第十六話 ドラゴンとの戦い
「くっ。ニコラ様を、吐き出しなさいっ!」
シエステラは拳を握り、前へと突き出す。
それは魔力を伴い、巨大な見えない拳となってドラゴンへ襲いかかった。
「グフッ!」
ドラゴンの腹に命中した魔力の拳は、そのまま突き破らんがごとくドラゴンの腹にめり込む。
まさかそれ程の攻撃を受けるとは予想もしていなかったドラゴンは、堪らず嗚咽を漏らした。そして同時に口の中にいたニコラを吐き出す。
「ぷはっ!」
べちゃっと涎まみれになったニコラが地面に落ちる。シエステラはすぐに駆け寄るが、ニコラに触れようとはしなかった。
「大丈夫ですか? ニコラ様」
「あ、あぁ、助かった」
ベトベトになったにニコラは、気持ち悪そうに顔についた涎を拭い払う。その涎は地面に垂れると、プシュウと土を腐食させた。
「やはり、毒ですか。彼の者の浄化せよ。オールクリア」
シエステラが魔法を唱えると、ニコラに纏わりついていた涎の毒が綺麗に消えた。
「恐らくかなりの猛毒だったはずですが、効かないんですね。まあ、これで安心です、って、きゃあぁ!」
「へ? あっ!」
しかし、ニコラの服はすでに大部分が溶けてしまっていて、かなり肌が露出していた。
シエステラはすぐに目を背けるが、その瞳にはニコラの半裸体がしっかりと焼き付けられている。
「こ、これで、少しでも隠してください」
「あ、あぁ、悪い」
顔を真っ赤にして目を覆うシエステラは、なんとか自分が被っていた羽織を渡す。
しかし、所詮はシエステラが使っていた羽織。ニコラのすべてを隠すことはできず、下半身のみを隠すのが精一杯だった。
「グゥ、グルルルルッ」
そんなことをしている間にドラゴンが苦しそうに呻きながら起き上がる。
自分を攻撃してきたシエステラを強く睨むが、当のシエステラは未だに肌色面積の多いニコラに赤面し、ドラゴンなんかには目もくれていなかった。
「ガアァァァ!」
洞窟内が振動する咆哮を上げ、やっとシエステラたちがドラゴンの方を見る。
「あ、そういえば、ドラゴンがいたのですね」
シエステラは頭を振ってドラゴンに集中する。しかし、ニコラの方は見ることができない。
「というか、さっきのは何なんだ? 目の前にいたはずのドラゴンがいきなり上から飛んできたぞ?」
シエステラたちと対峙するドラゴンは、先ほど見つけたドラゴンと同じ姿をしている。
しかし、先ほどまで眠っていた場所には、もうその姿はなくなっていた。
「それはきっと魔法で分身を作っていたのです」
「分身?」
「はい。かなり精巧な分身でした。気配の再現も完璧で、私も一瞬騙されてしまいました」
眠っているドラゴンを見つけた時、シエステラたちは確かにその存在を感じていた。目で見た事実だけでなく、その気配も感じていた。
はずだった。しかしそれは、ドラゴンが作り出したまやかし。分身でしかなかった。
本物のドラゴンは、シエステラたちが隙を見せる瞬間を待ち構えていたのだ。
結果的にはシエステラに暴かれてしまい、ニコラだけに狙いを絞ったようだが。
「さっきはドラゴンも油断していたようですが、流石に一筋縄ではいかなそうですよ」
「そうみたいだな。黒いドラゴンなんて、初めて見たぞ」
「ブラックドラゴンです。ドラゴンの中でも特に狂暴なドラゴンです」
見るのも珍しいドラゴンだが、ドラゴンの中にはさらに種類がある。その種類は色で分別されており、赤、青、白、黒などの種類がいる。
その中でも特に狂暴なのが、目の前のブラックドラゴンだ。その力も圧倒的で、遥か昔には魔王の側近として遣えていたとも云われている。
もはや伝説上の存在だが。
「奇跡的な不運です」
「……すまん」
何を言いたいのか、なんとなくわかったニコラは、素直に謝った。
「いえ、ニコラ様を責めているわけではありません。まあ、ブラックドラゴンとはいえ、まだ若そうですから、なんとかなるでしょう」
元々が巨大な体を持つドラゴンだが、それでも今回のブラックドラゴンは、成体に比べれば、まだ少し小さい方だった。
それでもシエステラたちからすれば、山のような大きさではあるが。
「ともかく、気付かれた以上、逃げることもままなりません。ここで倒すしかありませんね」
「あぁ、わかってる」
覚悟を決めたニコラと、シエステラはドラゴンの前に構えるのだった。




