スクールライフの記憶と、瑞希の影
自室に戻り、明日の配信で話すトピックを考えながら、ふと手が止まる。
机の片隅には、中学時代の卒業アルバムが置かれていた。高校入学と同時に不登校になった俺だが、一応中学は卒業している。当たり前か。
アルバムを開きかけて、一瞬ためらう。そこには、見たくない記憶も写っている。笑顔のクラスメイトたちの中心に、ぎこちなく立っている俺がいたり、あるいはクラス行事の写真で俺がうつむいていたり。
だけど、そのページをめくっていくと、ある写真で小さく笑っている自分を見つけた。まだほんのり幼さの残る俺の隣には、同じクラスで学級委員を務めていた篠原瑞希の姿――といっても、あまり親しげではなく、クラス行事の一環で一緒に写っただけのショットだ。
瑞希……小学校の頃はあんなに仲が良かったのに。いつから距離ができたんだろう。
思い返せば、小学校高学年くらいから、彼女は“委員長キャラ”というか、とにかく責任感の強い優等生タイプに変わっていった。もともと明るくてみんなを引っ張る子だったけど、中学では完全に“リーダー”だったと聞く。
あの頃、俺が“顔”をいじられていたときも、瑞希は何か言いたげな表情をしていた気がする。でも、彼女が直接止めに入ってくれたわけではなかった……。そんな淡い記憶が、胸をチクリと刺す。
「まぁ、昔の話だな」
アルバムをそっと閉じて、心の中で呟く。今さら悔やんでも仕方ない。あの場で誰も助けてくれなかったのは事実だし、彼女もまた学級委員としてあれこれ背負っていたのかもしれない。
――そう思う一方で、記憶の片隅にひっかかる小さな映像がある。小学校の体育祭、俺が転んで怪我をしたときに手を差し伸べてくれたのは、確かに瑞希だった。あの時は心底ホッとした。
ふと気づく。もし今、俺が普通に学校に通っていたら、同じ高校に在籍している“はず”だ。瑞希も高校一年だって聞いた。きっと違うクラスなんだろうけど、もしかしたらすれ違う機会くらいはあったのかもしれない。
それが今の俺にはない。引きこもっているから、同級生の顔すらわからない。ましてや瑞希と再会するなんて、夢のまた夢だ。
ほんの少しだけ、胸がきゅっとなる。何か話せることがあったなら――今さら遅い話か。
そう思ってスマホを開くと、SNSのタイムラインに“MIZUKI”という名のVtuberが流れてきて目が留まる。アイコンは清楚系のお姉さんキャラ、フォロワーもなかなか多いみたいだ。
コメント欄には「委員長っぽい配信者」「真面目そうで好印象」といった書き込みが並んでいるが、まさかね。いや、世の中には“MIZUKI”なんて名前は山ほどいるし、偶然だろう。
そう自分に言い聞かせながら、なぜかそのアカウントを開いてしまう。ツイートの文面をざっと眺めると――確かに硬い印象を受けるけれど、時折“本音”が滲むような言葉も並んでいた。
《たまには素直に叫んでもいい……よね?》
《私、やっぱり配信のときが一番楽かもしれない》
目についたそのツイートを見ながら、心がざわつく。人にはそれぞれ事情がある。俺と同じように、何か隠していることがあっても不思議じゃない。
こんなにもVが普及している時代だ。たとえリアルでは交わらなくても、ネットの世界では誰かとすれ違っているかもしれない――まるで“すれ違う”ようにして過ぎ去るユーザー名。
苦いような、でもどこか期待の混じった感情を抱えながら、そっとスマホの画面を閉じた。




