捨てても戻ってくる呪いの人形...いや家まで戻るの超大変何だからなっ!!!
「もうこの人形いらないな」
少女がそう言いポイっと投げ捨てた人形は、少女が去った後に動き始めた。もちろん目的は少女の家。よく映画などで題材になる戻ってくる人形というやつだ。おもむろに動き出し、その小さな足でコンクリートの道を進む。
「あーもう!あいつマジで怖がらないですわよ!!」
そう言いながら地団駄をふんだ。赤い服の髪の長い白い顔のオーソドックスな市松人形だ。この人形が言うように、何度も捨てられている。3回目だろうか?何回やっても怖がらない。
「ちゃんと恐怖を与えられているのかしらね?」
とは言うが先ほども言ったように、戻ってくる事に持ち主の恐怖すら与えている。これでは恩返しというよりかはただのホラーだ。市松人形自体見た目が不気味というだけあって捨てられる事が多い。だから戻って行っていけばさらに恐怖を与える事ができるのだ...が、持ち主の少女は全くと言っていいほど怖がらないのだ。
「さて、戻りますかねえ...」
そう言いながら人形はいそいそとその小さな足でその家まで戻った。ドアは閉まっているが、下にある隙間侵入する。気分はまるで空き巣だ。自分を捨てた少女を見つけると、和室まで行き小さなテーブルが置いてある所まで何とかよじ登ってその場で待機した。一人暮らしのその少女の電話の声が聞こえてくる。
「でねー!なんか異世界?とかいうところに来てそこでマニュアル通りに異世界を満喫する術を...」
もちろん人間の言葉などわからないので何かを言っているだけだろう。あ、一瞬こっち向いた。人形はそう思いながら、その少女は電話を切って向かってくるをのじっと見る気づいてくれたのかな?と思ったが隣の仏壇に手を合わせ始めた。両親をどっちも早くに亡くしたらしいな。
その後も全然と言っていいぐらいこちらに気づいてくれなかった。
「あれ?この人形...」
お!気づいた!気づいて貰ったのはそれから数時間経ってからだった。普通ならここで恐怖してしまうところだが...そうはならなかった。何だかあんまり見覚えのないようだ。まさか自分が捨てたことすら忘れてるんじゃないでしょうね?まあ目的は怖がらせる事だが、なんだかじっと見るだけの少女の方がむしろ怖くなってきている。
「まーいいや」
そう言い人形を置くと、バランスを崩してテーブルから落ち、ゴミ箱にスポン。全く気づかない少女はそのまま去っていってしまった。
「何なの?あの子!!」
なんとかゴミ捨て場に行き着く前にゴミ箱から脱出して文句を言う。怖がるどころかガサツというかなんというか...あれでは戻ってきても捨てられている事気づいていないので全く意味がない。怖がってくれないだろう。人選を間違ったのだろうか?そうだ!そうに決まっている!!!あの人ではおそらくダメだ。こうなったら旅に出よう!!
人形はテーブルから出てドアをと向かう。ドアの隙間から出る。さよなら...そして新しい持ち主の元へと当てのない旅が始まったのだった。
「何これ?おとうさーん!!」
「おや、人形だね。誰かが置き忘れたのかな?このお人形さんかわいい!!!」
「持って行くかい?」
「うん!」
しめしめ、また新たな犠牲者が出た。これでやっと怖がらせることができるというものだ。その子はおかっぱの子で歳は小学生ぐらいだろうか。その子の家に行くとたくさんのお人形が待っていった。恐竜、ユニコーンなど市松人形がそこにいるのは何だか違和感を感じる。そこ子は早速人形遊びを始めた。可愛ところもあるのだな。さあ、捨てろ!!捨てろ!!だが人形のその願望は願わず、その子供は人形を捨てる事なかった。
「何なの?いつもの人みたいに無事にがって捨てなさいよ!!」
市松人形は見た目が不気味なのでみんな捨てる。だがこの子は違うのだ。そんな姿を見て人形は自分が愚かだったと実感した。怖がらせるために人形があるものではないのだと。こうやって遊んでくれる子もいる。だからこそ、人形は怖い方面ではなくちゃんとした人形の使われ方をしなければー。
「ご飯だよ!」
「はあーい」
父親の声でそこ子は人形を放り投げる。すると人形は見事にストンとゴミ箱の中へとシュートされてしまった。その瞬間、また人間への恐怖させてやろうという気持ちが強まった。
「やはり、人間はすぐに捨てる。人間に心を許しかけたのが間違いだった」
人間の言葉などわからないので、それが偶然ゴミ箱に入ったのだとも知らずに...。