第三話 ダンジョンマート
ダンジョンマートには夢が詰まっている。
かっこいい武器に防具、探索に必要なアレやこれや。
モンスターに対抗すべくダンジョン資源が使われているため値こそ張るが、新しく開発された商品など見ていて飽きない楽しさがある。
「うわー、サグル、ほらあのブーツはダブルダッシュエックス社の最新モデルだって! うわ、あっちはブルースニーカーシリーズのフル装備だ。ファンタジアンの妖刀にCore-MFのバックパック……うわぁー、うわぁあーーっ!」
どうやら一年間の歳月は弟を拗らせてしまったらしい。
サグルはアイテムオタクになってしまったナオキを見て人とはここまで変わる者なのかと思い知る。
「ナオキ、恥ずかしいから2メートル離れてもらっていい?」
「ご、ごめん。ちょっとテンション上がった」
我に帰ったのか、照れながらナオキは謝り、先を歩く兄の背中を追いかける。
「で、なんでも買っていいんだっけ?」
「な訳あるかい。不相応な装備は自分を勘違いさせるんだぞ」
テレビで言ってた受け売りである。
「まぁ、ちょうど金……仲間探してたところだし、とりあえず上層の攻略は時間が合えば一緒にやっていこうと思うんだけど別にいいよな?」
「パーティだろ。ソロじゃもしもの時怖いしこのダンジョンのことをよく知ってるサグルがいてくれるなら心強いな」
嘘だろナオキ。
純粋に頼られることに面食らったサグルが二度振り返る。
「なんだよ?」
「お前、ナオキか?」
「は?」
こうして、弟から頼られることに違和感を覚えるほど自己評価が低い兄は、奇行を晒してしまった。
兄弟とはいえ、家で顔を合わせる時間もそう長いものではない。
むしろ、サグルがダンジョンにもぐりはじめてからというもの、休みの日は毎日のように冒険者活動をしていたのだから受験生だったナオキとは少しだけ距離ができていたのだが、その間の兄の変わりように弟は訝しんだ。
「サグル……まさか変な薬使ってないよな?」
「使ってないから。真剣な顔で暗にお前頭おかしいって言うのやめい」
「口調もなんか変わってる気がするし……ダンジョン攻略で疲れてるんじゃないのか?」
「至って正常だから。ちょっと変わった人たちと潜ってたからその影響だって」
変人扱いの上、責任の擦りつけである。
ナオキはもう二人には合わせられないなぁと何処かの犯罪者のようにあははと笑う裏で考えていたサグルは、目的の場所にようやくついたことに気がついた。
「あったあった、今日はここで防具揃えるつもりだから」
「……『あなたの欲しいものが見つかるかもしれない“ユニゾン”』?」
店前に立てられていたキャッチフレーズを読み上げたナオキが頬を引き攣らせるように笑った。
「いや、そこは「見つかる」って断言すればいいのに」
「なんかここの店主さん自信がないみたいでさ。でも品揃えはちゃんとしてるし、武器のオーダーメイドも受け付けてるから心配しなくていいぞ」
半透明のガラス窓付きの扉を押して、ベルが鳴る。
サグルの後ろをついていくように入店したナオキは、狭い室内でみっちりと所狭しとならぶ品揃えに目を輝かせた。
「いっ、いらっしゃぃませ〜……?」
「市ヶ谷さん、こんにちは! 今日は弟も連れてきました!」
「あっ、サグルくん。えへへ、こんにちは」
出迎えたのは、長い黒髪のおどおどした女性店員だった。
来客したのがサグルだと知るや否や、フニャらと顔をやわらげて笑顔をつくる。
「聞きました? 小嶋くんと大崎くん、今日からサッポロなの」
「うん、聞いた、よ? 二人とも、ここじゃ有名だし」
ナオキは愕然とした。
おそらくは大学生あたりだろう、ダークカラーコーデの大人しそうな大人の女性が、傍目から見て、兄に好意を寄せているのが丸わかりだったから?
もちろんそれもある。それもあるが、そうであるが故に。
兄があんなにわかりやすい好意に対して鈍感だったことに何よりも驚きを禁じ得なかった。
読了ありがとうございます!
ヒロイン一人目登場です。
書いてたら自然発生した野生のヒロインです。
つまりイレギュラー。
特にこの先を想定したキャラではないのですが、なんだか気に入ったのでそのまま進行します。




