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Ep.2-2 〝ヘパイストスの右腕〟

  

 


夢を……みる。


大鎚(おおつい)を片手に持った男が、けたけたと笑っているーー。


あれ、私……この人に会った事あったっけ……?



「……う、ん。あれ……?」


 朝の光に照らされて、目が覚める。


 とーーー。


「っーーー!そうだ、私……!」


昨日の悪夢を思い出す。


燃え盛る炎。


焼け尽くされる家。


息をしていない家族。


紫色の悪魔のような男に、


神か悪魔か、あるいは魔女かーー。


私に手を差し伸べてくれた女性ーーカーヴェラと名乗った女性ーー。


そして呼吸が浅く、今にも死にそうな姉ーー。


「っーーー!ヒュイ、ヒュイはどこーー?ヒュ……」


ふと、気づけばベットの上で寝ていたことに気がつく。


そういえば昨日ここにヒュイを寝かせて、そのまま気を失うように座り込んでしまっていたのだ。


ふと、ある違和感に気づく。


「あれ……、右腕が、なんか少し変……?」


そういえば昨日あの後、ヒュイを運んでいる最中こんな事があった事を思い出すーー。



……………………。



『いっーー!ああ……!』


『おや、どうしたんだい……あらあら、随分と無理をしたみたいだね〜?』


金色の髪色の女性ーーカーヴェラはヒュイを担いで歩くポピィの右腕を指差す。


気づくと家の中で火傷をしていたらしく、特に右の手首辺りが大きく爛れていた。


『う〜ん……アンタ、鍛冶職なんだろう……?その手じゃあもう、まともに武器の手入れは出来ないだろうねぇ……』


『っーー!そうですか……』 


仕方ない事だ。たった一人の姉の命と、私の右手、どちらが大事かなど天秤にかけるまでも無い。


たとえこの先右手がまともに動かなくても左手で打てばいい。


だが、一刻一秒を争うヒュイの命はいつ尽きるともわからない……。そう、これは仕方ない事なのだ……。



そう……思っていたのだがーー、


『まぁ、そう心配する事は無いさ……起きた時には()()()()()()()()()()からさ……』


『…………?』



……………………。


あの時はわからなかったけれど、この右手の感覚。


きっとカーヴェラさんが治してくれたのだろう。


姉を助けてもらった上に、私の手も治してもらっただなんて、何とお礼を言えばいいのか……?


そんな思いに耽け入るポピィーーと。



「おう、どうやら目覚めたようだな……」


「………………きゃあああああああ」


「っーー!おいおい落ち着け、私は敵じゃ無い!」 


騎士服に身を纏った男……確かに怪しい者では無さそうだ……。


「怖がらせてすまなかったな……。私はカーヴェラ様にお仕えしている者だ。」


「あ……そうだったんですね。こちらこそ、叫んでしまいすみません。突然の事でびっくりしてしまいまして……」


いきなり現れたーーイケおじ風の、顔に大きな傷のある男性が謝罪する。


互いに軽く挨拶するとトントンッ、とドアをノックする音が。


「おはよう……とは言ってももう昼だがね。気分はどうだい?」


黄金色の髪と瞳、白いドレス服で本を片手に持った気品溢れる女性ーーカーヴェラが部屋に入って来る。


「お、おかげさまで、何とか……その節はありがとうございました!ヒュイの事もそうだけど、あの悪い奴もやっつけてくれたり、右手も治してくれて…………」


カーヴェラはふっーー、と微笑む。


「気にする事は無い……。ほんの気まぐれさ。それより…………いたのかい?」


ポピィとほ対照的に雑な扱いを受ける騎士の男。


「ご、御前様!あなたが病人をほったらかしていくからでしょう……!全くあなたと言う人は……」


呆れる騎士の男をククク、と指を手に当て笑うカーヴェラ。


その姿からは昨日の〝魔女〟のような姿は微塵も感じられなかったーー。


「ああ、紹介が遅れたね。コイツはワタシの下僕のグレイス君だ。口達者で油断しがちだが、生粋のロリコンで変態だから気を付けろ?」


「ま、待ってください!!またあなたがそう言うからワタシはあらぬ誤解を……って、ポピィ殿?何も言わずに少し距離を置くのをやめてください!!」


へ……変態のロリコン……?


「だって事実だろう?女子供に手出しをする奴は許さないーー。なんて、側から見ればただのロリコンだろう、痴男め」


「お、女子供とは女性や子供のような力の無い弱き者に手を出す奴を許さないという意味であってですね……そもそも聖騎士たるワタシがそんな不純な事をするとお思いですかーー!?」


あたふたと取り乱すグレイスをからかうようにカーヴェラは続ける。


「ほぉ〜う、まだ聖騎士を名乗るのか?魔に身を落とした暗黒騎士がか?」


「魔に身を落とした……?それってどう言う……?」


 それにグレイスって言えば大昔に伝説と言われた《聖騎士》の……?まさか……


「そのままの意味さーー。コイツはな、いつの時代になっても弱き民を守りたいーー。たったその一心で《不死王(リッチー)》に身を落とした《暗黒聖騎士》なのさ……。以来500年もずっとその信念のままに善良な弱者を守り続けている……。どうだ?泣けるだろう……?聖国の口だけ達者なボンクラ共にもちったぁ見習ってもらいたいものだね……」


「ご、御前様……。あまりかつての我が祖国を(おとし)めるような事を言わないでもらえると……」


あからさまに聖国を軽蔑視するカーヴェラに、あたふたするグレイス。


「だが、だ。事実だろう……?」


(やっぱりこの人はあのグレイスさんだったんだ!すごい!絵本でしか聞いた事無い人だけど、実在した本当にすごい人なんだ)


と、幼少の頃ーーと言っても前世の記憶のあるわたしには幼少とはとても言い難いのだがーー、絵本の中の人物に出会えた事が、まるで夢のようでもあったーー。


「そういえば右手の調子はどうだい?ちょっと実験してみたんだが……」


「実験……っーー!まさか御前様、()()を使ったのですか!?」


ガシッ、とポピィの右手を掴み凝視するグレイス。


カーヴェラはポピィ一体何をしたというのだろうかーー、


「やはり間違いない……御前様。《ヘパイストスの右腕》を使いましたな!?」


「さすがグレイス君だーー。私は治癒方面については疎くてね……自己再生能力はあるがどうしても他者を治すのはちょっと……」


 〝ヘパイストスの右腕〟……って何だろう?


「かつての《大鍛冶師》ヘパイストスーー。その右腕を宿したあれは《英霊魂》の一つであり、世界で十数個しか発見されておらず、間違いなく〝大秘宝〟と呼ばにふさわしい逸品!実験などと言いそれをあなたはーー」


「あー、はいはい。まあ君の言いたい事もわかるわけだよグレイス君。確かに()()はそうそう世に出回っている物じゃあ無い。オークションにでもかければ金貨十万枚くらいで売れる事だろうねぇ……私だって惜しいとは思っているよ?」



スケールの大きい話についていけずのポピィを他所目に、口をへの字にして口角をあげるカーヴェラ。


「でもーーだ。私はその〝小娘〟の価値はそのさらに数十倍……いや、数百倍でもおかしくないと思っているよ?少なくとも間違いなく、この世で《古代魔導具(プレシアス)》を扱えるのはその娘だけだ……」


 ーー!古代魔導具……。それって確か、かつてウェサルさんが言ってた……。


「失われた伝説の秘宝……あれをですか!?しかしあれは……」


目を見開いてあからさまに驚くグレイス。


それを流し見、カーヴェラは続ける。


「ああ、今まで誰も修理できた者はいない……。かつて《極みの鍛冶師》と呼ばれたドワーフの〝アドルフ〟や、そこの娘の祖父ーー〝ゼフォラ〟でさえお手上げだったからな……。だが、私の見た限りその小娘は鍛冶師としてのポテンシャルは目を見張る物がある。千年に一人の逸材と言ってもいい……そんな奴が〝《太古の世代》の鍛冶師ヘパイストス〟……その右腕を使えばどうなるか?見てみたいとは思わないかい?」



ニヤッーー、と悪魔のような笑みを浮かべるカーヴェラ。


しかしグレイスもまんざらそうではなく、深く考え込んでいたーー。


「ポピィ殿が……!?まさか御前様がそこまでおっしゃるとは………」


(私が……千年に一人の逸材……?本当に……?)


「いやいや!!買い被りすぎですよ〜!そりゃあ〜確かに私は五歳くらいの頃から?ずっと鍛冶に触れてきたので?天才で優秀だとは思いますけど?いくら何でも千年に一人だなんて〜」


グレイスはどこか苦笑いをしており、ポピィは褒められてデレデレしている。そんな姿にカーヴェラはかつての弟子との記憶を思い出すーー。


……………………。


『なぁ〜、師匠〜。見てくれよこの剣!この柄の部分と言い大きさのバランスと言い完璧だろう!魔気の扱いがたぶん重要になるな〜。そうだ!名前は《魔剣ダークソード》にしよう!……どうだ!?すっごくいい名前だろ?』


少女は自身と同じ程のサイズのある大剣を、高らかに掲げる。


『相変わらず安直な名前が好きだね〜。だが…………確かにこの魔剣はなかなかいい質だ。このクラスの魔剣はそうそうお目にかかれないだろうな……。聖国や帝国がこぞって取り合いするのが目に見えるぞ?……ククッ』


口元に手をあてて不敵に笑うカーヴェラ。しかし……


『はんっ!()()()()()の連中に、この魔剣は扱えないだろうな!この魔剣を扱えるのはグレイスや師匠くらいだろう!はははっ!』


……………………。


 そういえばあの子も、()()()()()()()()()()……だったな……。 


ふっーー、とどこか懐かしむように伺うカーヴェラ。


それからしばらくの間、三人の会話が続くのであったーー。

  

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