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Ep.3-27 〝フローレイ〟


「んあ!?お前、こんなとこで何してんだ?」


寒い冬空の真っ只中ーー僅かな太陽光の恵みが照らす住宅街の路地裏という人気のないところで、一人の少女が素っ頓狂な声を挙げた。


視線の先にはボロボロの毛布一枚をくるんで座り込む、少しばかり紫がかった黒髪黒目の()()()()()()()()()()()()()()がいたーー。


「お〜い、お前〜、生きてるか〜?」


〝赤髪の少女〟は、少年に向かって生死の確認を呼びかける。やがてーー


「ん、……あれ、ボク……まだ生きてた……?」


虚ろな目で、覇気のない声を投げかけるーー。よほど何日も空腹状態が続いていたのだろうか……。このまま放っておけば明日にでも凍え死んでしまっていただろう……。


「生きてるあたしには、あんたが生きてるように見えるぜ〜…………にしてもガリガリだな、お前」


少年は腹元に手を当てる。減る腹もないのか、全く空腹の音がしなかったーー。


「そんなんじゃ自分で稼いで生きてく事すらままならねぇな〜……ははっ!おいお前、パン食うか?」


ボロボロの見窄らしい孤児の何が面白いのか?少女は懐から取り出した、自身が食べる予定だったであろうホカホカのパンを一つ取り出し少年に手渡す。


少年は無言のまま、パンにかぶりつきーーそして。


「あ、あれ……ボク、なんで……?」


ボロボロと、涙を零し始めた。空腹こそ最大のスパイスとはよく言うが、生と死を分つ程の飢餓状態で味わうものがどれだけ心を満たしてくれるのか。それはきっと空腹だけではなく、自身を()()()()()()をする大人を何百人と見てきたからであろう。故に手を伸ばしてくれるその優しさが、少年の心に深く響いたのだーー。


「そうかそうか……そんなに美味かったか!よかったな!!ははっ!おいお前、なんて名前なんだーー?」


太陽のような満面の笑みで高らかに笑う少女。その姿をみて少年はボソリと呟く。


「…………フローレイ。フローレイ・カドクリア。あなたの名前は?」



「私か?私はーーーー」



カキィィィィィィィィィンッ!!



灰色のダンジョンB6階層ーー。


敗れたレックスの首を刈り取らんとするロブルスの剣先を、間一髪のところで短剣を差し込み阻害するーー。


その正体はーー


「《転生者》ーー貴様、何者だ?」


「……………………」


「ポピィ……さんっ!!」


間一髪の命を取り留めたレックスにはポピィが誰か、何が起きたか全くわからなかった。対して溢れんばかりの涙をぐしぐしと拭うセシリアと、先程まで一切見せることの無かったロブルスの()()している姿がそこにはあったーー。


「《転生者》よーー。〝我々〟の最大の目的は貴様の排除だ。それ以外は大して重要ではない…………そんな貴様がよもや飛び出して来るとはな」


余裕を見せているような振る舞いのロブルスだが、内心はヒヤリと汗をかいていた。なぜなら、魔王軍内でも指折りの剣士であるロブルスの攻撃をあの短い短剣で防ぎ切ったポピィの剣術ーー。〝強者〟だけが感じ取れるポピィの纏う()()が、何か違和感を告げていたーー。


「しかし残念な事だーー。これほどの力を持っているというのに…………()()()()()、死ぬと言うのだからな……全くもって()()()()()()だ…………」


何かを探ろうと不可解な言動をとるロブルス。その真意を汲み取ったように、ポピィは不意に笑みを浮かべる。


「ぶっーーククッ、いや〜…………悪い悪い、そんな『道化師』みたいな芝居しなくてもいいよ。別に隠す気はないからーー」


飄々(ひょうひょう)と、先程までの口調と全く違う……自分の知らないポピィの姿にセシリアは動揺する。


「ポ…………ポピィさん?」


しかしそんなセシリアをポピィは一瞥するだけして、ロブルスに向き直ったーー。


「君たちの目的はわかったーーけど……残念。〝この人〟は殺させないよ…………ボクの恩人だからねーー」


カチャリッーーと、短剣をロブルスに向けて突きつけるポピィ。明らかにポピィとは()()()()である事を確信したロブルスは、さらに警戒心を強めた。


「この気配……やはり貴様、《転生者》ではないな…………。何者だ、貴様?」


ポピィの姿をしたその人物は、剣士特有の構えをしてロブルスの問いに答える。


「フローレイだ。」


「ッーー!!バカな……フローレイ……だと!?」


目を見開いて驚きを露わにするロブルス。そしてそれは、レックスも同様であったーー。


「フローレイ……まさかあの、《剣王》フローレイ・カドクリア様ですかーー!?」


フローレイ。かつて《剣王》と呼ばれたものの、聖国や帝国の勧誘に一切の示しを持たなかった天才。主の死後、彼の元には何百通という王家や権力ある者達からの誘いの手紙が来たと言うが、誰一人彼が仕える者はいなかったという……。その理由は、かつての主人以外を主とは認めたくないからというものだったらしいがーー。そんな彼の生き方に憧れや共感を抱く剣士は多く、まさしく〝伝説〟とも呼べる存在だったーー。


「君たちの狙いは〝この人〟なんだろーー?だったら、戦うしかないな…………」


そんな《剣王》が今ーー、《魔将十傑》ロブルスの前に立ちはだかる……。

《転生した鍛冶師の娘》の内容がわかりやすいようにキャラクターやストーリーの概要などをまとめた新エピソードを投稿しました。よければ作者の作品ページからご覧ください。


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