【連載準備中】僕は攻略対象になんてなれません【短編】
転生モノ、乙女ゲーム系を書いてみたくて挑戦してみました。
温かい目で見守ってやって下さい。
評価次第で長編も考えております。
R15は念の為です。
※沢山のブックマークや評価、本当にありがとうございます。
もの凄く嬉しいです。
お陰様で、長編化への勇気が湧いてきました。
もう少しお時間下さいませm(_ _)m
「…か、殿下? 聞いておられますか?」
「はっ!!」
「⁉︎ 、ですから! 私の話を聞い…、…。
あ、あの、殿下? お顔色が…、大丈夫ですか?医務室へ参りましょうか、人を呼びますゆえ」
「あ、いや、だ、大丈夫…だ、呼ばなくて良い、自分で向かう。…いや、その、そのまま自室へ戻る。
大丈夫だから、…あ! それから、本当にすまない、色々と手間ばかりかけたな、私は少し…いや、しっかり、頭を冷やす。そうだ、明日のお茶会には、ちゃんと時間通りに行くから、その…待っていてほしい。す、すまない。では、失礼…するよ」
婚約者は、顔を真っ青にさせて、ガッツリ頭を下げた王太子である僕に、色々な意味で心配そうな目を向けている。
少しふらつきながら、なんとか自室へとたどり着き、侍従をさがらせ一人になると、盛大にため息を吐いた。
「なんで僕が乙ゲーの王子なんだよ…」
あの瞬間、唐突に思い出してしまったのだ。
前世でごくごく普通の高校生だった僕。
女子の間で流行っていたその乙女ゲーム。
ヒロインに攻略された王太子を始めとする見目麗しくしかも優秀な子息達を攻略、最後は悪役令嬢を断罪、婚約破棄! 攻略した男達の誰かと盛大な結婚式を挙げてハッピーエンド。という流れだったはず。
『政略的に婚約しているはずなのに、他の女にうつつ抜かして婚約破棄とかアホだろ。ありえん。
側近達もバカじゃね? 優秀じゃないだろそれ』
と、女子達の会話が聞こえた時には思ったものだ。
まぁ、女子達もゲームの世界だから成り立つ話だと言ってはいたが。
で、今の自身の生まれてから18年間の記憶、まぁ物心つく前なんて覚えていないから、せいぜい14、5年と言ったところか…の、記憶を辿って気がついたのだ。
その乙女ゲームの世界に酷似していると…。
更に、今は、最終断罪イベントである卒業パーティーの3ヶ月前。
不味い、色々と不味い、いや、未だ間に合う…ハズ!
『急げ〜!!!!!!!!』
父である国王陛下の執務室へ赴き、婚約者である公爵令嬢の護衛という名の監視からの報告書を確認させてもらう。
やはり全くもってヒロインを虐げたりなどという悪行をする暇など無い。寧ろ懇切丁寧にマナー違反などを指摘・指導し、他の貴族の子息令嬢が虐めや嫌がらせ等をしようものなら、さり気なく間に入り大事にならぬ様収めており、正に、未来の王妃として相応しい行動でしかない。
しかし、所謂ヒロインの方は、平民でも判る様な基本的なマナーすらなっておらず、そのくせやれ嫌がらせを受けた、平民風情が! と虐げられただのと宣い、ちゃっかりしっかり攻略対象達を攻略していた。
まぁ、ほんの少し前まで自身も攻略されようとしている立場だったのだから、他の者達の事は言えない…。
改めてヒロインである彼女の言動を思い出してみたが、攻略対象者を的確に抑えており、時折この世界では聞かない単語もあった。
ほぼ間違いなく転生者であろう。
幸いと言うべきか、王太子は攻略対象の中でも難関で、まだ完全に攻略された訳ではない。二人きりになる事は一度たりとも無いし、一応は婚約者との約束が優先だ。
あ、でも、最近遅れたり、早めに切り上げたりする様になり始めていたな…。ヒロインの訴えに耳を傾け始めてしたし、ちょっと『可哀想に…』とか思い始めてたし…。
うーん、婚約者に対する態度もちょっと…いや、かなり冷たくなっていた…。
この世界はあくまでもあの乙女ゲームの世界に酷似してあるだけであり、同じでは無い。
婚約者の行動は悪役令嬢のそれとは違うし、このままでは誰もハッピーエンドなど迎えられない。
「しかし、急にどうしたのだ? あれ程周りの忠告に耳を貸さず、寧ろ撥ね付けていたというに…」
父王は不思議そうに問いかけてきた。
「もうすぐ卒業ですからね。いつまでもフラフラとしていてはと。今一度、自身の言動を振り返り、しっかりせねばと思いまして」
苦笑いしながら僕は答えた。
それから、これまでに上がっている、僕自身や、僕の側近候補達についての関係各所からの報告内容を確認させてもらい、改めて反省と謝罪を述べた。
「そうか、まぁ、若気の至りか、まだ手遅れではあるまい」
「はい」
そこから、宰相であり、婚約者の父親である侯爵に時間をもらえないか確認の上、訪ねた。
宰相は、どんな相手に対しても穏やかに対応する男だ。しかし、ここ数ヶ月、城内で顔を合わせた際は違っていた。無表情ではあるが、これは怒りを顔に出さぬ様に必死なのは今ならばよく分かる。愛娘を溺愛していると公言して憚らない侯爵だ、報告は確実に耳に入れており、王命でなければ、娘が望んだわけでも無いこんな婚約など、とっくに破棄していただろう。
『あ〜も〜何でもっと早く…いや、そんな事を考えている場合では無い!』
「大変申し訳ございませんでした!」
執務室に入り、人祓いをした直後に頭を下げた僕に驚いたものの、それ続く、宰相殿に手間をかけた事、また、婚約者殿の父親である彼に対しての謝罪の言葉は、黙って耳を傾けてくれた。
「娘からは何一つ相談などの話はされておりませぬ故…」
と、宰相の立場で話す彼に、僕は重ねて、己の立場や役割を考えていなかった言動を詫びた。彼女はそれらをしっかりと理解し、向き合っていたというのに。
その上で、先ず、明日の定期的な交流としての茶会で改めて彼女に謝罪をする事。また、三ヶ月後の卒業パーティーで着るドレスを作るために、王室御用達の仕立て屋を連れて行く許可を求め、了承を得た。
「これは娘の父親の独り言です」
宰相はそう呟くと視線を窓の外へと向けた。
「殿下はまだお若い、王族であるし、場合によっては側妃や妾を迎える事も必要なるやもしれぬ。それは十二分に理解しているつもり。しかし…。恋愛結婚をした我が身としては、やはり我が子達にも同じ幸せを掴んで欲しいと願ってしまう。せめて、これ以上、娘が憂うことがない事を…」
「…約束する」
ーーーーーーーーー
翌日、約束より少し早い時間に宰相の屋敷に着いた。
執事の案内で僕と僕が連れてきた仕立て屋達が向かったのは、婚約者である彼女の部屋。
最後にドレスを贈ってから一年近く経っているので、採寸し直すため。いつもお茶会をしている庭園やサロンと部屋とを往復させてしまうのは申し訳ないので、部屋で待ってもらうように宰相に頼んでおいたのだ。
「すまない、少し人祓いをしても良いだろうか? 勿論扉は開けたままで、少しだけ入り口で待っていて貰えるだろうか」
執事や侍女らが一度部屋の入り口の外へ出る。
「改めて、ガーナッティ侯爵令嬢、この数ヶ月本当に申し訳ないことをした。貴女の言葉に耳を貸すことなく、寧ろ蔑ろにしたような態度であった。自身の立場をも弁えていなかった。迷惑をかけた」
彼女と、部屋の入り口の外から驚きの空気が…。
「あ、あの、殿下、頭をお上げ下さい。その様に簡単に頭を下げるものではありません」
「いや、これは、王族としての謝罪ではなく、貴女の婚約者としての謝罪だ、構わない。
確かに、王命による婚約ではあるが、縁あってものであるし、貴女はこれから長く共に歩む事になる大切な人だ。これからは貴女を大切にし、心から信頼してもらえる様に努める。その機会を頂けないだろうか」
彼女の手をとり、片膝をつき赦しをこう。
「は、はい」
頬を赤らめ、絞り出す様に返事を返してくれた彼女は、本当に可愛い。
「ありがとう」
手の甲に軽く触れる様な口付けをそっと落とした。
それから彼女に部屋で待ってもらった理由を説明し、入り口で待たせていた者達を部屋の中へ呼んだ。
「採寸の間、私はサロンで待たせてもらうよ。生地やデザインは後で一緒に選んでも良いだろうか?」
「はい、是非」
柔らかく彼女は微笑んだ。
デザインを一緒に選ぶというのは、王妃である母上からの提案だった。
昨日、宰相の執務室を出た後、迷惑・心配をかけた詫びと、婚約者である彼女との関係改善の相談の為、王妃の部屋を訪ねた。概ね父王と同じ反応だったが、婚約者についてはかなり厳しく色々と言われた。
母上は、婚約者である彼女を大変気に入っているのだ。
立場上、あまり優しい言葉をかける事が出来ない事が本当に辛かったと散々言われてしまった。
改めて謝罪をし、これからは真に信頼してもらえる様に関係改善に努めたい、明日のお茶会で卒業パーティー用のドレスを贈る為、王室御用達の仕立て屋を連れて行くと伝えれば、
「デザインは、彼女に任せたり、貴方が勝手に決めてしまうのではなく、一緒に話し合って決めなさい」
と言われたのだ。
先に色々な生地のサンプルを見比べながら待っていると、彼女がサロンへ入ってきた。
「お待たせ致しました。殿下」
デザインを決めるのは、思っていたより楽しい時間だった。
お互いの好みの色、お互い相手に着て欲しい色、髪や瞳の色から似合いそうな色を選び、その中からデザイナーの意見も取り入れ、絞り込む。デザイン画は流行りや着る本人の体型から、デザイナーがいくつか提案してくれたものに、二人で希望を組み込んで貰った。
「お二人ともデザインのセンスも素晴らしいですわ。わたくしも今まで以上に腕がなります。仕上がりを楽しみにして下さいませ」
と大興奮の仕立て屋達は、早く取り掛かりたいとばかりに去っていった。
「楽しみですわ」
風の様に去っていく仕立て屋達を見送りながらポツリと彼女が呟いた。
その表情は、淑女の顔ではなく、開き始めた花の蕾の様な可愛らしい、柔らかな表情だった。
うん、僕は彼女の事が好きだ。
見つめられている事に気づいた彼女は、
「わ、私とした事が…、失礼致しました」
「どうして? とても美しいのに。寧ろ僕としてはそんな表情をみることが出来て嬉しいよ。
こうして二人だけの時ならば、王妃教育や淑女教育など多少忘れても良いのではないかと思ったくらいだ」
「そ、う、ですわね」
どうしたらいいのかしら。と聞こえてきそうな程、彼女は動揺していた。
それはそうだろう。10歳の頃に婚約をして8年。この数ヶ月を除いて、それなりに比較的良好な関係を築いていたとはいえ、あくまで王命による政略的婚約であり、侯爵令嬢と王太子としての間柄であった。
この国では、婚約者同士であっても、お互いを名や愛称で呼ぶ事は少ない。
ましてや僕達はお互いの立場もあるし、教育か教育であるから、仕方ない事ではある。
『ま、少しずつだな。今日はこのくらいにしておこう。』
ーーーーーーーーー
襟や袖口に黒糸の刺繍が施された朱色のタキシードは、誰が見ても僕がエスコートしている婚約者の色である。
彼女のマーメイドラインのドレスは瞳の色と同じ朱色。詰襟からデコルテ、緩やかにひろがる袖の刺繍が施されたレース生地と、膝よりやや高い位置からの切り返しから広がる艶のあるフレアは髪の色と同じ黒。
髪には、僕の瞳の色である碧色の花と蝶を模した髪飾り。
「殿下とカサブランカ様、本当にお似合いですわねぇ。今日の衣装はお二人で一緒にデザインを考えたそうよ」
「ファーストダンス、息もピッタリで、うっとり致しましたわぁ。まるで大輪の薔薇のよう」
「本当に、美しく優秀なお二人でしたら、この国の未来も安泰ですわね。お二人とももう既に御公務をこなされおられるのでしょう?」
「それ、私も聞きましてよ。なんでも、外交の殆どと国内の教育に関しては、お二人に完全に任されているとか」
「たったの3ヶ月で、外交嫌いの隣国との国交を結んだのでしょう?あれ、私の婚約者と我が辺境伯家も関わっておりますけれど」
「おっと、それ以上はダ〜メ!我が妹に怒られてしまうよ」
「まったく、今は僕たちだけじゃないんだから、程々にしてくれよ」
「御令嬢方、お話に花を咲かせるのも良いですが、婚約者の事もお忘れなく〜」
「僕達も忙しかったからねぇ、今日くらいは大事な婚約者との時間を大切にしたいなぁ」
「近々、殿下とガーネッティ侯爵令嬢殿から直接発表される予定だからね」
「「「「「はい」」」」」
卒業パーティーは滞りなく、華やかに盛大に行われた。
3ヶ月前までの出来事は、まるで無かったかのように誰も口に出す事は無かった。
まぁ、この為にこの3ヶ月、必死に頑張ってきたわけだから、それがしっかりと結果として出た事は有難い事だ。
「殿下、お飲み物をお持ちしましたわ」
「ありがとう。キャシー、また殿下になってる」
「い、今は皆の前ですわ」
カサブランカが頬そめて目を逸らす。
僕の婚約者は今日もカワイイ。
「でも、呼んでほしいな」
耳元で囁けば更に耳まで赤くなる。可愛すぎる!
「あ、アルったら…」
「ごめん。カワイイからつい。嗚呼、後一年なんて待てないよ」
「フフ、婚礼衣装のデザイン、また一緒に考えるのでしょう? 楽しみにしておりますのよ」
彼女の微笑みは美しい。
「僕も楽しみだよ」
このパーティに、一年生であるあのヒロインの姿は無い。
在学はしているし、彼女に特別な何かが課せられた訳でもないし、卒業生のエスコートが有ればいてもおかしくは無いが、ここにはいない。
勿論、他の生徒たちにも特別な何かがあった訳でもない。
ただ、通常に戻った。それだけの事。
その為にこの3ヶ月、僕が忙しく動き回り、側近候補達も忙しくなり、キャシーが手伝いたいと一緒に動き回り、やがて側近候補達の婚約者達も一緒になって奔走したことは、また別の話。
僕は、攻略対象になんてなれない。
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★★★★★だとテンション上がります。
誤字・脱字報告、本当にありがとうございます。
大変勉強にもなりました。