Ep.3-17 〝赤と黒の力〟
「もう……絶対に許さない!!」
ポピィの瞳の、髪の色が〝上限色覚〟によって変化した。
「ポピィさんーー、一体何が……?」
状況が飲み込めないセシリアは目を白黒させている。
「へっーー、遅すぎだってんだよ……」
ユウキは未だに〝上限色覚〟状態だが、もはや戦える余力は残っていなかった。
「にゅ……にゅにゅい(……ポピィ?)」
スライムはその弾力のおかげで何とかレベル差のある攻撃から命拾いしていた。
「グルルルルルルッーー!!」
〝魔竜〟が、ポピィを鋭く睨みつける。
当然だろうーー、自身の攻撃をこんな小さな少女が弾き返すなど誰が予想しただろうか?
ポピィの姿は、先程とはまるで纏う気配が違っていた……。
「半分真紅で半分漆黒か……お師匠といいお前といい……本当に〝良い色〟してやがるぜ全く……」
絶対絶命ーーその状況は変わらないはずなのだが、ユウキの顔には余裕の笑みが残っていたーー。
半分真紅で、半分漆黒の色合いーー。
これが意味するところを、今この場にいる全員が知る由も無いーー。
カッカッカッカッと、ポピィの方から〝魔竜〟へと歩みを進めていく。
「あなたには悪いけど……命をもらうわ」
怒りとは違う……まるで何かを極めた境地にいるような絶対的な〝気配〟をポピィは纏っていた。
「グ……グルアアアア!!」
今までかぎ爪と尻尾での攻撃だった〝魔竜〟が、口から魔炎弾を吐き出す。
ボオーンッーー
しかし、ポピィは対して避けもせずにその魔炎弾を回避する。
「〝上限色覚〟……。今ならわかる。今まで見えなかった〝魔気〟の動きが、正確にハッキリと見える……」
ポピィは冷静に、〝魔竜〟に流れる魔気の流れを読む。
〝魔竜〟もポピィの異変に危機感を覚えたのか、魔炎弾を三弾連発で繰り広げた。
ボオッボオッボオッーー
しかし、二つの魔炎弾は見事に外れ、残り一つの魔炎弾はーー
スパッーー
ポピィが至近距離三メートルあたりまで来たところで、〝魔気〟を斬撃として放ち斬る。
ボオッーーと見事にポピィを避けた魔炎は、メラメラと鮮やかに、今までとは全く違う表情のポピィの顔色を写した。
「グッーーグオッ!?」
一瞬ーー、瞬きする程の一瞬。
ポピィがダッーーと地を蹴ったかと思うと、〝魔竜〟の眼前へと移動しーー。
ザッザッザッザシュッーー
「グッ……グオオオオオオオオオオ!!」
今まで外傷が一つも無かった〝魔竜〟から、大量の血しぶきが飛ぶーー。
その隙を見逃さず二撃目ーー。
ザッザッザッザッザッザッザッザッーー
ザシュッーー!!
〝魔竜〟の四本ある翼の二本を落とし、片腕をズタズタに切り裂いた。
「グオオオオオオオオオオアアアアアアアッーー!!!!」
怒りと苦悶の表情を露わにする〝魔竜〟。
そんな相手を前にポピィはーー。
「〝哀れな奴〟ーー」
かつてみた〝魔女〟と同じようなセリフを、ボソリと呟くのだったーー。




