Ep.1-2 〝《鍛冶師》ポピィ・レッド〟
「……急いで、早く……!」
「大至急……を……ーーー」
なんだろう……誰かの声が聞こえる……。
あれ、今日何日だっけ……わからない、意識が……
「あ…………れ…………ぼ……」
よく聞こえない、何?
「動いた……!心臓が、動いたぞ……!!」
「よかっだあ……うぐっ、ヒクッ……うう〜」
何……?何て言ってるの……?
「よく頑張ったわね……」
ポピィ…………
「あうっ!?」
ぱちっ、と目が覚める。
するとそこには心配そうな顔の人たちの姿があった。
眼鏡の下から溢れんばかりの涙を流す男性。
その側で泣きじゃくる小さな女の子。
そして…………
わたしを抱いて女神様のように微笑む女性。
わたしを抱いて……?
わたし…………
「ばぶうっ!?」
周囲からおおーっ、と感嘆の声が上がる。
どうやら元気に声を上げたのを喜んでいるようだ。
いや、そんなことよりも。
わたし……わたし……
赤ちゃんになっちゃいました!!!
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「ポピィ、そろそろ洗濯物取り込んできてくれるかしら?」
「はーい!」
わたしの名前はポピィ。ポピィ・レッドです。
どうやらわたし、また鍛冶師のお家で生まれ変わったみたいです。
ちなみにポピィの名の由来は、燃えるような真っ赤な瞳と髪で、鍛冶職の家柄としては縁起の良い色柄という事らしいです。
髪はまぁ、火のように真っ赤に燃えるようか赤みがかった髪なのですが……鍛冶職ということであまり手入れはせず伸ばしっぱなしでボサボサになってしまいました…………(あはは)
と、そこにメガネをかけた女性の姿が。
「ポピィ、私も手伝うわ」
「ありがとう、ヒュイ」
今のわたしには一人の姉がいて、名はヒュイ・レッド。母と同じ翠色の髪と目が特徴で、腰まで伸びたキューティクルな髪が特徴の優しいお姉さん。
「昨日の納品、もう少し高く買い取ってもらえたと思うのだけれど……ゴメンねポピィ、せっかくあなたも手伝って作ってくれたのに……」
「別にいいよ!次はもっといいの作るから!お父さんもいっぱい頑張ってるし!じゃんじゃん稼いでこうよー!」
前世の記憶はうっすらとしか残っていないのだけれど、それでも短くとも楽しかった日々は確かに胸に残っているのだ。
そしてそれは、今の生活も同じーーー
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カンッ!カンッ!カンッ!
ジュウウウウウウウウウウッッッ
「本当にポピィは腕がいいな!その若さで大剣を修理できる鍛冶師なんて普通いねぇぞ!」
「ははっ!さすがはフェーバルさんの娘さんですね!将来は間違いなく逸材の鍛冶師になりますよ!」
「ふっふ〜ん!でしょっ!私ってば凄いんだら!」
にまっ!と笑って大剣を掲げる。鍛冶職をやっていたからか、普通の女の子よりはだいぶ筋力がついたらしい。
それと。この世界に来て知った事だが、ここは私の知っている世界とは全くと言っていいほど常識概念そのものが違ったーーー。
一つは、この世界には《魔術》と呼ばれるものがあり、《魔物》と呼ばれる悪い生物や《魔族》といった人間と敵対する存在。
そして、それらを統括する絶対的存在ーーー《魔王》と呼ばれる存在がいることだった。
もう一つは、人間もまた《魔術》を使うが、役職によっては武器を扱う者がいるという事。
それに伴い、複数種類の武器があること。
刀しか知らない私には、とても目から鱗の事実だったーー。
まあ、私が一番驚いたのは……。
「おらおらっ!しっかりしろっ!男のおめぇが年も下のポピィにやる気で負けてんじゃねぇ!」
「ひっ!?ひぃぃぃぃぃぃ!!許してくれお頭ぁ〜〜〜」
男だろうと女だろうと、大人だろうと子供だろうと、優秀であればどんな役職にもつけるという事だ。
つまり私はーーー
ーーー女の鍛冶師であるーーー
「ねぇ、こっちの鎧も治してい〜い?」
「ははっ!なんて奴だ、鍛冶職のランクBの俺たちですら治すのが大変な《竜鱗の鎧》を治すだなんて」
「もしかしたら〜、ポピィはそのうち《古代魔導武器》も治しちまうかもしれないな!」
「《古代魔導武器》?」
「ああ……」
《古代魔導武器》ーーープレシアスと呼ばれるこの武具は白、黒の色付きダンジョン最下層からしか取れない世界に未だ数個しか発見がされていない武具の事である。
主にダンジョンは階層の深さ×色でその攻略難易度が変わり、特に白と黒はどのダンジョンも百階以上の深さがあるため、Sランク級の冒険者かSパーティーランクでなければ潜入許可が降りない難関所である。
ちなみに〝冒険者ギルド〟と呼ばれるところに在籍するSランク冒険者は13人、Sランクパーティーは8組で、パーティーランクは在籍する最も高い者を基準に当てられる……が、まれにAランク×4人など一定の条件を満たした場合のみ許可が必要なダンジョンに潜入する事を許される事もある。
主にダンジョンの難易度は黄→桃→茶→青→紫→緑→白or黒となっており、紫色のダンジョンに関しては毎回深さや魔物の脅威度がランダムになっており、いずれも最大で緑色までの難度になっている……。
まあ、いわゆる〝ランダムボックス〟みたいな感じだ。
そして…………
稀に存在する厄災級と呼ばれる赤色のダンジョン。
これは周囲にも多大な影響を与えるためSランクパーティーであっても潜入不可。発見次第ギルド及び王国への報告が求められている。
この赤色のダンジョンは世界でも3つだけ確認されているが、Sランクパーティーがいずれもたったの一階層で敗退ーーー。
後日話を聞いたところ、皆こぞってあれはこの世のものではないと言う程の事であった。
そんな物好き連中が集まる冒険者ギルド。その皆がこぞって攻略を目指すダンジョン。
民を守る王宮や人間と敵対する魔王とその配下。
私の知っている世界とは、何もかもが違っていたーーー。
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「《古代魔導武器》かぁ〜?」
「そんな凄い武器があるんだね〜……ねえ、ポピィはやっぱりそういうのを探そうとは思わないの?」
気づけば鎧の修理ほったらかしで姉のところで今日の一日報告をしていた。
どうやら《古代魔導武器》によっぽど心を奪われていたらしい。
「でもそんなものが存在するなんて……やっぱりこの国は大国より小さい分、入ってくる情報も少ないのかもね〜」
私もいつか《古代魔導武器》を一目拝んでみたい。
そしてできるなら、修理してみたい。
「そわそわそわそわ……」
「ふふっ♪ポピィったらそわそわして、子供みたい」
「まだ子供だよ!?だって齢十五だもん。そりゃわくわくもするよ〜」
ヒュイはいつもギルドに鍛冶職人達が作った武具を卸し売りに行くのだが、どうやら《古代魔導武器》に関しての情報は初耳だったらしい。
よっぽど知られていない情報なのか、小さな国だからなのか、どちらにしても世界は広いのだなと痛感させられる。
「あらあら、こんなところでおしゃべりしてて。そろそろ夕飯のお時間よ〜」
夕焼けが沈み込む頃合いになって母の呼ぶ声が聞こえた。
「「は〜い!!」」
この時の私は知る由もなかった……。
《古代魔導武器》がいかに私の人生を巻き込んで、大きくこの世界を根底から揺れ動かす事になるのかをーーー。
しかし、それはまだまだ先のお話しであるーー。