[短編]サイコロステーキよりティーボーンステーキとイルミネーションの思い出
『そういうとこ可愛くないんだよ!』
『あんたこそ、すぐ怒るくせに!』
売り言葉に買い言葉。
あっという間に、あたしたちは別れた。
クリスマスも近いのに。
ぼっちで聖夜を迎えるなんて寂しすぎるからと、友だちに頼み込んで男性を紹介して貰った。
そして、初めてのデート。
仕事帰りの高級レストランで、おすすめのワインに料理。
顔は少し好みじゃなかったけど、全然アリ。
元カレよりも、収入も高そうだし、落ち着いているし、優しいし。
「ここの国産牛は特別なんだ。年間の出荷頭数も決められていて、他では食べられない。
桑名さんは、こういうの好きかな?」
「はい。お肉は好きなので、嬉しいです」
はにかみながら、あたしは答えた。
実際、お肉は大好きだ。
肉さえあれば、あとはビールがあればいい。
元カレも同じで、デートは肉ばっかりだったなぁ。
ワインをかたむけながら、また、元カレのことを考えてしまった。
忘れろ、忘れろ。
あたしは目の前で優しく微笑む彼に、にっこりと微笑み返した。
「それじゃあ、また」
「はい、後で連絡しますね」
駅の改札口で別れて、彼が人混みの中に消えていくまであたしは見送った。
ベタ惚れに見える?
違う。
絶対に帰ったと確認するためだ。
あたしは彼が見えなくなった途端に、駅のタクシー乗り場へ走った。
行き先は。
「すみません!がっつりティーボーンステーキ食べられるお店、お願いします!」
運転手のおじさんは、最初はびっくりしていたけれど、あたしがお肉食べたいと連呼していると、最後には大爆笑で運転していた。
「もー、ダメなの!サイコロステーキって何?!」
「それはあんたに気を遣って、女性向けに食べやすいようにしてくれたんだろう」
「いーやーなーのー!お肉は、こう!両手で掴んで、かぶりつくの!」
「はっはっ!ねぇちゃん、そりゃ合わねえよ」
あたしがさっきのデートの感想を大声で叫ぶと、タクシー運転手のおじさんはそう言った。
そう言われたら、やっぱり元カレのこと、忘れられていないじゃん、って思った。
口が悪いけれど、その大きな口でいつも美味しそうに焼肉を食べていた。
あたしは。
「やっぱり、元カレの方が好きぃ〜」
ワインの酔いが今さら回ってきた。
泣きながらタクシーの窓から見た街のイルミネーションは、元カレと一緒だったいつかのクリスマスを思い出させた。
タクシーの着いたお店に、元カレがいたのは、また別の話。
下野さんの3役熱演を期待。(*´Д`*)
叫ぶ巽さんも聞いてみたい。