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第一歩

 人類史でダンジョンがはじめて確認されたのはつい最近のことだ。


 歴史の転換点と言われ、世の中の関心はダンジョン、ダンジョン、ダンジョン。

 けれどもどうにも実感が湧いてこなかったのは、今その時点が未来から観測される想像ができなかったからだろう。


 なによりも――その時はまだ、自分とは関係のないことだと、そう、思い込んでいた。


 のちに世界中で起きた大氾濫の渦中にて、ようやくその意味を理解することになる。



 人が死んだ。

 ダンジョンのせいだ。

 具体的に言えば、モンスターたちはその坩堝を飛び出し、あまりの数の多さに人間は負けた。


 魑魅魍魎が跋扈する街中、平穏に過ごしてきた現代人に抗う術はない。

 逃げるように避難所へ向かい、有志で立ち上げられた男所帯の自警団が最後の砦。幸いにも国が滅ぶまでは行かず、電気も水も食料もあって、助けがくるまで人同士の主張をぶつけ合う小競り合いで疲弊しながらもなんとか持ち堪えられた。


 そして、平穏を取り戻し家へ帰る事ができてから、初めて理不尽な現実を落ち着いて理解することになった。



 自分は関係ないと決めつけて。

 情報を手に入れるため動くことを怠った。

 その結果、他の人間たちのように。

 まるで無責任に助けられる事が当たり前のように。

 そうしなければ、明日も生きられない赤ん坊のように、自分の命を他人に任せてしまった怠惰に気付かされ、思い知る。




 £

 


 ――星が降る。それは夜空に流れる綺羅星と違って無視する事ができない破滅の象徴にしか見えなかった。


 逃げようがない。結末が見えた理不尽の光景に、足がすくみ、腰を抜かしそうになって、ただ呆然と死を待つだけしかできなくて。




 不甲斐ない自分を変えたいと、そう願った。




 £













 結論から言うと、それは夢だった。

 星に潰される夢だ。

 ただそれだけのことと言い捨てられない。


 今度こそ他人事のように考えない。二度と同じ過ちを犯さないと決意していた俺はダンジョンに纏わる情報を収集しており、星に潰されて死ぬ意味を知っていた。


 まことしやかに噂されている情報の一つに。

 ダンジョンが現れたことをきっかけに、人にしてはあり得ない異能を操る超人たちが見つかり始めたらしい。


 俺が助けられたのも、その超人たちからの協力があってのことだ。国全体で地上の平和を取り戻すには規模が広すぎて、日本政府のみでは対応しきれなかったらしいが、モンスターたちに対抗できる人間が現れてから状況は一転したらしい。


 既存の銃火器や刀剣が通用しないモンスターたちをどうにか押し込むしかできなかったが、各地の自警団から現れたそんな超人たちがモンスターを討伐し始めたことをきっかけに人類は反撃を開始した。


 モンスターを傷つけるには、超人の力が必要で。

 それ以外には、モンスターの死骸から取れる素材を武器にすれば対抗可能だったらしい。


 生きているモンスターを傷つけられなくとも、死ねば人の手を加えることも可能になるようで、対モンスター用の装備が整えられて、全国で一斉蜂起する形でモンスターを鎮圧、ダンジョンからの氾濫を阻止して押し戻すことに成功したのだ。


 そんな立役者ともいうべき超人たちだが、その異能に目覚めるきっかけが共通していた。


 いずれも、夢の中で、星に潰されて死んだというのだ。


 確証はないが、超人たちは揃ってその夢を見たと話し、政府は異能に目覚めた存在を、星の加護を授かったものたち――スターダストと呼称した。


 スターダストには選択肢が与えられる。


 服従か死か、なんて独裁国家の真似などできるわけもなく、国の特殊部隊スターズへの所属を要請した。


 条件は破格の待遇で、断ることもできるが、その場合、民間での異能の独断使用は禁止されるみたいだ。

 スターズの主な任務は、今回のように氾濫が起きた時に備えて訓練したり、普通の人間にもモンスターへの対抗手段を与えるための素材回収――つまり、ダンジョンの攻略である。


 異能を使った実践のスキルが学べるし、政府公認で社会的地位もある。収入だってあるし、学校がぼちぼちと再開し始めてから、あそこのクラスの誰々がスターズに入っただとか耳にするくらい、魅力的な選択肢だ。


 本来なら、というか、もしも氾濫時、俺が自警団の一員になるだけ勇敢な、不甲斐なくない自分なら絶対に入らないという選択肢はなかっただろう。また、変わりたいと思っている自分にしても魅力的な選択肢だ。


 だけど、俺は不甲斐なくて、そして、変わりたいと思った根本的な理由は、自分の命を――自由を奪われたくないと思ったことにある。


 政府の下で就業して、給料を受け取り、指示に従う。


 社会であれば当たり前の雇用関係だ。

 けれど、そうしてお国のため、人々のために働きたいと思えるほど俺は出来た人間ではなかったから、その選択肢はあり得ない。




 異能に目覚めたことを、政府に新しく開設されたダイヤルに繋いで報告し、諸手続きで役所へ出向いた俺は、その口でキッパリと宣言した。



「スターズには入りません。

 ……だけど、冒険者になろうと思います」








 それは、夢の続き。



 変わりたい自分とはどんな姿か、ナニカに尋ねられた時。

 明確な意思を持って理想の姿を明言した。


 今度は、その他大勢ではない。

 そして、誰かのための英雄でもなく、あくまでも自分のために。


「俺は、自分らしく生きたいです」



 その言葉を実現するために。

 俺はこれからの道を選び続ける。






――――――――――――――――――――――――――――ー


名前:黒川探流/KurokawaSaguru

年齢:16

所属:なし

異能:不明(自覚なし)

職業:冒険者


――――――――――――――――――――――――――――ー


備考

所持金、3,254円


お読みいただきありがとうございます。

ご不快になるかも知れないので注意書きさせていただきます。

次話は一年後となります。主人公の性格が変化しています。「そうはならんやろうがい」という感想は甘んじて受け入れますが「なっとるやろがい」としか答えませんので悪しからず。

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