Ep.3-34 〝カーヴェラの懸念〟
ブォンーーキュピィィィィ!!
遂にーードロシーの《空間転移魔法》により灰色のダンジョンの外に出た一向。
ユウキ、ポピィ、セシリア、レックス、アレンは久々の外の空気に、目いっぱいの太陽光を浴びてリラックスする。
「はぁ〜……何だかどっと疲れました〜……帰ったらお風呂入りたい〜!!」
「確かになーーもうケガだらけ傷だらけあざだらけだ……とにかく食って寝てぇ〜……」
「私〜、今回ポピィさんと一緒に冒険できて改めて思いました……ポピィさんと一緒にいると、とっても楽しいです!!ポピィさん、もしよかったらまた今度一緒に旅に出かけませんか?」
「おっ!いいね〜、セシリアちゃんさえよければ一緒にどっか行こうよ!!」
「僕はしばらく休もうかな……もう何度死んだかと思ったかわからないよ……ははっ……」
「フッーー同感だ。しばらくは休んで、生きているこの余韻に浸りたいものだーー」
皆各々がボロボロのこの状態ーー。ドロシーは子供を見守る引率の先生のようにふっと、肩をすくめる。
ふとーーしばらくして。
「お……どうやらみんな無事だったようだねぇ〜……どうだい、ユウキ、ポピィ。今回の冒険は楽しめたかなーー?」
あどけ笑うように現れたカーヴェラ。余韻に浸っていたユウキがプチンとこめかみに怒りマークをつける。
「おうおうお師匠ーーずいぶんこっちは大変だったぞーー?……まぁ、この際細かい事はとりあえずいいや……とにかく!!」
やれやれ……と頭をふるふると振るカーヴェラ。ゆっくりと次第にユウキの元へと近づいていきーー。
ぼふっーー
「っーー!!ちょっ、な……何やってんだ師匠ーー!?」
「まあまあそう照れるな……可愛い奴め。お母さんに甘えたかったんだろうーー?」
ユウキに抱きついて離さないカーヴェラ。カーヴェラの胸元に顔を当てられ窒息死しそうなユウキはジタバタと恥ずかしさから抵抗する。
「ブハァッーー!!殺す気か!?全く……ハァ……まぁ……迎えに来たから許す。」
「フフッーーそういう割にはずいぶんと嬉しそうな顔をしているぞ?」
「なっーー」
そう言いながらボフッーーと、ユウキの頭に手を置きながら……カーヴェラはーー。
「本当に……お前達が無事でよかったーー。妹の為に頑張ってくれたんだなーーユウキ」
「……………………別に、そんなんじゃねぇよ……」
プイッとそっぽを向いて照れ隠しをするユウキに安堵のため息をつきながらーー今度はポピィの元へと歩み寄った。
「ポピィもよく頑張ったなーーほら……おいで、疲れただろう……?」
「…………うん」
ボフーーと、今度はポピィがカーヴェラに抱きつく。とーー、急激に襲う睡魔を前に、正気を保てるうちにポピィは胸の内を吐き出す。
「私ね……カーヴェラさん。少しだけ、〝昔〟の事を思い出したんだーー」
「ん?昔……?」
ポピィはまどろみの中に意識を落とす前に、カーヴェラに続ける。
「フローレイさんって人の事を聞いた時に……少しだけ。少しだけなんだけどね……」
(フローレイ……どうやら〝短剣〟に宿った《英霊魂》がポピィを守るために出てきたのかーー)
ポピィの背中をさすりながら、カーヴェラはポピィの言葉に耳を傾ける。
「前世でね……私が、〝日奈〟だった時……昔、変わった夢を見た事があったのーー。変な世界だな〜とか、見た事ない人たちなのに、何だか知っているような感じがあるな〜って……それでね……」
(前世?そうか……ポピィは前世の記憶がずいぶんと明確みたいだったしなーーにしてもまさか……あの時代の事まで憶えているというのかーー?)
すやすやと……だんだんとポピィの意識が消えかけていく。
「私……会った事がある気がするの……カーヴェラさんに。グレイスさんに。変かな……?」
まるで母親に甘える娘のように、カーヴェラの胸の中で意識を落とすポピィーー。
「ふっーー何も変じゃないさ……。前世の記憶があろうと無かろうと……お前は私の可愛い愛弟子だーー」
それを諭す母親のように、カーヴェラはポピィの背中を撫で続ける。
「そっ……か…………そうだよね…………。私の事……ヒュイの事……ありがとうーーカーヴェラさんーー」
やがて限界を迎えたポピィの意識はーー深い睡眠の中へと溶けていったーー。
(もし……この子が〝あの時代〟の記憶を取り戻したら…………その時私はどうなるだろうかーー)
独りーーポピィの安らぎの寝顔を見つめながら、物思いに耽るカーヴェラだったーー。




