Ep.3-28 〝闇の眷属〟
タッタッタッタッーー
灰色のダンジョンB4階層ーー。先程から妙な違和感を覚える。ドロシー達は警戒するものの、あたりに魔物一匹いないこの状況に戸惑っていたーー。
「今まであれだけ階層が下るにつれて強力なモンスターが出現していたというのに……これは一体どう言う事なのでしょうか?」
訝しむ表情で、グレイスが問いかける。その表情はドロシー、華麗も同様であった。
「知らん。じゃが、わざわざ我達の足止めをこれだけしてきた奴らじゃ……このまますんなり行くとは思えんがのーー」
周囲を見渡しながら下へと続く階段を探す一向。やがて、その入り口に辿り着いたーーかに思えたその時だったーー!!
「っーー!!伏せてーー!《闇の無領界》!!」
咄嗟に放たれた炎魔法による攻撃に対しドロシーが、闇魔法ーー〝ダーク・ワールドホール〟を発動する。一向に向けて放たれた炎弾はドロシーの展開した闇の渦の中へと引き込まれていったーー。
「パチッパチッパチッパチッーー。さすがは僅か六歳で〝大魔女〟の名を冠した魔導士だ……。この程度の攻撃では物足りないと言う事だな……。」
B5階層へと続く階段の前で、その男は不敵に笑う。黒いコートに身を包んだ男ーー。先程までのモンスターが可愛く見えるほどのドス黒い魔気を放っていたーー。
「自己紹介でもしておこうか……私は〝闇の眷属〟十三番族族長ーー《エドロ・カースドラゴン》だ……。お初にお見えかかり光栄に思いますーー華麗様」
右手を前に差し出して、一礼をするエドロ。その姿を見て華麗は嘲笑うように口端を吊り上げたーー。
「はっーー!!〝闇の眷属〟ときたかーー。魔王軍とは別組織であるお前達まで出張って来るとはな……して、何が狙いだ?」
闇の眷属ーー『魔王軍』が魔族の中でも人間と敵対する事を選んだ部族の集まりとするならば、『闇の眷属』は魔族全体を守るために代々その力と序列や地位といったものが確立されてきた組織であるーー。敵対しているわけではないが、あくまで別々の組織であるため、協力関係を結ぶこともあれば時々軽い衝突などは日常茶飯事として起きている。そんな彼が何故ここにいるのかーー?
「もしやと思うが…………我を止めにきたのか?」
「さようでございますーー。『闇の眷属』〝二番族族長〟ーー華麗様。我々魔族としては、あなたに『人間』の味方をされては困ります」
「ほう……たかが〝十三番族〟如きが、我に意見となーー。一つ……勘違いを訂正するならば、何も我は人間なぞに興味は無いし……いつ滅びようが魔族を攻め込もうが我には微塵も興味の無いことだーー。あくまで我は人間をビジネスの一環として利用しているだけだし、友人と呼ぶのはカーヴェラと我が認めた一部の者だけだーー。『聖国』やら『帝国』と争いたいなら勝手にしろ。我を巻き込むなーー」
心底鬱陶しそうに、冷めた瞳で見下ろす華麗。そのゾッとさせる温度の差に、グレイスドロシーまでもが息を呑んでいた。
「っーー!!……しかし、私とてあなた様をこのまま見過ごす訳にはーー」
「くどい」
ゾオッーー!!と、階層全てを覆いつくさんばかりの華麗の魔気が放たれる。明らかに殺気を込められたその魔気はーー自身に向けられているものと自覚するだけでエドロの表情を青ざめさせた。
がーー、しばらくして。
「ハァッ……『闇の眷属』同志での争いは御法度ーー。じゃな……かと言ってキサマのマニュアル通りしか動かん顔をこれ以上見ていても我も気分が悪い……致し方ないのうーー。出てこい、ラティーー!」
華麗はハァッ……とため息をつきながら、自身の懐から丸々っとした黒いマスコットのようなモノを取り出す。するとやがてそのマスコットは徐々に大きくなりーー人型のサイズまで大きく変化した。
「こ……これは!?」
「なるほど……《変身術》の一種ね……」
そのマスコットは人型のサイズに戻ると、等身大の女性の姿をした魔族の姿へとなった。桃色のツインテールの髪に同色のキリッとした瞳。あちらこちらが際どい衣服を着用したその女性はーー、華麗に向かってダイブした。
「ハァ〜ん!!ご主人様っ!!おはようございます〜!!」
「やっ……やめろ!離れんか!?全く……」
華麗に拒絶され、ちょっとだけシュンとするラティ。そんな華麗へ向ける好意の愛情表現とは対照的に、ドロシーとグレイスに対してキッーーと強く睨みつける。
「ところで……ご主人様、人間を始末するのがワタクシの使命でお間違いありませんか?」
その圧倒的で暴力的な視線ーー。本能的に、臨戦体制を構えるグレイスとドロシー。ラティの放つ殺気は、明らかに常人の放つソレそのものではなかったーー。
「何を抜かしておる、敵はあっちじゃ」
「ひたあぃっー!!ああん、ご主人様の柔らかいお手が……ワタクシの頭に……」
華麗のチョップに明らかに変態的な言動を包み隠さないラティだが、そのあどけない態度にグレイスとドロシーは呆気に取られていた。
「あの、華麗様ーー?こちらの女性はーー」
グレイスの問いかけに翻って胸を大きく突き出すラティ。胸のサイズが少々大きい上に際どい下着をつけているため、男性であるグレイスには目線のやり場に困るものがあったーー。
「ワタクシ?ワタクシは《ラティ・セクシーナ》よ。ご主人様様の仲間なら、ワタクシがしっかり守ってみせますわ!!」
明らかにテンションが高すぎる……。振り幅の激しいラティの態度についていけない二人だが……同時にエドロは歯噛みをしていた……。
「『闇の眷属』〝七番族族長〟ラティ・セクシーナ…………。まさか華麗様と〝盟約〟を結んだ眷属だったとはーー!!」
闇の眷属とは1〜100までの番族があり、エドロの十三番とはかなり高い部類である。しかし……華麗の二番と言うのが別格ですらあるのに、その眷属ですら自分よりも格上の存在であったーー。
「ラティよーー我らは先に行く。殺さない程度にこ奴の相手をしてやってくれ。」
「承知致しましたわ!ご主人様!!あとでラティの事、たあ〜っくさん可愛がってくださいましね!!」
ラティとエドロの横を素通りする一向。当のエドロはそれを黙って見送るしか無かったーー。
「放っておいて大丈夫なの!?一応アイツも敵なんじゃあーー」
そのドロシーの問いかけに、華麗は少し頭を悩ませる。
「確かにのう……魔王軍と聖国の騎士だけでなく、闇の眷属までもが徒党を組んで《転生者》を狩りに来ているとは……どうにもこの一件、何やら裏があるようにしか思えん……」
走りながら急いで階段を駆け降りる三人。そんな中、グレイスが口を溢すーー。
「もしーーもしもポピィ殿が、〝あの子〟の生まれ変わりだとするなら……それもあり得るやもしれませんな…………それなら、御前様がポピィ殿を気にかけていた理由も……」
「?あの子……?」
グレイスの言葉の真意を掴み取れないドロシーを他所に、華麗が何かを深く再考する。
「あ奴かーー。」
華麗もグレイス同様に〝赤髪の少女〟の記憶を思い巡らせる……。かつて魔王軍を壊滅寸前にまで追いやったーー〝聖国〟が崇め奉る《転生者》ーー。世界中にその名を轟かせた一味のリーダー。伝説であり、天才的な手腕で世界を変えたと言う……《赤髪の鍛冶師の娘》ーー。その姿をーー。
《転生した鍛冶師の娘》の内容がわかりやすいようにキャラクターやストーリーの概要などをまとめた《てんかじ情報局》を更新しました,よければ作者の作品ページからご覧ください。




