Ep.3-29〝《剣王》フローレイVS《魔将十傑》ロブルス〟
B6階層ーー。
ポピィ(フローレイ)VSロブルスの戦いが幕を開け、互いに剣を構えたまま睨み合っていたーー。
ダンジョン内に吹く薄暗い風が開戦の合図となりーー両者の火蓋を切る。
スパッーー
ザシュッ…………
「ぐっーー!!」
先手を取ったのはフローレイ。ロブルスの腹を切り、微かに流血傷を与える。
(一瞬……太刀筋が見えなかったーー!!これが《剣王》の力かーー!!)
しかしロブルスもやられたままでは終わらず、フローレイにカウンターの一撃を差し込むーーが、しかし。
パリィィィィィンッーー!!
一瞬生じた隙でさえも、フローレイはわずかな短剣の幅を使ってロブルスの突きを受け止めた。だけにとどまらず、その突きを受け流しもう一撃ーー!!
スパッーー!!
「っーー!!ぐああああっ!!」
突きを繰り出した反動で一瞬硬直した、ロブルスの差し出した腕を……短剣を振り上げて切り付ける。
ボタッーーボタボタ……
「予想はしてたが……やはり避けられたかーー」
避けられたとは言っても一瞬の隙を利用して大ダメージを与えたフローレイ。その瞳には冷徹ともとれる程静かな瞳をしていた。
「くっ…………ありえん、何故だーー死んだはずのキサマが……何故生きている!?」
《剣王》フローレイ。数百年以上前に名を残した剣士ーー。生きているはずは無いーー。間違いなく。
ロブルスの問いに、しばらくどうしようかと悩んでいたフローレイだったがーー。やがて……
「そうだねぇ……確かにボクはとっくの昔に死んでいる。でもね、どうやらボクの魂はあの人が残したこの剣の中に残っていたらしいーー。あくまでボクの予想だけど、〝こうなった時〟の為に保険をかけておいたんじゃないかなーーカーヴェラさんは」
「っーー!!カーヴェラ……カーヴェラってあの、《伝説の魔法使い》の……?」
「《剣王》フローレイ様に……《伝説の魔法使い》カーヴェラ様……、君たちは一体……?」
状況理解についていけないままのレックスとセシリア。
しかしフローレイの考えている意図を汲み取ったロブルスの口から発せられたのは、二人には聞いたことも無い単語であったーー。
「なるほどな……まさか、その剣に宿っていたと言うわけか……キサマの《英霊魂》はーー」
「ま、そう言う事だねーー。その結果が、この展開に繋がっているわけだーー」
《英霊魂》ーー。死者の魂を人や物に宿しておく事で、一時的にその力の恩恵を受けられるというものだーー。かつてポピィが右腕を大きく負傷した際に、カーヴェラは《ヘパイストスの右腕》の英霊魂を使い、ポピィの右腕を治しただけでなく、本来持つ鍛冶能力の潜在能力と、顕在能力の両方を大幅に引き上げることに成功した。
ポピィが剣で戦った事が無いにも関わらず、時折利き手でない左腕で剣を振るっていたのは、一時的に左利きであるフローレイの力を借りていたからなのである。
「君たちは大きな計算違いをしていたようだね……あくまで今回はボクだっただけで、この人を守る為ならカーヴェラさんはなんでもするさーー。《英雄》や《転生者》である前に、この人はカーヴェラさんの弟子だからね……」
ギリッーーと大きく歯噛みをするロブルス。相手がフローレイではこの世の並み居る剣士全てを揃えたとしても、傷一つつけることはできはしない。ましてやそれを、〝仮の体〟で易々とやりのけているのだーー。
しかしーー、《魔将十傑》としてのプライドが、ロブルス自身がその事実を許さなかったーー。
「フッーー笑わせる。結局今のキサマはその体が持つ限界までしか能力を引き出すことはできないーーこの俺が負ける道理があるとでもーー?」
ガチャッーーと大剣を構えるロブルス。哀れなものを見るように、フローレイは雑に剣を構えた。
「ま、君たちの理屈なんてどうでもいいけどさ……何をやっても君じゃあボクには勝てないよ……?」
ロブルスは黙ったまま、集中力を最大限まで引き上げるーー。
「《剣王》フローレイよーー。キサマと戦えた事、いち剣士として誇りに思うぞーー。さらばだ……〝消えろ〟!!《魔剣・龍滅斬》ーー!!!」
ロブルスの禍々しい魔気を込めた一撃が、フローレイに向かって一直線に吹き荒れる。
「っーーポピィさんっ……フローレイさん!!!」
轟々とした音に掻き消されるセシリアの叫び……。その矛先が向かうフローレイはーー!!
「フッーー久々の大嵐だね……《星天・斬流波》ーー!!」
フォオオオオンッーー!!
フローレイが振り翳した剣が、青白い斬撃となってロブルスの魔嵐を吹き飛ばすーー。
やがて静寂が訪れると、呆気に取られたロブルスの姿と、短剣片手にロブルスへと歩を進めるフローレイの姿がーー。
「あんな……〝特級剣術〟クラスの禍々しい攻撃を……あんな少量の魔気で振り払うなんてーー。これが……《剣王》の力かーー」
既に棒立ち状態のレックスが……セシリアの真横で目を点にして感嘆の声を漏らす。
「う……ん。すごい……本当にすごいーー!!見た目はポピィさんだけど……それでもあんな力を発揮するなんて……」
幼い少女が自身の命を救ってくれた騎士に対しての憧れを抱くような……キラキラとした眼差しでフローレイを見つめるセシリア。
ようやく砂煙が完全に晴れる頃には、フローレイがロブルスの目の前の距離までやって来ていたーー。
「ーー何か言い残す事はあるかい?」
フローレイが、冷たく呟く。
その言葉への返答とでも言うように、ロブルスがフローレイに向かって剣を振り上げたーー!!
「っーー!!フローレイィィィッーー!!!」
スパッーーと、ロブルスの腕が斬り落とされる。
「うっーーぐああああああああっーー!!!」
ボタッボタッ……
切り落としたロブルスの腕から、血が滴り落ちる。歯噛みして動かないロブルスを見下ろしながらーーフローレイが口を開く。
「ボクはね……〝この人〟みたいに情けや容赦を持ち合わせてはいないんだーー。孤児出身だからね。生きるためには泥を啜るような日常を生きなければならなかったーー。それでも、こんなボロ雑巾みたいなボクを……虚の中で生き続ける日々から救ってくれたんだよ……〝この人〟はーー。だからロブルスーー〝魔王軍〟!!ボクの魂がこの世に在る限りーーボクの命がこの剣に宿り続ける限りーー〝この人〟には絶対に手を出させない!!《魔将十傑》ロブルスーー!!」
「ぐっ!!」
なかなかに良い剣士だったーー。そう最後に言い残し、フローレイはロブルスの首を狩り取ったーー。
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