第一六話 戦闘で昂揚すると人間関係なぁなぁになる男子という生き物
この時点でサグルとカイトは普通に話すようになってます。
それだけです……。
モンスターが絶命した瞬間からサグルの使うキューブ化が可能になる。
ナオキとカイトの活躍で倒したモンスターを手早くキューブにしてポーチに回収したサグルは、これからどうするかなぁと思い馳せる。
「予想外にうちの弟が強かった件……」
「どこの訛り?」
「なろう弁」
「いや、名楼で語尾に“けん”をつける人直接見たことないんだが」
兄弟でたいした益もない駄弁りを繰り広げていると、カイトはその場で自身の身軽さを確認するためかステップを踏み出した。
装備をはじめて使ってみて、特に身体能力に恩恵があった冒険者によく見られる行動でサグルは微笑ましく見守るが、その動きの洗練具合はまるで舞でも踊っているのではないかというくらいスムーズな身のこなしようである。
自分もかつてあんなふうに自在に動くことを夢見てたっけと、にこにこ笑いながらサグルは傷心する。なに君たち、センス強くない?
これが支部長に認められた強さの可能性を見出されたーー才能ある人間たちかと、世の理不尽を呪う。
異能持ちなだけで普通は他の冒険者より一線を画する強さを得るものだが、モンスターとの戦闘では使い方が難しいキューブ化は荷物持ち特化みたいなところがあって、しかもどういうわけかサグルには恩恵が効きにくい体質があった。これが頑丈体質による弊害なのか分からないが、冒険者最弱と言われる所以が、この差にある。
生身の身体能力しかないサグルは基本的に、パーティ単位の戦闘力に換算してはいけない。あえて良さげな表現をするなら絶対に無くならないアイテムバッグといった備品だ。人であるのが惜しまれる。
やはり自分には荷運びしか道はないのかと考えながらも、一旦ナオキとカイトを集めて作戦会議を行う。
「あのクマは最近、YTuberの“マジ狩る少女プリティキュートちゃん”が生態観察動画を上げてたから知ってるとは思うけど、上層でも五階層までなら最強のモンスターだ」
「いや当然のように知らない人の名前あげるのやめろ」
「えっ、ナオキ知らねーのか」
「まさかの知らないの俺だけかよ」
カイトが珍しいものを見たとでも言いたげにナオキを見るが、ショッキング映像が多すぎて現在アカウント凍結中である。登録者もコアなブラウザユーザーがこぞってチャンネル登録をしているだけなので、ライトに全ジャンル嗜むナオキには深すぎる位相の人間だった。
「確か、あの子中二だったよな?」
「ああ、ある意味厨二真っ只中だな」
見た目の愛らしさとぶりっ子っぽい話し方でモンスターをズタズタに討伐したあと、「やっぱり私がさいつよね!」と締めるのが恒例だった。大人になって後悔する光景を視聴者たちは望んでいる。
「いや、てか今はマジ狩る少女プリティキュートちゃんの話してるわけじゃないから。脱線させるなよ」
「まず話題に出したお前が言うな」
「お前ら兄弟漫才の練習でもしてんのかよ」
「してねーわ」
心外だとナオキが否定する。
「ほらそこ、口閉じて耳向けろ。……とにかく、俺たちは上層で通用することがわかった」
「さりげなく自分入れてるじゃん」
「そこでだ、チュートリアルだし採掘の仕方もついでにレクチャーしてから今日は終わろうと思う」
そう言って、サグルが一つのキューブを取り出して解放した。
それは、つい直近で買い物をしてきたナオキには見覚えのある形のバッグで、自分が買ったそれより年季が入っていることを見てサグルが使い続けている荷物だと分かった。
そのバッグは、初心者冒険者が最初に購入するアイテムキットが詰め込まれていたものである。
ナオキも必要だと思うものを抜いて今は貸し倉庫に眠らせているが、それは荷物持ちのサグルがいるからで、普通冒険者ならみんな用意しているものである。
サグルはそのバッグの中から飛び出ているピッケルを一本引き抜いて、肩にかけた。
「光石を採りにいくぞ」
読了ありがとうございます。
次回こそ光石!
ダンジョンチュートリアルが終わったら学校回だ!
この作品はヒロイン欠乏症に陥っている!




