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第五話 衝動買いは防げない

事前に買うものを決めてもセールとか特売とかやってるの見たら購買意欲に負けちゃうやつ。

「おぉ」

「うん、似合ってるね」


 ナオキがブーツの履き心地を確かめるように、足元を見ながらブーツの前後ろを確認する。


「サイズは少し大きめにしたけど、どうかな?」

「えっと……思ってたよりしっくりきます。見た目もそこまで派手じゃないし……」


 サグルは、視線を寄越してきたナオキの意を汲んだ。

 気に入ったが、決めるのは自分にして欲しいのだろう。

 久しぶりに兄として弟の気持ちを理解したサグルはシオリに告げる。


「ナオキも気に入ってるみたいなので、これも購入で」

「うん、あっ、タグは切っておくから、そのまま履いてても、大丈夫だよ!」


 ナオキは余計なことまで言うサグルに、素直に感謝できなくなった。






「ウルフの服上下二着と、ナオキくんのユニコーンのブーツ、サグルくんのDASHシューズと、ベルトが二本、だね。武器は、見なくても大丈夫?」

「あっ」

「あー、忘れてました。俺はとりあえず一通り揃えてるんで、ナオキの分用意しないと」


 新しい服とブーツにベルトを選んで、黒川兄弟が既に満足していたがシオリの言葉で武器の存在を思い出した。


「ナオキはシーフだから……短刀とか? 何か使いたい武器とかあるか?」

「え、二刀流」


 武器じゃないじゃん。

 しかし、年相応に夢見がちな弟にサグルは笑ってしまう。


「二刀流に憧れる人は多いけど、実際は使える人はいないって言われてるのは知ってるだろ」


 二刀流は、いわば縛りプレイと変わらない。

 手数の多さは魅力的ではあるが、その反面、デメリットの方が多い。

 まず、刀剣を自在に振り回すこと自体が難しい。一刀ですら満足に扱うことができる人間が少なく、何より、二刀にすることで一振りに乗る体重が激減する。


 踏み込みは隙を作る動作となってしまうからだ。

 手数の多さゆえに、一度隙を見せてしまった時、止まれないのだ。渾身の一撃は放てず、対人でなくモンスター相手には撫でるように切りつけるしかできない今の二刀流は火力の低さから数多の物語に登場する使い手をロマン型主人公と呼ぶ傾向さえ出てきている。


「俺も一回やってみようと思って試してみたけど、あんな重たい長物二つも振り回すなんて絶対無理だって」

「あ、サグルくんやったんだ」


 かわいい……と、シオリが微笑ましそうに笑っていることに気づいていないサグルは、ちょうど手の届くところにあった長い筒状の何かをナオキに手渡した。


「ナオキの想像してるのってこれくらいの長さのやつだろ」

「そうだけど……」


 その通りである。その筒は太いが長さは想像していた通り。

 ちょうど竹刀の長さの、日本刀をイメージしていた。しかし、憧れてしまったものは仕方ないではないか。不貞腐れるようにナオキは筒をサグルに返した。


 サグルはその筒を元の場所に戻そうとして、やっぱり止める。


「にしてもこれ重たいな……あの、市ヶ谷さん。この筒ってなんですか?」


 中身が気になって、店主のシオリに尋ねた。

 サグルが二刀流で振り回される姿を想像してほっこりしていたシオリは我に戻る。


 そうしてその筒を見た時、ああ、と思い出したように口にして、サグルの問いに答えた。


「それ、技研の最新作で『魔除けの支柱』って言うんだけど、なかなか売れなくて」

「魔除けって本当ですか? えっと、値段は……は?」


 タグを見る。お値段なんと¥165,000。


「一部のモンスターには効果はない、みたいなんだけど、本当だよ? ダンジョン内で安全なキャンプ地を作れるんじゃないかって、商品化したみたい。でも、深層でサグルくんたちが討伐してきた、あの龍の鱗が混ぜられてるから値段が高くて……そもそも、ダンジョン内でキャンプをする人は中々いないし、多分もう、技研でもつくられることはないんじゃ、ないかな」


 なにこれしゅごい。シオリはそんな安易な動機で仕入れした結果、見事に在庫を抱えることになってしまっていた。お陰で仕入れした月は赤字運営となり、今の売り上げはだいたい補填するために使われている。


「これ、一個だけですか?」

「ううん、一応バックヤードにもう四個、あるよ?」

「なら、四つ買います」

「……ほんとう?」

「は? サグル、それ、母さんが買ったっきり使ってないダイエット器具並みに無駄遣いだって。お金があるからって散財はやめろって父さんも言ってたろ」

「まぁ、まぁ、実はやりたいことがあったんだよ」


 シオリがサグルに対して不思議そうにする。ナオキも、一度に60万円ほど使ってよく分からない筒を四つも買おうとしているサグルに対して懐疑的だった。

 もしかして、シオリを助けるために買っているんじゃないのかと勘繰ってしまう。


「市ヶ谷さん、ここで異能使ってもいいですか?」

「え、うん。外の監視カメラが届かないバックヤード使って欲しいんだけどいいかな?」

「はい。ありがとうございます」


 シオリが、扉を開けて、サグルとナオキはバックヤードに招かれる。

 そこには、表に陳列されている商品よりも数多くの品が山積みになって置かれていた。


「えっと……あった。これが四本でいいんだよね?」

「はい。装備と合わせて一括で払いますんで、先にキューブ化だけさせてもらいますね」

「うん。いいよ?」


 本当に買うのかよ。ナオキはその購入の意図がどこにあるのかもしれず呆れたようにため息をつく。

 まあでも、サグルが稼いだお金である。サグルが使いたいように使うことを止められるわけがない。それに、機嫌を損ねて入学祝いがご破産になるのはナオキが困るのでいらないことは言わない。


「へー、初めて見たけどサグルの異能ってキューブ化だっけ? ソロで冒険者するより運送業者始めたほうが稼げるんじゃないの?」

「民間じゃダンジョン内でしか異能の行使が認められてないから無理だって」


 そうでなくとも、サグルは曲がりなりにも一年間、荷物持ちとしてだが冒険者としての自負が芽生えている。

 すでに大金持ちではあるが、まだ引退も考えていないし、だからこそ一から再起することを望んでいるのだ。


「それで、この魔除け買ってどうするんだ。まさか本当にダンジョンでキャンプとかするつもりなのか?」

「あー、まぁ、それも面白そうだし、小島くんと大崎くんも笑ってくれそうだからありっちゃありなんだけど」


 しかし、それをするにはまだ読経が足りていない。

 そもそも深層にでも向かわなければ日帰りで事足りるのだ。わざわざキャンプをする必要もない。


「で、やりたいことって何なんだ?」


 ナオキが問う。

 シオリもサグルの答えを知りたがっているのかうずうずしている。


 そんな二人の様子に気を良くしたお調子者は、堂々と、それが当然のように楽しいことになると確信した顔で問いに答えた。


「ちょっとダンジョン買ってくる」

読了ありがとうございます。


本当は装備整えて終わりだけのつもりでしたがこうなりました。ダンジョン攻略するんだろうなぁとぼんやり考えてたけど路線変更してますねこれは。

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