を買うつもりなのですか?」
「私はいつもアクセサリーをプレゼントしています。お姉ちゃんのスキルにも使えるので」
「あぁ、なるほど」
ミシェルのスキル『隠れ蓑』。これは、ミシェルの気配を他の物に移すことが可能だ。
その特性上、気配を移す物が目立つものであればある程、効果が高まる傾向にあった。
(場合によっては、不審者から逃げる時にも使えますし、悪くないですね)
ルーシィの意図を理解し、シエステラは納得した。
「いつもはお祖父様に選んでもらうんですが、お姉ちゃんの好みに合わせるのは難しくて。何でも喜んではくれるんですけど」
「そうですね。ルーシィさんの選んだものなら、それだけでミシェルさんは喜びそうですが」
「でも、それじゃあ嫌なんです。もっと本当に喜んでほしくて」
ルーシィは興奮した様子で言う。
「お姉ちゃんはいつも、私のことを助けてくれるから、私もお姉ちゃんにお返ししたくて」
「なるほど。そうだったんですね」
シエステラは優しく微笑んだ。
「私は何をお手伝いすればよろしいですか?」
「あ、えっと、シエステラ様なら色んなアクセサリーのことを知っているかなと思って、アドバイスが欲しいんです」
ルーシィの目線の先にあるのは、シエステラが身に付けているアクセサリーだ。
シエステラはあまりアクセサリーは身に付ける方ではなく、派手なものも好きではない。
しかし、ワンポイントで身に付けているアクセサリーは最高級の職人が手作りしたもので、素朴ながらも重厚な雰囲気のあるものだった。
それに限らず、式典の時にはその場にあったアクセサリーや宝石を身に付けることもあり、装飾品にはそれなりの知識がある。
(まあ確かに。そういうセンスには自信がありますけどね)
ルーシィに頼られている状況に、シエステラは少し舞い上がっていた。
「わかりました。そういうことなら、手伝いましょう」
「ありがとうございます!」
そうして次の休日、シエステラとフィーラ、ルーシィは街へ買い物に出掛けていた。
ミシェルには普通の買い物と伝えており、家でニコラと共に留守番してもらっている。
(ニコラの不運が少し不安ですが、まあ、大事にはならないでしょう)
「シエステラ様、こっちです」
「はいはい、今行きますよ」
ルーシィははしゃいだ様子で店内へと入る。
ルーシィたちがやってきたのは、ミシェルもよく利用する雑貨店だ。
シエステラがアドバイスをすると言っても、予算はルーシィの財布の中身だ。
そんなに高いものは買うことができないため、いつもの雑貨店で探すことにしたのだった。
「へー、結構、色んな物があるのですね」
小さな雑貨店だが品揃えは良く、少し見るだけでも気になるアクセサリーが目に入った。
「これ、シエステラ様に似合いそう」
フィーラはうっとりとした表情で、小さな宝石のついたネックレスを見ていた。
「シエステラ様がこのネックレスを付けて人前に出る。ふひひ、悪くないですね」
何か良からぬ妄想をしているフィーラに、シエステラは少しだけ引いた目をしていた。関わらないように避けて、シエステラはルーシィの元へと向かう。
ルーシィは様々なアクセサリーが並ぶ棚の前で真剣に物を選んでいた。
「何か気になるものはありますか?」
「あ、シエステラ。えっと、お姉ちゃんはあまり派手なものは好きじゃないんです。でも、スキル的には目立つものが良くて」
「そうですね。なら、こういったのは?」
そうしてシエステラが選んだのは、リングの付いたネックレスだった。
「これならパッと見は素朴ですが、目に止まると思いますよ」
「本当ですね。これなら、すごく良いかも」
ルーシィは目を輝かせてネックレスを手に取った。そして、光に透かしたり、自分で付けてみたりと吟味する。やがてルーシィは、嬉しそうにシエステラを見上げた。
「これにします。あとはどんな色にしようかな」
「ふふ、色んな物がありますよ」
銀色や淡いピンクのリングなど、色んな種類のリングを見比べながら、ルーシィは真剣にプレゼントを選んでいる。
そんな光景を微笑ましく眺めていたシエステラだったが、ふとあることを思い付いた。
(そうだ。どうせなら私もミシェルさんにプレゼントをしましょう。でも、ミシェルさんは私のプレゼントを素直に受け取らなそうだし、少し趣向を変えて……)
シエステラはニヤリと笑い、ルーシィが選んだネックレスに聖女の加護を付与した。
◇◇◇◇◇◇
それからシエステラたちは帰路へと付いた。
お目当てのプレゼントを買えたルーシィは、ウキウキとした様子で軽快に歩いている。
その姿を見るだけで、何か良いことがあったのかと勘繰られそうな勢いだが、それも悪くないとシエステラとフィーラは黙ったまま苦笑いを浮かべていた。
そして、ルーシィが玄関の扉を開ける。
「ただいま、お姉ちゃん。っ! えっ!」
その瞬間、ルーシィが固まったように言葉を飲んだ。
「どうかしたのですか? ルーシィさ、え?」
少し遅れてシエステラも中を覗くと、そこには散乱した家具が床一杯に落ちていた。
何者かに荒らされたような光景に、シエステラはすぐにルーシィを後ろへ庇う。
「すぐに確認します!」
そして、フィーラは中の様子を調べるために家の中へと入っていった。
「お、お姉ちゃん、お祖父様」
あまりの光景にルーシィの声は震えていた。
「大丈夫ですよ。ニコラ様がいますから」
シエステラはルーシィを落ち着かせるためなるべく優しく声をかける。しかし、その心中は穏やかではなかった。
(これだけ荒らされているのに、ミシェルさんやガットさんの声が聞こえない。まさか)
最悪のケースを想像し、シエステラは唇を噛み締める。
「ニコラ様っ!」
そんな中、悲鳴に近いフィーラの声が響いた。
シエステラは咄嗟にニコラの死を想像し、慌てて家の中へと走っていった。
「ルーシィさんはここで待っていてください!」
「え? あ、は、はい!」
声が聞こえてきたのはリビング。
シエステラが中へ入ると、そこには他と同じような物が散らばっており、奥にいるフィーラの側には信じられない光景があった。。
「そ、そんな、ニ、ニコラ様っ!」
そこには、倒れた棚の下敷きになり動かないニコラの姿があった。




