第一三話 迷宮入口の検問者
あらすじタイトルを変更しました。
荷物持ちの成り上がり→荷物持ちだった俺が最強ギルドをつくるまで
文字数うるさくして具体的かつなろう的な良い変更だと思ってます。
ダンジョンウルフの皮を加工してつくられた黒基調の防護服で、首下の露出を完全に防いだ格好の黒川兄弟が先に戻っていた。
「サグル……その、ど、どうだ?」
「格好か? 変じゃないし、いいと思うぞ」
「……へへっ」
嬉しそうに笑うナオキには、死の宣告をされた時の悲壮はすでに見えなかった。
もちろん、不安が全て消えたわけではない。兄が自分のために、今まで見ることがなかった一面を表に出してまで自分を励まし、カイトを強引にボディガードにつけた一連の行動を信じようと考えたのだ。
まぁ、着替えているうちに、冒険者になる念願叶ったことで不安よりもニマニマの方が優ったのが実情ではあるが。案外お気楽であった。
「おう、待たせたな」
「…………」
それからまもなく、支部長が片手を上げて帰ってきた。背後には慣れない服を着たからか違和感に眉を曲げる茶髪の少年の姿もあった。
「ほら、鳥羽もいつまでもブスッとしてんじゃねえよ」
「は? してねーし」
カイトは支部長に噛み付くように言ってから、サグルの方へ睨みつけるように向かう。
「…………」
「…………」
「…………」
「いや、なんか言って?」
何を言われるかと身構えるが、カイトは口を開かない。
ただ嫌そうな目でサグルを見遣ったあと、その隣にいるナオキの方に視線をずらした。
「お前、なんで名前だっけ」
「直樹」
「おーけー、ナオキな。ボディガードっつっても敬語使うつもりないしタメでいいよな?」
「お構いなく。こっちもカイトって呼ぶし遠慮苦手だからお好きにどうぞ?」
同じ歳のナオキとカイトが握手したのを見て、もしかしたらこれからの一ヶ月、疎外感を味わうのは自分ではないのかとここにきてようやく危惧するサグルだった。
信頼関係を築く余地があるのはいいことだが、年下相手に盛大に煽り散らかしたサグルは家の中で除け者にされたらどうしよう。
別にこれまでもナオキとそこまで仲良くなかったが、お兄ちゃんのプライドとして陰湿に見られるのだけは回避したかった。ちっさい男である。
「クソガキ」
「おい、呼ばれてるぞ鳥羽」
「は?」
「どう考えたらクソガキ歴ベテランのお前が自分じゃないって思えたんだ。お前だよ。黒羽兄」
「紛らわしい呼び方してる支部長が悪い。どっちを読んでるのかもっとはっきりしてくれないと」
「じゃあ今後はお前の方がクソガキな」
「なんでだよ!」
「……お前の兄貴、家でもああなのか?」
「……いや、こんなにはしゃいでるのは小学校以来見てないけど」
支部長は「鳥羽の方は鳥羽だな」と棲み分けをして、納得いかない様子のクソガキを無視して支部長は話をはじめた。
「もともとお前と話そうとしてたことなんだが」
「! そうだ、あれ結局どうなったんですか?」
ダンジョンの購入による、私有化の話だ。
「結論から言うと当分はこの話はまだ纏まりそうにないな。他国でも私有化の例は少ないし何よりあのときみたいな悲劇を起こさないためにいろいろと準備があるんだわ」
加えて、他国の介入を許してはならないと言う事情がある。
日本の資産を横流しすることを企む輩にはそもそも購入すら難しいような法整備が急務であった。
「だからまぁ、もうしばらくかかりそうだってのが実情だな」
「そっか。じゃあしばらくはこれまで通りナロウダンジョンで頑張るしかないか」
残念そうに言うサグルを見ていたカイトが、何やら壮大そうな話だがいまいち容量の掴めない内容に興味を持った。
「なあ、なんの話してるか分かるか?」
「さあ? 本人たちに聞いてみたら」
「さいか」
ナオキは話を振られるが、兄に一応とはいえ口止めされているので惚けて答えてみせた。
何がなんでも知りたいわけじゃなかったカイトも、それ以上の詮索はやめた。本人たちに聞くのは負けた気がして嫌だったのである。
「ただまぁ、ある程度の条件なら分かってるし、帰りに馬場に持たせる封筒の中身見てくれ」
「サンキュー支部長、大好き」
「次キモいこと言ったら融通しねえぞ。……んじゃな。今日潜るなら最高でも三階層までにしとけよ。鳥羽もいい機会だし頑張ってな」
手をひらひらと振って事務室へと消えていった支部長をサグルは姿が見えなくなるまで手を振って見送ったあと、残ったナオキとカイトへ振り返って自信満々に胸を張った。
「それじゃいくか。二人とも初心者だし、先輩の俺に任せろ。はぐれないようにだけ気をつけてついてこいよ」
ナオキとカイトは目だけ横にずらして、コンタクトをした。
反論すら時間の無駄だと思った両者は、もはや何も言うことはなく、意気揚々と歩くサグルの後ろを追いかけた。
冒険者協会は、ポッカリと地面が抉り取られたように空いている空洞のすぐ真横に存在していた。
洞窟型の入り口とは違い、一階層まで人口の階段が架けられていて、階段を降りた先、はじまりのホールから続く一本の通路前には門番をしている人間が立っていた。
彼らこそ、政府組織に所属するスターズの人間たちである。
「お? サグル、聞いたよ。ジンさんたちに捨てられたんだって」
「心外な。パワハラが酷かったんで俺が捨ててやったんだよ大久保さん」
彼らの仕事は、逆侵攻ーーつまり、モンスターがダンジョン内で氾濫を起こした際、ここで食い止めるか殲滅させることが求められている。
他にも冒険者以外の人間が立ち入ることを取り締まったりと、下手な警備員の仕事より実力行使の機会がある分面倒ではあるが、きっちりとシフトが組まれ、ダンジョン景気に関与する職でもあるから一般の会社員より高給取りである。
大久保一吉は高校生ながらにも異能の訓練や実践経験を積んで、スターズ内でも評価されている男だった。
そして、サグルがダンジョンに潜る土日にナロウダンジョンの検問役に就いていることが多いことから、馴染み深い関係である。
「後ろの子たちが新しい仲間?」
「弟のナオキとそのボディーガードの鳥羽です」
「……ボディーガード?」
へぇ、弟さんかぁ、と言い損ねたカズヨシは、カイトの方を見た。見た限り随分と若いようだが、そういう遊びでもしているのだろうか。
「この人は大久保一吉さん。うちの学校の三年生。ナオキは学校で会うことになるかも知れないな」
「えっ、先輩ですか?」
「てことは弟くんも名楼に入ったんだ。入学おめでとう。平日はちょくちょく仕事で学校行けてないけどね。会うことがあれば何か相談があれば聞くよ」
「い、あ、ありがとうございます!」
スターズといえば、全員が異能に目覚めたスターダストたちであり、その誰もが破格の力を有していると有名である。加えて、実際に仕事へ出るためにはカリキュラムを終えたエリート隊員ともっぱら評判で、学生にとってはヒーローのような存在でもあった。
爽やかなスポーツ刈りの好青年らしく、その容姿も優れている。しかも学生の身でスターズでも優秀な存在とくればもはや完璧超人にしか見えなかった。
「ちなみに大久保さん、成績良くないらしいから勉強のことについての相談はNGな」
「ちょっ、バラすなよ」
「どうせ、すぐにバレますし」
年下には見栄を張りたかったカズヨシが、サグルの暴露に仕方ないなぁと言いながらすぐに許してしまうあたり、心の広さが窺える。
「大久保くん、もうすぐ次の人が来るからお話はそれまでにね」
「はい……じゃあ冒険者証のご提示を」
二人体制で組んでいた年上の男の隊員に諭されて、カズヨシが設置されているカードリーダーを手のひらで差し向ける。
サグルは慣れた様子で冒険者証を翳して、そのあとにナオキが続く。
「ん? 君はないのかい?」
「ああ、オッサンがこれを見せろって」
最後、カイトがカードリーダーに翳そうとする様子がなかったのでカズヨシが尋ねると、ポケットから職員用のカードが出された。
「えっ」
「なに? 入れないとか?」
「あっ、いや、ナロウの職員に君みたいな年齢の人が居たのに驚いて……すまない。どうぞ通ってくれ」
カズヨシが驚いたのは、ナロウ支部でカイトの姿を見かけたことがなかったことに対してでもあったのだが、ちょうど今日支部長に連れられてきたカイトの存在を知っていろというのは酷である。
「気をつけて」
無事入場することができた三人は、カズヨシの見送りの言葉を受けて頷いた。
ナオキとカイトは初めてのダンジョンに顔をこわばらせている。
その冒険者として初心な様子の年下二人を見て微笑ましくなり口の端を小さく上げたサグルは、二人を背にして、ポーチからひさしぶりになる武器を取り出した。
キューブ化を解除して、鞘に収まっていた刀を抜き身にする。
キューブ化した状態で劣化はない。そのため、その刀身の煌めきは、まるで新品のように……というかマジで一度も使われていない新品の状態で、人口照明の光を反射させ煌めいていた。
「行くぞ」
サグルを先頭にして、高校生たちのダンジョン探索が始まった。
読了ありがとうございます!
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だ、ダンジョンに入ったので予告通りです()
作者の中ですでに死に設定スターズは自衛隊と別枠のオリ組織として考えてるんですけどいずれ融合するかもですね。
日本はスタープレイヤーの活躍と謎の運び屋によってダンジョン資源の輸出で儲けまくってます。上層モンスターの単価五千円にしてたけどやりすぎなんじゃとも思いつつ、そうまでしなきゃ今の所持金まだ到底不可能だろという葛藤があったけど作中ではどうにか触れないように立ち回りたいです。




