【コミカライズ短編】冤罪で投獄ですって？！ 地下牢の地縛霊に身体を譲って、逆転を狙った公爵令嬢のお話。
「フィオリーナ・ヴァレンティ公爵令嬢！ 俺とお前との婚約は破棄だ！ 王子の婚約者という立場をカサに、好き放題をしていたようだがそれも今日限り。己が犯した罪の報いを受けるがいい！！」
こう言って、第二王子カルロ殿下は私を王城の地下牢へと放り込みました。
殿下が並べた私の"罪"とやらは、はっきり言って、まるで身に覚えのないことばかり。
殿下の寵愛するルチア・テスタ男爵令嬢に数々の嫌がらせを繰り返し、果ては殺害未遂まで犯したというのです。
そもそも私という婚約相手がいるにも関わらず、他の女性と親しく過ごしているというのはどういうことなのでしょう。
結婚前から堂々と浮気をするカルロ殿下は、非を問われないというのでしょうか。
（あの方でしたら、決してこんな仕打ちはなさらなかったでしょうに……）
「ふぅ……」
悲しみの溜息が、口からこぼれます。
私の気力も、同時に抜けていくよう……。
（カルロ殿下に寄り添おうと努力してみたけれど、無駄だったようですわね）
元々、私の婚約相手は、第一王子ダヴィド殿下でした。
けれども不慮の事故以来、ダヴィド殿下は意識不明となられました。
お身体が回復しても、お目覚めにならないまま一年が過ぎ、いまも魔術師たちの延命術でお命だけが繋がれている状態。
王家の希望で、私の婚約相手は第二王子カルロ殿下へと切り替えられました。
私の意志などお構いなしに。
それから半年。
カルロ殿下と私の距離は、少しも縮まることなく、むしろ互いに遠のくばかり。
そして今日はとうとう、婚約破棄を叩きつけられました。
（……もう嫌ですわ）
私はドレスの隠しポケットから、そっと小瓶を取り出します。
何かあった時、自決するためのお薬。
いろいろなことが重なって、持ち歩くようになっていたそれを、静かに口に含みました。
「ダヴィド殿下、あなた様のいる場所に。殿下のお隣に、私も置いてくださいませ」
トサリ。
力なく、身体が地に倒れます。
こうして私は１８年の人生を閉じ……。
…………。
あれ？
ええと。
どうして意識がありますの？
（死ぬって、こんな感じなのかしら）
キョトキョトと辺りを見回してみますと、地下牢の床に倒れ伏した私がおります。
（でも私はここに……。！！ 手が透けて、石の床が見えてる？）
そっともうひとりの私に近づいて覗き込むと、蒼白な顔は確かに私で、少しの動きもありません。
（やっぱり死ねてます、の……？）
ではここにいる私は、霊魂──。
《死んでは駄目だ》
「ヒッ！？」
聞こえた声に慌てて振り返ると、そこに。
影のような人型が、立っていました。
モヤのように揺蕩い、目鼻だちがぼやけていてわかりません。
顔らしい位置を見上げましたが、消えそうな足元が揺らめいているので、背丈としては疑問が残ります。
声は直接私の中に響いてくるので、男性なのか女性なのか、その判別もつきません。
よくわからないモヤに、話しかけられてしまいました。
「あ、あなたは何ですの？」
私の問いに、モヤが答えます。
《……私はこの城から離れられない魂、かな》
話に聞く"地縛霊"というものでしょうか。
もしかしたら地下牢で、命を落とした哀れな魂……。
そう思うと我が身と重なり、胸が締め付けられそうになりました。
《それより早く身体に戻ったほうがいい》
モヤの言葉に、私は力なく微笑みます。
「私、毒を飲みましたの。戻ろうにも、もう身体は息をしていませんわ」
《毒？》
「ええ」
《それなら解毒されている。あのピアスで》
「え？」
モヤが倒れている私を指し示します。
驚いてもう一度確かめると、確かに私の身体は軽く上下し、頬もほんのりと赤みが戻っております。
ピアス……。
（ああ……！！）
それは目立たぬようにそっと隠しつけていた、小さなピアス。
どうしても外したくなくて、髪で耳を隠してまでつけ続けていた、ダヴィド殿下からの護り石。
解毒効果を持っていたなんて。
（いまも尚、護ってくださっていた……）
私は自分の気持ちを、再確認してしまいました。
（金輪際、自分に嘘をつきたくない。生き返って、誰か他の人に嫁ぐ未来なんて選びたくない）
そんな私の横で、モヤが焦ったように言いました。
《身体はきっと問題ないはず。さあ、早く。魔除けを施してない肉体は、悪霊に狙われてしまう。この城は、器を求めて彷徨う霊が多いから》
そこまで言って、モヤはつけ加えました。
《もっとも、本人の許可がないと、身体に入ることは不可能だけど》
「許可があれば入れますの？」
《まあ……たぶん……？》
私は少し考えました。
私がいま話してるモヤも実体なき魂。もしかして生への渇望がある……？
そして私はもう、戻りたくない。
「あなたも、私の身体が欲しいのですか？」
《えっ？ き、きみが欲しいかだって》
モヤは思いのほか動揺した様子で、身体を反らしました。図星だったのでしょうか。それなら。
「あなたに、私の身体を差し上げますわ」
《！！》
私の言葉に、モヤが硬直したように見えました。
善良なモヤらしい。"モヤさん"とお呼びしようかしら。
《そういう意味か……。──待つんだ。私は見ていたけれど、あなたは冤罪だ。すぐに助けが来るから──》
「良いのです。私は婚約を破棄されました。こんな傷物の女など、誰が娶ってくれましょう。それに、本当に好きな方はずっと目覚めない。結ばれることが出来ないのです。幸せも望めないのに、生きていても仕方ない……」
俯く私から、涙のようにホロホロと、透明なカケラが剥がれ落ちていきます。
これは魂のかけらなのでしょうか。
"モヤさん"はそんな私をしばらく見つめていましたが、やがてそっと言いました。
《……本当に、良いのか？ 後悔はしない？》
確認するように、"モヤさん"が揺らめきます。
「ええ。私の身体をどうぞ使って」
それから私は、"モヤさん"が私の身体に入っていく様子を見守りました。
ゆっくりと"私"が、フィオリーナ・ヴァレンティが身体を起こします。
そうして、やがて牢に訪れた兄によって、"モヤさん"な"私"は地下牢から解放され、公爵邸に帰ることになりました。
私はフワフワと、身体についていきます。
道すがらの話を漂いながら聞くには、父や兄が王家に掛け合って無罪を示し、私を牢から出してくれたようでした。
もともと牢に入れられる謂れもありませんでしたが。
私には、貴族令嬢として不名誉な経験と噂だけが残りました。
カルロ殿下は、お咎めなし。
頼みとしていたダヴィド殿下が倒れられて以来、国王陛下はすっかりお心弱くなられて、たった一人残った王子殿下にさせたい放題だったのです。
我が家からの抗議は、何らかの利権と引き換えに誤魔化されてしまいました。
私の身体に入った名も知らぬ"モヤさん"は、それから"私"として過ごし、やがて社交界にも復帰しました。
悪意と好奇の視線にさらされる中、寄って来る物見高い人たち。
私なら、いたたまれなくなっていたことでしょう。
けれども"モヤさん"は、柔らかな笑みと巧みな話術でそのすべてを難なくいなしていきます。会話を終えた後、近づいて来た人たちは、同情を寄せ、"私"の味方へと変わっていました。
そして彼らは"真相"を、話のネタとして拡散していきます。
こうしていくつかの茶会や夜会を経た後、フィオリーナ・ヴァレンティの名誉はすっかり回復し、誰に後ろ指をさされることもなくなっていました。
私はとても驚きました。
"モヤさん"の社交術の高さ、もとは貴族の霊だったのでしょうか。
国内のあらゆる事情にも、各貴族家の得手不得手にも精通しているようでした。
第二王子カルロ殿下は、時折同じ宴席で会しましたが、相変わらずルチア嬢を侍らせているようでした。
"モヤさん"は彼らと関わることなく過ごし、彼らが"私"に近づくこともなく。
私はホッとしておりました。
けれどもある日の園遊会から、その均衡は崩れました。
「甘～い。それにとても綺麗な色ですわね、カルロ様」
「あ、ああ」
カルロ殿下の隣で、ルチア嬢がはしたなく声を上げています。
マカリオ伯より、マカリオ特産の桃の果実酒を献上されたのです。
「どうなさいました、カルロ殿下。お口に合いませんか」
表向きは丁重に、けれども険を孕んだ空気で、マカリオ伯が尋ねます。
それもそのはず、先日カルロ殿下がマカリオ伯のご子息の恋人に手を出し、彼の名誉をいたずらに傷つけてしまったのです。
勧められた桃酒のグラスを手にしたまま、殿下は飲むことが出来ません。
飲めば口の中が腫れ上がり、痒さに見舞われ、場合によっては大きなショックで倒れてしまう……。そう、彼は桃のアレルギーがある。
「カルロ様？ 桃のお酒、とても美味しいですわよ？」
あらら？ ルチア嬢はご存じないのでしょうか。殿下に桃を促すなんて。
公にはされていませんが、この様子からマカリオ伯は知ってらっしゃるようです。まあ、少し探ればどこからでも漏れますわよね。
マカリオ伯が手ずからお渡しになられていたグラス。
いかに殿下といえど、堂々と突き返すことは出来ません。
（さて、どう言い訳されるのかしら）
空中から私が様子を見ておりますと、向こうから"私"の身体が……、"モヤさん"が歩いてまいりました。
そしてそのまま殿下の背にぶつかります。前が見えていなかった様子で。
「あっ、申し訳ございません」
「まああ、フィオリーナ様！ カルロ様にぶつかるなど、無礼にもほどがありますわ！ 桃酒がこぼれて、大切なお召し物を濡らしてしまったではありませんか」
謝った"モヤさん"に、ルチア嬢が非難の声を上げます。
「私の不注意で、とんだ粗相を」
重ねて丁寧に詫びる"モヤさん"の近くで、カルロ殿下が安堵したのを私は見ました。彼のグラスが空になったからです。
"モヤさん"はグラスに気づいたように目を見張ると、マカリオ伯に向き直り頭を下げました。
「マカリオ伯にもお許しください。せっかくの桃の果実酒を、台無しにしてしまいまして」
「あ、ああ。いや……」
私が婚約破棄されたことは諸侯の間にも知れ渡っております。
マカリオ伯のご子息よりも被害を被った"私"の介入に、伯も気勢をそがれたようです。
もしかして、ご子息の恋人を救い出したのが"モヤさん"だと言うことも聞き及んでいるのでしょうか。
目に見えて"あたり"が緩やかになりました。
変わった空気を逃さず、"モヤさん"が言葉を続けました。
「マカリオ伯のご領地では今年、好天が多く、桃はとても美味しく実ったとお聞きしています。最高級の桃とお酒をいただくことが出来て、この園遊会に参加出来ましたこと、私、とても幸せです」
にっこりと優雅に微笑む姿は、私でさえ"私"に見惚れるほどです。
清らかな声がそのまま、少しの憂いを含んで紡がれました。
「ですが、雨が少なかったということは、水にお困りなのでは？ いかがでしょう、カルロ殿下。マカリオ領に流れ込む大河川の使用料を引き下げるよう、国王陛下にご相談されてみては」
「おお、そうしていただけると」
ぱっとマカリオ伯が弾んで、カルロ殿下を見ました。
"ご子息の件はそれで手打ちにしたら？"と、言外にふたりに提案した後で。
「まあ、私ったら。身の程もわきまえず、思ったままを口にしてしまって。差し出たことを申し上げました。ご容赦くださいませ」
"モヤさん"はうっかりを装いながら、すぐに話から引き上げました。
そして「殿下がお風邪を召されてしまいますわね」と言い、カルロ殿下をその場から逃がすよう立ち回ったのです。
"もっと楽しみたい"と騒ぐルチア嬢を伴い、カルロ殿下は桃だらけの園遊会からご退出されていきました。
水不足時における使用料の緩和。
カルロ殿下が上手く国王に働きかけが出来なかった場合、マカリオ伯はご子息の恨みに加え、期待した分の逆恨みも加わることでしょう。
ですが、"モヤさん"への実害はありません。
そしてもし上手くいった時には、殿下とマカリオ伯の双方に、多少の恩を売ったことになります。
この件を皮切りに、そのようなことが何度となく続きました。
カルロ殿下のフォローに、"モヤさん"が回りはじめたのです。
カルロ殿下が少しずつ、"モヤさん"な"私"を近づけ始めたのがわかりました。
それに比例して、場を乱すだけのルチア嬢は、以前ほど殿下に構われなくなっていくようでした。
しょせんは男爵令嬢。王子が同伴しなければ、高位貴族の集まりには出席すら出来ません。
自然と視界から消えていきました。
私はだんだんと、不安になってまいります。
先の婚約破棄が尾を引き、フィオリーナ・ヴァレンティの次の婚約相手はまだ決まっていません。
もし、カルロ殿下が"婚約を元に戻そう"と言ってきたりしたら？
譲り渡した身体だけど、それは嫌。絶対に嫌。
カルロ殿下に傷つけられ、私は身体を手放したのです。
その私の身体が殿下に寄り添うなど、受け入れることが出来ません。
（もしかして私は、取り返しのつかないことをしてしまったのでは……？）
目的もわからない霊に、軽率に身体を譲ってしまった。
あの時"味方"だと感じた"モヤさん"への直感は、間違っていたのでしょうか。
"モヤさん"はずっと私の身体を大切に扱ってくれていたけれど、それは善良さからではなく、いまや"自分の身体"になったから？
見ているだけしか出来ない私に、次第に焦燥が募り始めます。
私の焦りをよそに、意図が読めないままの"モヤさん"は、カルロ殿下とどんどん親しくなっていきました。
"モヤさん"の思わせぶりな流し目は色気に満ちて、実に艶っぽいのです。
私がフィオリーナだった時には見せなかった眼差しで、カルロ殿下が"私"を見ます。
けれどもそれは、欲情の灯った目。
私はゾッとしていました。
"モヤさん"がカルロ殿下に身体を触れさせなかったことだけが、気持ちの支えでした。
でも今日は。
"モヤさん"は殿下のお部屋に招かれたのです。
部屋に入ると、"モヤさん"は殿下に、王妃様の新しい宝石を見たいとねだりました。
遠国から珍しい宝石を献上されたと、話題になっていたのです。
こればかりは使用人任せに出来ません。
殿下が王妃様に頼むため席を外すと、"モヤさん"が虚空に向かってそっと呟きました。
「フィオリーナ嬢？ 近くにいらっしゃいますね？ お願いがあります。この部屋のどこかに、魔力を感じる小箱が隠されていませんか？ あれば教えて欲しいのです。むき出しの状態の魂なら、魔力感度も上がっているはず」
表向きは独り言。
けれど"モヤさん"から話しかけられたのは、"モヤさん"が肉体を持って以来、初めてのことでした。
「見つけたら、ありったけの想いで念じてください。あなたの魂は、この身体と繋がっています。強く知らせて貰えたら、感じ取れる」
どういうことかは、わかりません。
でも、確信に満ちたあまりに真剣な声に、私は従いました。
"モヤさん"のこれまでの目的がその箱であったように、私には感じられたからです。
私はまだ"モヤさん"を信じていたかった。
物体をすり抜けられる身体を利用して、カルロ殿下の部屋をくまなく探し、やがて飾られた甲冑の中に、その小箱を発見しました。
（見つけたけれど、強く念じると言っても……）
いまの私は肉を持たない幽し存在。
声を伝えることも、物を動かすこともかないません。けれども強く思えば良いと、"モヤさん"は言いました。
（ええい！！）
精一杯の力を込めて、甲冑の腕を押してみますと。
「そこですね？！」
弾かれたように、"モヤさん"が私の身体でこちらを見ました。
そして甲冑の腕を外すと、中から小さな箱を取り出し、見えないはずの私を探しながら、こう言いました。
「ありがとうございました、フィオリーナ嬢。長くあなたの身体をお借りしてしまった。実は私の魂は、大部分をこの箱の中に閉じ込められていたのです」
"モヤさん"の視線が、ちょうどピタリと私と合いました。
「閉じ込められる寸前、こぼれ逃げたのは何の力も持たない意識。モヤのようなこの意識だけでは、たとえ目の前に自分の身体があっても動かすことが出来なかった」
（えっ、でも、私の身体は動かせて……？）
私の疑問が聞こえたかのように、"モヤさん"が言葉を足します。
「お借りしたあなたの身体は、完璧な魂であるあなたがそばにいてくれました。あなたの許可のもと、操ることが出来たのです。あなたが私を信じてくれていたから」
嬉しそうに私の顔で、"モヤさん"が頬を緩めます。
はにかむようなその表情を、私は見たことがありました。
（まさか……）
「あなたには不本意だったかもしれない行動も、たくさんしてしまいました。弟の部屋に入る必要があったためです」
（弟……）
「勝手で申し訳ないけれど、ここから先はあなたに身体をお返しします。カルロのことは、すぐに切ってください。彼はこの後、"呪具"の仕掛け人として捕まることになるでしょう」
（"モヤさん"。"モヤさん"はつまり……）
「私の"隣にいたい"と言ってくれて嬉しかった」
私の脳裏に、あの日、地下牢での最期の言葉が蘇ります。
──ダヴィド殿下、あなた様のいる場所に。殿下のお隣に、私も置いてくださいませ──
（ああ……！ ああ！！）
"モヤさん"が私の手で、パカリと小箱を開けました。
とたんに箱から白い光の球が飛び出し、私の身体からモヤを吸い上げてひとつになりました。
そして、すさまじい勢いで王城の一角へと飛び去って行きました。
残された箱の内側に記されていた魔法陣が、力を失うようにその輝きを失くし、単なる絵へと変わりゆきます。
箱は、私の手の中にありました。
「そういうこと、だったのですね」
ぽつりとした呟きは、自分の肉声として久々に耳に届いたのでした。
事故の日以来、目覚めなかった第一王子ダヴィド殿下。
その魂は、カルロ殿下に捕らわれていたようです。
カルロ殿下は、昔から何でもダヴィド殿下のものを欲しがっていました。
婚約者を欲しがったのも、きっとそのせい。
手に入れてすぐ、捨てたけれど。
だからダヴィド殿下の第一王子としての地位も、奪っていたのでしょう。
決して許されることはではありません。
カルロ殿下が部屋に戻ってきたけれど、私はそれどころではありませんでした。
「フィオリーナ嬢？ どこへ行くんだ？ もう一度俺と婚約を──」
「お断りします！！」
皆まで聞かず、私は手に箱を持ったまま、振り向きもせずに駆け出します。
淑女が城内を走るなですって？ 知りませんわ。
だって、私には待っててくださる方がいる！！
「ダヴィド殿下！！」
第一王子の部屋に駆けつけた私を、微笑みながら迎えてくれたのは、目を覚ましたばかりのダヴィド殿下でした。
その後、城内は騒然となりました。
昏睡から目覚めた第一王子が、第二王子を告発したのです。
呪いの小箱を物証として。
そして再調査の結果、ダヴィド殿下の事故も、カルロ殿下が仕込んだことが確認されました。
カルロ殿下の悪辣なたくらみは、国王陛下の激しい怒りを買いました。
王籍剥奪に留まらず、彼は北の果てに送られ、犯罪者として厳しい労働刑が科せられることが決定。
横になることさえ許されない苛烈な環境で、そのお命は一年と持たないだろうと言われています。
私とダヴィド殿下の婚約は元通りに。
さらにダヴィド殿下が手を回されたらしく、私は呪いを暴いた功績として、カルロ元殿下が持っていた領地の一部を賜ることになりました。
「どうしてお話しくださらなかったのですか。地下牢で名乗ってくださっていたら」
「卑怯だったと反省しています。でも、あなたを守ることも出来ず、死を選ぶまで追い込んでしまった無力な自分を恥じていたのです。それにもし……私が身体に入ると知ったら、抵抗があるだろうな、と」
その言葉で私はボッと真っ赤になってしまいました。
あることに気づいたからです。
「あっ……、あっ……」
着替え、お風呂、化粧してない素顔。
「きゃあああああ」
「す、すみません。だから"後悔しないか"と聞いたのに……」
「それは意味が！ 違いますわ！！」
「責任は取りますから」
「それも何だか、違いますわ！！」
ご機嫌を取ろうと必死であやしてくるダヴィド殿下相手に、存分に駄々をこねながら。
私の心は、幸せで満たされたのでした。
お読みいただき有難うございました！！
長い文字数を書く練習のため、今回8,000文字あります。
さらりと読めることを目指して頑張ってみたのですが、いかがだったでしょうか？
実は別のお話を書いていて、そちらがなかなか進まないので"気持ち良く好きなの書こう！"と手を出したのが今回の短編です。個人的好き要素が詰まっていますが、タイトルで不安を呼びそうでドキドキ。
こわく、ないですよ～～？ ざまぁ手心加えちゃったし…。(普通、処刑案件…)
【入れなかったエピソード】
①マカリオ伯の息子の恋人を悪の王子からサラリと保護した後「お姉さま」と懐かれる ←可愛い小動物に牽制されることになるその後のダヴィド
②他の霊と遭遇するフィオリーナ ←いろいろふよふよしているらしい。悪霊からモヤさんの顔見知りまで？
③疑惑が高まるフィオリーナ ←緊迫展開。でもモヤさんが彼女の身体を動かせなくなるから却下
④モヤさんの「フィオリーナが可愛く見える角度」研究 ←彼女のことが好きすぎる
……脳内で、楽しみました(u▽u;) すみません。
でも感想返信には「モヤさん、フィオリーナとしての初行動＆失敗」なミニ小話があったりします。
「面白かった」際にはぜひ、下のお星様を★★★★★して知らせてやってください！ めっちゃ励みになって大喜びします！！ ではではまた～(*^▽^*)/
（↑中身はモヤさんなフィオリーナ）
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2023.03.31.10,000PT越えありがとうございます！！
（↓何もないのでカルロの没ラフを追加（笑））
