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第十七話 ドラゴンとの戦い。決着

「はあぁぁぁ!」


 上半身裸のニコラがドラゴンに殴りかかる。


 武器を持たず、身一つで突っ込んでくるニコラに、ドラゴンは一瞬驚いている様子を見せながらも真っ正面から迎え撃ってきた。


「ニコラ様、援護します!」

「助かる!」


 ドラゴンの牙が迫る中、シエステラは魔法の壁を作り出した。

 ニコラはそれを足場にして方向を変え、ドラゴンの攻撃を避ける。


 そしてすかさずドラゴンの顎に強烈な一撃を打ち込んだ。


「ガフッ」


 微かに息を漏らし、のけ反ったドラゴンだったが、すぐに体勢を立て直し尻尾を振るった。


「うおっ!」


 的確に腹を狙った一撃がニコラを襲う。壁に叩きつけられたニコラを追撃するため、ドラゴンは翼を広げた。


「彼の者を拘束せよ。ホーリーチェーン」

「ガッ」


 しかし、シエステラは光の鎖を生み出し、ドラゴンの翼を縛り付ける。


 いきなり翼を拘束されたドラゴンは強引に暴れて鎖を外そうとするが、動けば動く程に鎖が絞まっていった。


「グッ。ガアァァァ!」


 力では外せないと悟ったドラゴンは、炎を吐いてシエステラを狙った。


「させるかっ!」

「グギャアォォ」


 そこに飛び込んだのはニコラだった。


 ドラゴンの炎を蹴り飛ばし軌道をずらす。そして、そのままドラゴンを殴り飛ばして、今度はドラゴンが壁に叩きつけられよろめいた。


「炎を蹴るなんて、どういう理屈ですか?」

「わからん。適当にやったらできた」


 簡単に物理法則を無視するニコラに、シエステラは呆れるしかなかった。


(まあ、無意識に魔法を纏ったのでしょうけど)


 そう分析しながら、シエステラはニコラの援護を続けた。


 ニコラの戦闘はあまり理性的とは言えず、どちらかと言えば、行き当たりばったりの出たとこ勝負のような戦い方だった。


 それでもあまりある身体能力のお陰で、なんとかドラゴン相手にも戦えている。


 のだが。


(流石に、適当に戦って勝てる相手ではありませんよね)


 ニコラとドラゴンの戦いは拮抗していた。

 しかし、僅かに優勢なのはドラゴンの方だ。


 ニコラの攻撃は、ドラゴンをのけ反らせることはできても、効果的なダメージは与えられていない。


 反対に、人間とは思えない強靭な体を持つニコラも、一見ドラゴンの攻撃があまり効いていないように見えるが、その実、少しずつダメージが蓄積しているようだった。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 肩で息をしているのが、その証拠だ。


(以前、ドラゴンと戦った時、なんとか追い払ったと言っていましたが、なるほど)


 以前にニコラとドラゴンが戦った情報は、シエステラにも報さられていた。


 ニコラが戦ったのはレッドドラゴンであり、ブラックドラゴン程ではないものの、気性の荒いドラゴンだった。


 そのドラゴンにニコラは勝つことはできなかったが、追い払うことには成功していた。


 それは人間目線で考えれば撃退に成功したと言ってもいいだろう。しかし、ドラゴン目線で考えれば話は変わってくる。


 幾度とない攻撃を繰り返しても、毒にも屈することなく、何度でも立ち向かってくる人間。


 ドラゴンの中でも、さらに上位の存在であるブラックドラゴンだからこそ、ニコラを徐々に追い詰めることができている。


 しかし、大抵のドラゴンであれば、ニコラへの決定打は見込めない。ドラゴンからすれば、これ程厄介極まりない存在はいないだろう。


 よっぽどの理由がなければ、相手にはしたくはないはずだ。


(これは、追い払われたというより、諦めて逃げたという方が正解でしょうね)


 ニコラと対峙したレッドドラゴンに軽く同情しながら、シエステラはブラックドラゴンを見る。


 ブラックドラゴンは尚も果敢にニコラへ攻撃を続けるが、ニコラはまだ致命的なダメージを受けていない。本来であれば、何度死んでいようと不思議ではない攻撃を受けながらも。


 感情なんてないはずの魔物に、困惑の色を確かに感じたシエステラは、とりあえず考えることをやめて、ニコラの援護に集中する。


「ニコラ様。これをお使いください」


 シエステラが手の平の上に光を集めると、それが剣の形に変わった。


 そして、実体をもった光の剣は、元々ニコラが持っていた剣に似たような姿へと変わる。


 シエステラはそれを、一度ドラゴンから距離を取ったニコラへ渡した。


「そんなこともできるのか?」

「えぇ。恐らく元のものよりも強力ですよ」


 剣を受け取ったニコラが、それを軽く振る。

 それだけでも質の違いを実感できた。


「これなら、あのドラゴンにも効きそうだな」

「グルルルルッ」


 剣を構えるニコラに、ドラゴンが唸り声を上げる。どうやら今までとは違う雰囲気を感じ取ったらしい。


 警戒するように距離を保つドラゴンは、ジリジリと隙を伺っているようだ。それはニコラも同様で、静かな時間が流れる。


 そんな中、先に動いたのはニコラだった。


「ふっ!」


 高く跳躍し、上からドラゴンを狙う。


「ガアァァァ!」


 それを迎え撃つようにドラゴンが叫び、空気が振るえた。ビリビリと肌に突き刺す咆哮を受けながらも、ニコラはドラゴンへ突っ込む。


 ドラゴンの鋭い爪が迫るが、ニコラはそれを剣で弾いた。


「これでどうだっ!」


 続けざまの攻撃を掻い潜り、ニコラはドラゴンの体を斬りつけた。さっきまでとは違い、ドラゴンに確かな傷が付いた。


「おぉ、すごっ! さっきまでまるで手応えがなかったのに、確実に効いてる」

「それはもちろん、私の作った剣ですからね」


 普通の剣であれば、ドラゴンを斬り付けても剣の方が刃こぼれしてしまう。それはニコラのスキルに関係ない。


 見た目は平凡な剣にしか見えないが、シエステラの作り出した剣は名刀と呼ぶに相応しい切れ味を誇っていた。


「グゥッ。グオォォォォン!」


 微かな呻きと咆哮が洞窟内を振動させる。


「これなら、行ける」


 ニコラが剣を構える。


 その姿は、さながら勇者だ。

 半裸なのが決まらないが。


(こういう魔法は効くのですね)


 ニコラの戦いを眺めながら、シエステラは考えていた。


(聖女の加護は効かない。でも、私の魔法が効かないというわけではない。つまりニコラは他者からの影響を受けない体質ではないということ。であるなら、どうして聖女の加護だけ効かないのでしょうか? それも不運のせい? 聖女の加護が不運と相反するものだから?)


 聖女の加護は、その人の災難や災厄を払うものである。簡単に言えば、その人の不運を払うということでもある。


 スキル『不運』と聖女の加護は正反対の位置にあるもので、相殺しあっているという可能性はある。しかし、


(それで聖女の加護が打ち消される側というのは何故っ!)


 シエステラは頭をガシガシとかきむしった。


 ニコラとドラゴンは戦いに夢中で気付いていないが、もし傍から誰かに見られていたら、かなりおかしな行動をしていると思われただろう。


 シエステラはジトリとニコラを睨む。


 シエステラの剣によりドラゴンへの有効打を手に入れたニコラは、ブラックドラゴンと対等に渡り合っている。


 その姿はまさに勇者に相応しい。

 やはり、半裸なのが決まらないが。


 その強さだけを見れば、聖女シエステラのように普通の人間とは違うと言っていいのだろう。


 普通の人間ではないから、普通の力が通用しない。それならシエステラも理解できた。


 しかし、聖女の加護は普通の力ではない。


(聖女の加護は、女神の力と同等なのですよ? それがたかがスキルに負けるなんて)


 どうしても納得いかず、シエステラは今度はドラゴンに対して女神の加護を授けた。

 ニコラには内緒で。


「食らえっ!」

「グッ!」


 ニコラの一撃がブラックドラゴンを襲う。本来ならその攻撃は、シエステラの加護によって防がれるはずだった。


 しかし、ニコラはそれを、まるで何もないかのように切り裂いた。シエステラが何かをしたなんて気付けない程、本当に呆気なく。


(これ程までに完璧に崩されると、流石に自信がなくなりそうです)


 ニコラに聖女の加護は効果がない。自分にかかるものでも、自分以外にかかったものでも。


(やはりこれは、スキル『不運』だけの問題ではないでしょうね。根本的な原因を探る必要がありそうです)


 シエステラがそんなことを考えている間に、ニコラとドラゴンの戦いは大詰めを迎えていた。


 シエステラの剣はニコラにとって最強の武器となり、ドラゴンを切り刻んでいく。


「グオオォォォォォォォォォ!」

「ぐっ」


 しかし、ドラゴンもただやられているわけではない。一瞬の隙を見逃さず、ドラゴンはニコラを吹き飛ばす。


「グルルルルッ」

「はぁ、はぁ」


 ニコラとドラゴンは、お互いに限界を向かえようとしていた。どちらも強靭な肉体を誇っているが、その身体にはすでに無数の傷ができている。


 フラフラといつ倒れてもおかしくない状況の中で、気力を振り絞りニコラが突貫する。


「これで、最後だッ!」

「ガアァァァ!」


 加速していくニコラにドラゴンの火球が迫る。


「無駄な足掻きを」


 それを華麗に避けながら、ニコラはドラゴンへとまっすぐに向かっていく。そして、目の前まで辿り着いたニコラは全力で剣を振り抜いた。


「はあぁぁっ!」

「グギッ」


 その一撃はドラゴンの首を切り裂いた。短な悲鳴を上げたドラゴンは、やがて瞳の光を失い、ゆっくりと倒れる。


 ズズゥンと地面が揺れた。完全に沈黙したドラゴンに、ニコラはポツリと呟く。


「勝てた、のか?」


 それが引き金になったのかは不明だが、ニコラの呟きと同時にパラパラと土が降ってくる。


「どうやらそのようです。が、喜びを感じている暇はなさそうですね」


 最初は小さな埃が落ちる程度だったのが、今度は石が落ちてきて、壁にはヒビが入り、軋むような音が響く。


「危ないっ!」


 そして、次の瞬間、天井が崩落した。

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