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Ep.4-4 〝ポピィの試練〟


朝日が差し込むカーヴェラ邸705号室ーーポピィの部屋の中、セシリアは献身にポピィの事を看病していたーー。


「調子はどうだ?」


「あーー!ユウキさん……いえ、相変わらず眠ったままです……。華麗さんのお話しでは生命力はあるので、体調の方は問題ないみたいですが……、どうやら精神の状態が()()()()()()みたいでしてーー」


「通常じゃないってーーどう言う事なんだ?」


カタッーーとセシリアの座っている隣の椅子に腰掛けるユウキ。ポピィ達が〝灰色のダンジョン〟より帰還して一週間が経とうとしていたーー。


「…………あれからもう、一週間……か。《上限色覚》の反動にしちゃあ、ずいぶんと長い事昏睡状態だがーー華麗姉はなんて言ってたんだ?」


幼い頃にカーヴェラに引き取られて以来ちょくちょく訪れていた華麗の事を、ユウキは華麗姉と呼ぶーー余談だが。


そんな吸血鬼でもある華麗は人体医学、精神医学にも精通しており、その正確さはカーヴェラの折り紙つきであった。


「…………ポピィさんは今、この世界ではない()()()にいるそうですーー。これに関しては華麗さんも初めて見る症状で、詳しい事はよくわからないそうで……全てを見通せるはずのカーヴェラさんの《星の魔術》でさえも()()()()()()()()と言う異常な状態から結論付けられたのですがーーにわかに信じられないのですが、ポピィさんは今()()()()()()()()()()()にいるそうです…………」


「っーー!!この世界以外のどこかって…………一体どこに!?」


ふるふる、と首を振るセシリア。その表情は暗く重苦しいものだったーー。


「っーー!…………悪ィ…………」


「…………いえ…………でも、きっと大丈夫です。だってポピィさんですもの。そのうちきっと、ケロっと笑って帰ってきますよーー!」


ニコッーーと無理に固い笑顔を作って微笑むセシリア。しかしその内心は、誤魔化し様のないほどに憔悴(しょうすい)しきっていたーー。


(ポピィさんーーあなたは今、一体どこにーー!!)



……………………。



カンッカンッカンッカンッーー


「失敗だ!やり直し!!」


「はっーーはぃぃぃぃ〜…………」


英霊界ーー〝オデルニア〟


そこではヘパイストスによるポピィの鍛冶修行が延々と続いていたーー。


あれからどれくらいの時間が経っただろうかーー現実世界と流れる時間の違うこの世界では既に、腰まであったポピィの髪がさらに一回り長くなるほどにあれから武器の修復をひたすらに行っていたーー。


カンッカンッカンッカンッ、カンッカンッカンッカンッーー


「まだだ!!もう一回!!」


「げぇ〜…………まだやるんですか〜!!武器に触るのは楽しいですけど…………そろそろご飯が食べたいですぅ〜……」


「甘ったれるな!!俺が良いと言うまでやり直せ!!」


「ひっーーひぇぇぇぇぇぇぇ!!鬼〜!!鍛冶鬼〜!!!!!」


びーびーと泣き叫びながら文句を垂れるポピィだが……ひとたび武器打ちに向き直ると別人のように集中してひたすら金槌を振るう。


カンッーーカンッーーカンッーーカンッーー……………………カンッッッッッ!!!!!



「ッーー!!よしっ、休憩だ!!」


「えっ……あっ、あーーまだ途中なのに…………」


「構わんーーそれより、今のその感覚を忘れるな」


ヘパイストスからの突然のOKサインに困惑しながらも、しょんぼりしながら金槌を置くポピィーー。しかし、ヘパイストスの言う通り、ポピィの腕には確かな感触がこもっていたーー。


(すごいーー手が震えているーー!そうか…………本当に良い感触って言うのは突然()()()()()みたいに訪れるんだーー!!だから、雑な打ち方でこの感触を忘れないように…………そうやって、過去の自分を塗り替えて、本当にいい技術って磨かれて行くんだーー)


ポピィの手に残る雷に打たれたようなーー神がかりとも言える一振りの感触に何かを察した様子のヘパイストスは、自身の工房から一つの()()()()を持ち出す。


「フレアーー休憩が終わったら〝コイツ〟を打ってみろーー」


「コイツってーーこの〝短剣〟ですか?これってーー!!」


その短剣は、ポピィが〝灰色のダンジョン〟で使っていたフローレイの魂が眠るその短剣とうり二つのものだったーー。


「コイツはお前が昔作った剣だ。現実世界に戻った時自分自身の剣を打ち直すのに丁度いい練習になるだろう。素材はこの工房にあるやつなら好きなのを使えーー」


「えっ……!?…………だからそれーーわたしじゃないですってば!!……まぁでも…………わかりました」


おずおずと短剣を受け取ると、ヘパイストスの工房内に入り素材を物色するポピィーー。その中に、一際目を引くものがあったーー。


「っーー!!こ……これは……」


「ほ〜う…………ここにある素材で()()()()()()()()()()を選ぶとはなーーさすがはフレアだーー」


「ヘパイストスさん…………これってまさかーー」


炎のように燃えるような緋色の鉱石ーーイグニス鉱石。およそ2000度に加熱した状態で誤差プラマイ10度前後以内の熱さで調整しておよそ三時間打ち続けなければならない…………鍛冶師の間では〝最も素材に見合わない鉱石〟と言われたこの鉱石を、()()()にポピィは選んだ。


「どうする…………そいつで行くか?」


「…………でも、これってとても貴重な鉱石ですよねーー本当にいいんですか?」


ヘパイストスは愚問とでも言うように、ポピィに向かって金槌を投げる。


「何言ってんだーー、そいつは元々()()()()()()()()鉱石だろうが?」


ポピィは目を見開きーーやがてすぐにジト目に切り替わる。


「だからそれわたしじゃないですってばっ!!…………ヘパイストスさんのお弟子さんのものなのに…………、本当にいいんですか?」


ヘパイストスはその場から立ち去り、ポピィに向かってもう一つーー今度はゴーグルを放り投げる。


「じゃあその〝お弟子さん〟からお前へのプレゼントだと思っておけーー」


そう言ってヘパイストスは、用事があると言ってその場から立ち去っていったーー。


「全くもう…………無茶苦茶だよあの人!……でも何でだろう…………このゴーグル、やけにしっくりくる。それにーー」


ずいぶんとボロボロになったゴーグルと、先程まで自分が使っていたものよりは少々重さがある金槌ーーどちらも透明な緋色をしていた。


「まさかこれってーー〝イグニス鉱石〟でできているの?」


ポピィが短剣を見つめていると、不思議となつかしい気持ちが込み上げてくる。


(ヘパイストスさんの言ってた〝フレア〟さんって人ーーもしかしてこの短剣のためにイグニス鉱石を残していたのかな…………)


ポピィはグッと力強く金槌を握り締め、加熱して準備が整った短剣を見つめながらゴーグルを締め直す。


「だったらやってみようーーフレアさんって人が完成できなかったこの短剣ーー代わりに私が仕上げてみせるね!!」


そう意気込んで強く金槌を握り締めるポピィーー。本人の気づかぬ内に、その両目と髪は〝()()()()()〟へと変わっていたーー。


いつもご拝読ありがとうございます!!本日19時頃より、アシュリー・ホワイトのスピンオフ作品《アシュリー・ホワイトと白のダンジョン》を随時更新していきます!!よければそちらの方もぜひご拝読よろしくお願いします!!

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