第三話 迷いびと。2
こんにちは。既にわかっているとは思いますが、夕暮れピアノです。
この物語は、「約束は運命を紡ぐ」の同時間軸から飛ばされた、ナギちゃんを主人公にしたもうひとつのフェルベーナ王国の物語です。
ちなみに、ナギは「約束~」の200年前に飛ばされています。
「殿下!レイシュ殿下、どこにいらっしゃるのですか?」
この前入ったばかりの新米衛兵が、慌てふためいて駆け回る姿を、
当の人物――――レイシュ・フェルベーナ第二王子は、屋根の上から悠然と見下ろしていた。
レイシュのことを探すのは、もはや新人衛兵の洗礼となっている。
この城に長年務めている者などは、
さもそれが休憩の知らせとでもいうようにのんびりと談笑している。
何故なら、少なくとも城で10日以上働く人なら誰でも知っているからだ――――レイシュの脱走癖を。
頭の回転は早いのに――――いや、早いからというべきか、それをいかして執務から逃げる、
謎めいた自由奔放な王子。それが、レイシュに仕える者の認識だった。
さて、そんなレイシュが向かった先は――――不思議なほど人気のない、静かな林だった。
迷いなく、ずんずんとレイシュは林の中へと進んでいく。
その中は、外見とは裏腹にどこか神聖な雰囲気を漂わせ、伸びやかな生命にあふれていた。
柔らかな苔を踏みしめ、澄んだ薄緑色の若葉が形造る木漏れ日を眩しそうに見上げる。
そして、後ろを振り返ると、やっと気を緩めたかのようにため息をつき、
レイシュは空気にしか見えないその空間に向かって一言告げた。
「・・・いるんだろ、エルオーネ?」
すると。
その名前に反応したかのように小さく空気が揺れ、次の瞬間には――――不思議な髪の色をした、
紛れもない美女が立っていた。
髪は緑というには明るすぎ、黄緑というにも透明すぎる、不思議な色合い。
顔の造形は程よく整っており、母性をそのまま表したかのような穏やかさを感じさせる雰囲気は、
エルオーネには似合いすぎるほど似合っている。
おっとりと、優しげに彼女は笑った。
『どうしたの、レイシュ。結界のほころびはもう直したけれど?』
しかし、それを無視してレイシュはただただエルオーネに手を差し出した。
『あら。その手はなんなのかしら?』
この問いに、レイシュはもとより不機嫌そうな顔を、ますますしかめた。
底意地の悪い、と呟いてみせるが、意外に強かな彼女はただ笑って受け流す。
『わかってるわよ。はい、どうぞ!』
そういうと、エルオーネはどこからか現れた大量の種らしきものをレイシュの側にふわりと置く。
「・・・感謝してやってもいい。」
そう呟くと、もうエルオーネのことなど眼中に無いというように小さく何語か言葉を唱え、
片手を振り上げる。その視線の先は、荒れた茶色の肌を見せる地面だった。
『ディア・シレイス!』
すると、地面が淡い桃色に染まり、みるみるうちに色あせてもとの茶色い地面に戻ったが、
様相は先程とは全く違っていた。養分を十分に含んだ土が生まれていたのだ。