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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

帰巣本能

作者: 鶯埜 餡

 あなたは帰巣本能が強い。


 どんなに雨が強かろうとも夜が遅くなろうとも、大雪になろうとも、かならず帰ってくる。

 たとえ間違ってほかの巣に行こうとも、かならず帰ってくる。

 私はそんなあなたをいつも通りの笑顔で出迎えて、いつものようにご飯を差し出す。


 そんな日常が繰り返し続いていたとき、あなたはお国のために招集されました。


 この家に残る私を思ったのか、とてつもなく嫌がるあなたでしたけど、最終的にはお役人様が我が家に来て、ほかのものたちと同じような格好をさせられてしまい、箱へと詰められ、前線へと送られてしまいました。

 せめてあなたがいる場所だけでも見にいってみたいと思った私ですが、この身では現地へ赴くことはできません。ですから、テーブルの上に地図を広げ、あなたが送られると聞いた場所をなぞるだけで、あなたの温もりを感じていました。


 それから数ヶ月、ほかのものたちは次々と帰ってくるのに、あなたは一向に帰ってきません。


 埃まみれになりながら、硝煙の臭いまみれになりながら、きっと帰ってくる。

 大切なものをどうにかして守り抜いて、王都まで戻ってくるのが、役割だと聞いておりましたので、私はそれを信じて待っておりました。


 私はろくに眠ることができません。身体がいうことを聞かなくても、私はあなたを待ってしまうのです。


 さらに数ヶ月経ち、あなたは木箱に入れられて帰ってきました。

 立派な装飾が施された、小さな白い箱に。

 ただの一介の駒でしかなかったあなたなのに、この国の主はこの国のために尽くしてくれたということで情けをかけてくださいましたようです。

 たまたまあなたと一緒に行動していたものから、戦地から王都に向かう途中、敵方の兵に撃ち落とされたと聞きました。


 生きて、帰ってくると約束したじゃないですか。

 帰巣本能が強いあなたですが、こんな形での帰巣はしてほしくありませんでした。

 なんでこんな身体の私ではなく、どこにでも飛べるあなたのほうが先に逝くのですか。


 木箱を抱えながら私は泣きましたが、あなたは反応してくれません。

 ただ一人、どう生きていけと言うのですか。


 もう立ち上がることもままならない私も、もうすぐあなたの元へ向かいます。

 私はあなたの手を借りてしか、外の世界にいるほかのものと連絡が取りようございません。


 でも、魂さえ自由になれば、あなたに会いにゆけます。そしたら、今度は私があなたを探します。

 だから、それまで、ずっとそこで待っていてくださいませ。

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