Ep.3-33 〝帰還!!〟
数分前ーー。
「これは……どこに向かっていると言うのだーー!!」
「おそらく、落ちているのは錯覚ーー私たちはこのダンジョンの入口まで飛ばされるんだと思うわ」
《魔将十傑》第五将ーージェイクの発動させた《時空間魔術》によって飛ばされそうになっているグレイスとドロシー。そこにドロシーは、ある秘術を以って対抗しようとしていたーー。
「奴はーーこの先の地下にあいつらがいるって言ってたーー。だったら、この技が生きるはず!!悪いね、グレイス……恩人の所に一人だけ戻しちゃうけど、御前様大好きなあなたなら別に構わないでしょうーー」
「ド……ドロシー……一体何をするつもりだーー!!」
「《我は寛容なる者》、《贄となるのは哀れな聖騎士》、《我が極意を以って》、《等価の反重となりて》、《我が位置を極星に隔てよ》、ーー!!」
轟轟っとーー落下方向にドロシーとグレイスそれぞれに対して五重の魔法陣が形成される。一方は上に、一方は下にそれぞれ反発する作用のある魔法陣である。
「こ……これは《空間転移魔法》ではないか!!二人同時にワープすることもできたのではないのかーー?」
「あっはは〜、悪いね〜……私、全く知らない場所とか所在が把握できない場所に対しての魔法陣って作るのが苦手でさ〜……これ、ぶっちゃけミスったら私土の中に埋まっちゃうんだよね〜……まあ、そうなったらまたワープで脱出すれば言い訳だけど……そういう訳だから、ゴメンネ、グレイス!!あとは任せて!!」
「ちょ、まっーー!ドロシー!!」
そう言い残して、それぞれ地上にグレイス、地下にドロシーが反発されるように送られたのであったーー!!
……………………。
B6階層ーー。
ボウゥゥゥゥゥゥンッ!!
ポピィ達の前に、巨大な魔法陣が形成されるーー。やがてそこから姿を現したのはーー。
「おっ!どうやら成功みたいだね〜。いや〜陰険陰険……こんなしみったれた地下空間を把握せずに〝茶色のダンジョン〟認定しちゃうとかすこぶる笑えるんですけど、ははっ!!」
自分の祖国でもある聖国を貶めるようにケラケラと笑う魔女は、脱出の糸口が掴めないポピィ達にとって救い以外の何者でもなかったーー!!
「まあ〜それはおいといて……と。やっほ〜!みんな、おっ待たせ〜!!」
「ド……ドロシーさん!?」
陽気な声で、大魔女はその場所に姿を現したーー。
しばらくの情報交換が交わされた後ーー。
「まさか……あのドロシー様がこんな所までわざわざ来てくださるなんて……」
「ああ……もう有名人の名前を聞きすぎて驚く事なんて無いと思ってたんだが……」
口をポカンとしているアレンとレックスの傍で、人一倍目をキラキラと輝かせている少女がーー。
「ああ……まさか、こんなところでお会いできるだなんて……この世の魔法使い全ての憧れの対象であられるドロシー・R・フェイト様ーー!!はあっ!!しあわせ〜!!」
実は幼い頃より数多くの伝説を残し続けたドロシーには、世界中に意外とファンが多かったらしい。
「にゅにゅい(誰?)」
約一人…………その有名人を知らない者が。
「この人はね、私たちのお友達のドロシーちゃんだよ!!ほら、ゼリーちゃん!あいさつあいさつ!!」
「にゅにゅい!!(よろしく!!)」
ニコッーーと微笑みかけるポピィと飛び跳ねるスライムのゼリー。
とーー、そんな一向を前に当の本人は……。
「フッーーこのドロシー・R・フェイトが来たからにはもう心配はいらないーー。ポピィ、ユウキ。無理をさせたな……よく頑張ったぞ」
相変わらず猫被りの要領で本性を表さないドロシーであった……。
「ねぇねぇ、ドロシーちゃん!私たち、ここから出られるんだよね!!じゃあ早く行こうよ!!その……華麗さん?も気になるけどカーヴェラさんやグレイスさんも気になるしさ!!」
意気揚々としたポピィにいの一番に賛同したのは、レックスとアレンの二人だった。
「そ……そうだな。早く上に上がった方が、色々といい……ここに長居するのも気が滅入ってくるばかりだしな……」
「あ……ああ。セシリアもだいぶ疲れているだろうし、あまりこれ以上邪悪な雰囲気が残るこの階層にいるのはよくないはずだ!さあ、行こう!!今すぐに!!」
かつて《伝説の聖騎士》と呼ばれたグレイスーー。その存在が近くにいるのがわかってか、幼い頃より彼の絵本を何度も読んで育った冒険少年達には心に響くものがあったようだ。どうやら一目だけでも拝みたい気持ちは、セシリアのドロシーやカーヴェラに対する気持ちに負けず劣らずといったものだったーー。
「それもそうだな…………それでは行こうか、我らが友ーーカーヴェラの元に!!」
妙な決めポーズをした後、ドロシーがぶつぶつと魔法を唱え始める。一段、また一段と、転移用の魔法陣が完成されていく。ちなみにドロシーがカーヴェラ達を連れてこのダンジョン付近へくる時に使った大型の魔法陣は〝混沌の魔術〟を応用して作ったものであるため、一般人に見られるとマズイ技術だったりするーー。そのためドロシーはわざわざ、〝上級魔法〟である《時空間転移魔法》を使う事にしたのだ。
やがてドロシーが魔法の詠唱を唱え終えると、ユウキが大きなあくびをした。
「はぁ〜…………やっとこの陰気クセぇ場所ともおさらばか〜」
このダンジョン最下層に落下し、セシリアと合流ーーその後、〝邪竜バルトロス〟と戦い、勝利し、直後現れた《魔将十傑》第七将ーーロブルスと因縁の再会を果たし、敗北したが、セシリア達によって救われ、その後に自身の憧れでもあった《剣王》フローレイがポピィの身体に宿り、すべてに決着をつけたーー。たった数時間の間に起きた出来事とは思えない程に、とても密度の高い時間だった事に今更ながら感慨深いものを感じる。
「じゃあなーー〝灰色のダンジョン〟!!」
「いろいろな出会いをありがとう!!〝私の初めてのダンジョン〟ーー!!」
そう言い残して…………ポピィとユウキは共に、ニコリと微笑みながらドロシーの魔法で帰還したのだったーー。
 




