学校に行けない理由と、小さな決意
朝になって目が覚めると、すでに時刻は十一時を回っていた。
いつものように、学校はおろか、外の世界とは無縁のまま、部屋の中で一日が始まる。
けれど昨日と違うのは、何かこう、胸の奥底で小さな火が灯っているような感覚があること。――たぶん、あれが“やりがい”とか“手応え”とか、そういう類のものなんじゃないか。
俺はベッドを抜け出すと、スマホでコメント欄をざっとチェックする。いくつか応援メッセージや、「次の配信いつですか?」という問い合わせがあった。
顔を見せなくても、声だけで誰かとつながれる。そんな可能性を感じて、昨日の初配信の手応えが何度も蘇る。
でも同時に、頭の片隅で“またいじめられたらどうしよう”という恐怖も渦巻いていた。中学時代のネット上の悪意のせいで、俺は一度深く傷ついている。あんな思いはもうしたくない。
けれど、ここで一歩踏み出さないままでは、この先もずっと部屋の中に閉じこもっているだけかもしれない。それはそれで、望む未来とは違う。
学校に行けない理由――それは容姿をからかわれ続けた過去だけど、裏を返せば「外の世界をすべて拒絶してるのは俺自身」という言い方もできる。
実際、このままじゃいけないってわかってるのに、勇気が出ない。でも、配信なら自分の好きなアニメやマンガの話題を通じてなら、少しは人と関われるかも。
そう思うと、自然と画面に向かう指が動く。次の配信をいつにするか、何を話すか――考え始める自分がいる。その光景に、ほんの少し驚きながら、けれど嫌じゃない。
ああ、これが“生きる理由”の一つになりそうな気がする。もっと声を出したい、もっと誰かと語り合いたい。顔を出さなくても、それはできる。
もしかしたら、学校に通うという形でなくても、外とつながる方法はあるんだ――そんなささやかな確信が、俺の中で芽生えはじめていた。