【短編】フラれたエリートは人をいたわる
ちょい修正しました。
「志帆! この僕が君と付き合ってあげよう! ありがたく――」
「ご、ごめんなさい! 秋人君!」
「……はぁ?」
高校二年目の春。この僕、財前秋人は幼馴染の木下志帆に告白して、フラれていた。
☆☆☆
僕は、高校二年生になり、そろそろ彼女をつくらないといけないなと思っていた。
学力は全国一位、運動神経も抜群で家もお金持ち、さらにイケメンなこの僕に彼女がいないなんて、ありえないだろう?
僕がそこで目を付けたのが、幼馴染の志帆だったのだ。
木下志帆はベージュ色のショートヘアに、大きな瞳。身長は百六十センチほどで、肌は透き通るように白く、可愛らしい顔立ちをしている、まさに男子にとっては理想的と言っていいほどの美少女だろう。
事実、学内でも人気ナンバーワンの呼び声が高いのだ。
つまり、スーパーエリートなこの僕にお似合いというわけだ……。
しかも、志帆とは、同じ保育園に通っていた時に結婚するという約束までした。だから始業式の後、校舎裏に来るよう、呼び出しておいたのだが。
僕は現在、フラれていた……。
「な、なぜだ、この全国学力テスト第一位で、運動神経も抜群で、スカウトされるほどのイケメンで、財前コーポレーションの御曹司のこの僕を振る理由なんてないだろう、そこらへんのやつよりもレベルが違うだ…「そういうところだよ!」…はぁ?」
「秋人君のいつも人のことを見下してるところ、私良くないと思うの、だからごめんなさい!」
「それは、どういうこ…「秋人君はもっと人をいたわるような人になったほうが良いと思うの、じゃあ!」…ちょ、ちょっと待て!」
志帆は、そういうと走り去ってしまった。
確かに、他人を見下す癖があるのは認めるが、そんなこと当たり前だろう。テストで満点を取ることだって当たり前だし、スポーツなんて、野球ならばピッチャーが投げた球をそのままホームランにしてしまえばいいだけだし、サッカーならば相手より早く動いて、そのままゴールを決めればいいだけだろう? 他の競技だって同じようなものだ。逆にそんな簡単なことがなぜできないのか、理解に苦しむ。
というかなんで僕は今、志帆に逃げられたんだ?
と、とりあえず、無性に腹が立つぞ。
「くそっ! この僕が振られるだと、ありえない、人をいたわれだと、なぜこの僕が程度の知れてる他人などいたわらなきゃいけないんだ」
幼馴染の志帆にフラれ、とても腹が立っていた。
だが、それ以上にやるせない気持ちになっていた。
と、とりあえずだ、意地でも志帆を説得しなければならない。
「絶対にこの告白を認めさせてやる! 絶対にだ!」
そう心に誓っていた時だった。中庭に倒れている女性を見かけた。
「ん? あれは誰だ? あれは才神? なんでこんなところに」
倒れていたのは同じクラスの才神遥だった。才神遥はいわゆる奇人と呼ばれる部類のやつだ。
百七十センチと女性にしては長身で、いつも眠たそうな表情をしているが、僕から見ても顔立ちは整っている方だろう。だが、髪の毛は腰のあたりまでのびた、というよりのびてしまったという感じの方が似合うぼさぼさとした黒髪、明らかに手入れがされていない、こいつは本当に女子高校生か?
こいつがそれだけなら、ただの身だしなみを整えない女の子というレッテルが貼られるだけだっただろう。
しかし、奇人と呼ばれている理由には、こいつの奇妙な行動に原因がある。
例えば、期末テストのとき、ほかの人よりも問題をスラスラと解いているなと思っていたら、テストの裏一面に全力で落書きをしていて、そのまま職員室に呼びだされたり。
美術の授業中、デッサンのために飾られていたリンゴに、才神が持っていたと思われるカッターナイフを突き刺し、これでよし! とか言って、クラスのやつらをドン引きさせたりと、まあ変なやつなのである。まあ変、というかやばいやつなのだ。
「うっ、うー」
その証拠に、なにか苦しそうに呻いているが中庭にいる奴はだれも彼女に近づこうとしない。
しかし、絵のことだけに関しては、この僕も認めてはいる。
確かに、変なやつなのだが、明らかに高校生が描くレベルのものではない、技術がずば抜けている。絵のことだけに関しては天才なのは間違いないだろう。
しかし、それはそれだ、こいつと関わって良いことなんて一つもない、無視しよう。
『秋人君はもっと人をいたわるような人になったほうが良いと思うの』
その時、志帆に言われた言葉が頭によぎってしまった。
「……くそっ」
僕は何を血迷ったのか、才神遥のもとへ向かってしまった。
「おい才神、どうしたんだ一体」
「あ、財前君、実は…「ぐぅ~」…たすけて、しにそう」
やっぱり、話しかけたのは間違いだった。
☆☆☆
「助かったよー、昨日はずっと絵を描いてて、ご飯食べるの忘れちゃってさ」
「才神、お前は馬鹿なのか」
僕はわざわざ購買で焼きそばパンを買ってきて、才神に食わせてやっていた。
なんでこの僕がこんなことしなくちゃいけないんだ。
「ほんとにありがと、財前君がいなきゃ、私は確実に死んでたよ」
「うるさいぞ、黙ってそれを食って、次の授業の準備でもしてろ」
気まぐれで声をかけてしまったが、こいつと話していると本当に疲れる、関わるのはこれっきりにしよう。
しかし、このことがきっかけなのかはわからないが、やたらとこいつに絡まれるようになった。
「ねえねえ財前君、お腹が減って力が出ないよ、たすけて」
「財前君、ずっとノートに落書きしてたらシャー芯なくなっちゃった、ちょーだい」
ほとんどがこんな感じの軽いお願いばかりだった。こんな奴のことなんて無視しようと何度も考えた。しかし、そのたびに……。
『秋人君はもっと人をいたわるような人になったほうが良いと思うの』
この言葉が頭に浮かんだ……。
☆☆☆
あるとき、授業前に才神が僕に声をかけてきた。
「ねえねえ、財前君、教科書忘れちゃったから見せてー」
「おい才神、お前と僕の席は隣でもなければ、近くでもないぞ、つまり、お前は別のやつに教科書を見せてもらえ」
なんなんだこいつは、教室には志帆もいるんだぞ、変な誤解を与えでもしたら……。いや、これは逆にチャンスなのではないか、ここでこいつのお願いを聞いてる姿を見せてやれば……。
『ふっ、仕方ないな、ほらよ才神』
『ありがとうございます、財前様』
そして志帆は……。
『あ、秋人君が人をいたわれるようになってるー!! 私、やっぱり好き!』
『はっはっはっはぁーー』
こうなるに違いない! そうと決まったら……。
「仕方ないな、いいぞ」
「ほんと! ありがとー」
「ふんっ、しょうがないやつだな」
ふっ、これで僕も『人をいたわる』ことができたんじゃないか。
そして、志帆をちらりと見てみると、志帆はかなり驚いた顔をしていた。
よし! やはりこういうことなんだな! 志帆! つまり、これからも『人をいたわって』いけば、お前も僕のことを受け入れてくれるということなんだな、やってやるぞ!
こうして、僕は『人をいたわる』ことにした。
☆☆☆
「ねえねえ、秋人君、お腹減ったー」
「おい才神、なんだ、その呼び方は」
「いいじゃん、じゃあ、秋人君も私のこと、遥ってよんでいいよー」
「そんなことするわけ……」
だが、ここで才神のことを無下にしたら、今までのことが全部水の泡になってしまうのではないか、そうなったら……。
『やっぱり、秋人君が人をいたわることなんて無理に決まってるよねぇ~』
『ち、違うぞ志帆! これは、なんというか』
『期待した私が馬鹿だったよ、じゃあねー』
『ちくしょーーー!』
こうなってしまうに違いない! や、やってやる!
「は、はる、遥! これでいいだろう」
よし、言ってやったぞ! 普段は志帆ぐらいしか下の名前で呼ぶ女子がいないから少し緊張したが、やりきったぞ、どうだ! と内心思いながら、教室にいた志帆の顔を見ると、唖然とした表情をしていた。
よっしゃー! やっぱりこれなんだな、もう妥協はしないぞ、こうなったら徹底的にやってやる! スーパーエリートのこの僕をなめるなよ!
「わーい、ありがとー財前君」
「うるさいぞ、というかお前が僕の呼び方戻してどうするんだ」
「あ、間違っちゃったよ秋人君、えへへ」
でも、才神は話してみると、奇人というより、子供っぽいというイメージの方が強いな、何でもかんでも印象で決めつけるのはよくないのかもしれないな。
☆☆☆
そして、数か月が経った……。
「おい遥、お前はいつも焼きそばパンばかり食べているが、どんな食生活をしてるんだ」
といつものように中庭で遥と一緒に昼食をとっているときに尋ねてみた。
「えーっと、朝はお菓子で、夜もお菓子かな」
「おい、今すぐその食生活をやめろ」
こいつ、なんて食生活してやがる。
「えー、でも、絵をずっと描いてるから時間ないんだよ、一人暮らしで、ご飯作るのとかも面倒だし、お菓子の方がおいしいし」
マジか、こいつ本当に死んでしまうぞ、まあ、こいつが死んでも死ななくても、別に僕には関係ないのだが……。いや、待てよ! もし遥が倒れたときに、この僕が何もしていなかったと志帆に知れたら……。
『秋人君、あんなに才神さんの近くにいたのに、なにもしなかったんだー』
『で、でも、別に助けを求められたわけではあるまいし、僕が悪いというわけでは――』
『はぁ~、どうせ、その程度だと思ってたよ、ほんとがっかり、じゃあねー』
『ちくしょーーー!』
ということになりかねないぞ、どうすれば……。
そうか! あえて自分から積極的に『人をいたわる』ことで、この問題を回避することができるではないか! しかも、それが志帆に伝われば印象も良くなること間違いなし! つまり一石二鳥! そうと決まったら……。
「ならば、この僕が直々にお前の家まで飯をつくりに行ってやるよ、それならばいいだろう?」
「えっ、秋人君って、料理とか大丈夫なの?」
「何を言っているんだ、このスーパーエリートの僕にできないことはない!」
「やったー、秋人君がそう言うなら間違いなしだね」
よし、これで一安心だな、まあ、こいつの家まで料理を作りに行くことになったのは誤算だが、これも必要な犠牲だ、仕方ないだろう。
すると、その時たまたま、中庭に志帆がいるのが見えたので、顔を見てみると……白目をむいていた。
……なんか怖いな、で、でも、そのくらい驚いているということでいいんだろうな。
☆☆☆
「おい遥、朝食ができたぞ、起きろ」
「ん~ねむたい」
遥のご飯をつくることにしてから、その関係でこいつのモーニングコールまで担当することになってしまった。
「うーん、あきとくーん」
「おい! 抱きつくな! 制服によだれがつくだろうがぁ」
しかも、遥の家に行ったときは、飯をまともに食わないこいつのことだから、もしかしてと思っていたが、案の定、部屋には画材やら生活用品やらが散乱していて滅茶苦茶だった。
何とか、掃除を終わらせた(ほとんど僕がやった)が、こいつは絶対にあの惨劇を繰り返すに違いないと思い、この僕が毎日掃除をしてやっている。
「やっぱり、一家に一台秋人君だね」
「うるさいぞ」
遥が変なことをぬかしていたので、デコピンをくらわせてやった。
なぜ、僕がこんなことしなきゃいけないんだ、というか、もう志帆のいないところで『人をいたわって』いるような気がするぞ、どうしてこうなってしまったんだ……。
☆☆☆
そんな日々が続いていたある日、志帆に呼び出された。
「どうしたんだ志帆、何か用か?」
「あのね、秋人君って、才神さんと仲がいいけど、……どういう関係なの」
うーん、確かに、最近は遥とずっと一緒にいるとは感じているが、別に特別な関係というわけではないからな
「別に、ただの利害関係みたいなものだが」
「そうなんだ! ……よかった」
「ん? 何がよかったんだ?」
「ううん、なんでもないよ、それはそうと、秋人君は進路はどうするの?」
そうか、もうそんな時期か、僕がフラれた日からもう一年半も経ったのか、『人をいたわる』ことに集中しすぎて忘れていたな、まあ、そんな僕は……。
「僕は、東京A大学に行こうと思っているんだが」
「ええー! やっぱりあの最難関大学に行くんだー、そうだよね」
そう! この僕は、日本屈指の最難関大学に行くのだ!
この僕にかかれば、最難関大学への入学も、赤子の手をひねるが如く簡単だがね。
「……そうなんだ、がんばらないと」
なにか志帆が呟いていたが、流石にあの志帆が東京A大学を受験するわけではあるまいし、スルーしておくか。
そういえば、遥は進路、どうするんだろうか、あいつにも受験勉強とかあるだろうし、また振り回されるのだろうか、想像するだけでため息が出るぞ。
あとでそれとなく聞いてみるか……。
☆☆☆
「おい遥、お前、進路はどうするんだ」
「あー、秋人君、まだ、決まってないんだよねー、絵の仕事に就きたいとは思ってるんだけど、親に反対されちゃって」
こいつ、まだ決まってないのか、もう卒業も近いというのに、このままじゃこいつは無職になってしまうぞ、そんなこと、今まで『人をいたわり』まくってきた、この僕が許さないぞ!
「遥、どんなに悩んでも、この僕が最後までついて行ってやる、だから、お前は前だけ向いてろ、変なことは考えなくていい、スーパーエリートの僕がいるんだ、何も怖いことなんてないだろう?」
「……そうだね、秋人君、わかったよ、私、がんばってみようと思う」
よし、なんとか無職は避けられそうだな。これでこいつも大丈夫だろう、一安心、一安心。
「じゃあさ、私、フランスで絵の勉強がしてみたいの、いわゆる武者修行だね」
「へぇーいいんじゃないか」
こいつ、海外に武者修業とは、大きく出たな、まあ、これでこいつともおさらばだな、多少は心配だが、精々野垂れ死なないようにがんばれよー。
「そ、それでさ、秋人君も一緒に来てほしいな、……なんて」
「……えっ」
今、なんと言ったこいつ、この僕も一緒に来てほしいだと。
「最近、秋人君がいないと、ご飯とか掃除とか、私、ダメダメだし、あとなんていうか、その、あ、あれだよ、秋人君がいないと、……寂しいし」
まあ、確かに、ご飯の面倒とか、家事も全部やっていたからな、遥にやらせていたら……考えるだけで恐ろしいな。最近じゃあ、よく眠れないとかほざくものだから、寝るときまで付き添ってやったりとか、色々面倒見てたしな、寂しいのだろう。
まだまだ子供っぽいということだな!
だが、この僕には、最難関大学を出て、財前コーポレーションの跡継ぎになるという華々しい未来があるのだが……。
「やっぱり、だめ、かな……」
くそっ! 妥協はしないと、徹底的にやると、このスーパーエリートの僕が『人をいたわる』ことを決めたではないか! 僕が一度決めたことを投げ出すなどありえない!
「い、いいだろう、一緒に行ってやるよ」
「......っ......! ほ、ほんとに、っ......ふ......っ、あり、がと」
「どうしたんだ、なぜ泣いているんだ」
「だって、だってうれしくて」
こんなところで泣くなよ、『人をいたわって』いたはずなのに、遥が泣いてしまったぞ、
まあ、うれし泣きなら、なにも僕は悪くないから別にいいか……。
あ、でも、志帆には最難関大学を狙っていると言ってしまったな。
まあ、あいつに僕が遥とフランスに行くということを言っても仕方ないし、別に言わなくてもいいだろう。
☆☆☆
遥と一緒にフランスに行く際、父さんの説得に少々手間がかかったが、母さんが味方してくれたおかげでなんとか許可を得ることができた。
財前コーポレーションの跡継ぎは、この僕の代わりに弟の春来が引き継ぐことになったそうだ、これで僕の輝かしい未来が消えてしまったよ……。
「ねえねえ、秋人君! 私たち、空飛んでるよ!!」
「おいやめろ! なんか田舎者みたいで恥ずかしいだろうが」
まあ、僕のスペックがあればなんとかなるだろう。
あと、この僕も聞いて驚いたのだが、なんと志帆のやつ、最難関大学の東京A大学に自力で受かったらしい、流石の僕も素直に関心してしまった。あのどこか抜けているような性格をしていた志帆が猛勉強して、受かるとはだれも思わなかっただろう。
そんなわけで、電話で祝いの一報を入れたのだが……。
「志帆、合格おめでとう」
「うん! ありがとう、秋人君! これで今年も一緒だね」
「あー、実は…「秋人君! はやく、美術館に行こうよ! ほら、急いで!」…うるさいぞ、今電話してるんだからおとなしくしとけ!」
「今の声、才神さん!? ちょっと、秋人君、今どこにいるの!」
「えっと、志帆には言ってなかったんだが、遥と一緒にフランスに行くことにしたんだ、だから大学試験は受けてないんだ、遥がどうしてもというからな」
「……そんな、せっかく勉強、いっぱい頑張ったのに、うわーーん!」
志帆が突然泣き出してしまった。まあ多分、うれし泣きだろうし、僕は悪くないな、うん。
☆☆☆
フランスに到着し、美術館を見る前に、母さんが確保しておいてくれた住居に行ってみると、金持ちが持ってそうな大きな屋敷……などではなく、こじんまりとした一軒家だった。
えっ! もしかして、こいつと同棲するのか!?
しかも、家に入ってみると、なぜか、寝室にダブルサイズベッドが一つだけ、ぽつんと置いてあった。
急いで、母さんに連絡してみると、跡継ぎを辞退したんだから、責任ぐらい取れと言われた。
一体何の責任を取れというのだ……。
どうして『人をいたわって』いるだけなのに、そういう話になるんだ?
そのあと、家の家具などをそろえたりと色々なことを済ませているうちに外が暗くになってしまったので、シャワーを浴びて寝ようとなったのだが、僕がソファで寝ると言うと、遥が、私もソファに寝る、とか言い出したので、結局一緒にベッドで寝ることになった。
お前はそろそろ一人で寝られるようになれ。
☆☆☆
ある時、遥がエッフェル塔の絵が描きたいというもんだから、付き添ってやっていた。
そろそろ昼食の時間も近いので、遥の好きなフランスパンでも買ってきてやろうと思い、少しの間離れていた。その隙に、遥が日本人観光客の男二人組に絡まれていた。
「なぁ~、俺たちと一緒に遊ぼうぜぇ」
「お絵描きなんかよりも、楽しいからさあ、行こうよ~」
「い、いや、離して!」
なんでフランスに来てまで自国の人に絡まれなければならないのだ。面倒だが、やるしかないか。
「おい、離してくれないか、僕の連れなんだが」
「あ゛! やんのかゴラァ!」
なんでそうなるんだよ、仕方ない、久々にやるか。
次の瞬間、僕は、相手の顔面に回し蹴りを炸裂させていた。
すると、男は一発ノックアウトしていた。
ふん! これでも、高校生になる前に、ほとんどの護身術をマスターしたんだ。そこらへんのチンピラなど雑魚同然だ。
すると、もう一人の男が、蹴られて気絶している男に肩を貸し、僕にペコペコしながら、足早に逃げ去っていった。
このスーパーエリートの僕に盾突こうとするからこうなるのだ、思い知ったか!
そんなこと思っていると、遥が僕に抱き着いてきた。
「おい! どうしたんだ」
「………………」
遥は黙ったままだったが、震えていた。
ああ、こいつはガキだから、恐すぎて声も出せないのか。
よし、『人をいたわる』のに一肌脱いでやるか。
そして、僕は遥を抱きしめ返してやった。すると、徐々に遥の震えが収まってきた。
長年鍛えてきた、『人をいたわる』技術を活用してやってるんだ、感謝しろ! と思っていたら……。
「「「ブラボー!!!」」」
「おお……」
まさか、周りの人に拍手で感謝されるとは……、少し照れくさいなあー。
というか遥、そろそろ離してくれないか。
そう思い、遥の顔を見ると……いや、正確には抱き着かれたままだったので顔は見えなかったのだが……、遥が顔を真っ赤にしているのだけはわかった。
風邪でも引いたのか? 今日の晩飯は消化にいいものするか……。
☆☆☆
遥とフランスに来て、二年が経った……。
このころになると、当初は慣れなかったフランスでの生活も安定してきた、僕は少しでも遥を近くで支えるため、株でお金を稼ぎ、遥のためにご飯をつくってやっていた。まあ、僕のスペックなら、こんなこと造作もない。
だが、遥の方は大忙しだ。
遥がフランスのコンテストに応募した絵画が、世界的にも有名なフランス人画家のピエールに大絶賛され、そのまま優勝してしまったのだ。
そしてそのまま一躍時の人である。あの、絵画に対しては厳しいといわれるピエールを唸らせたとなれば当たり前だろう。
日本でも、フランスで大活躍中のモデル顔負けの美人女性画家と言われ、有名人になっている。
えっ、というか美人女性画家って、遥のことか?
遥が美人画家と呼ばれてるのを見て、最初は、そんなわけないと思っていたが、よく見たら、今までぼさぼさで手入れのされていなかった髪が、きれいなつやのある黒髪へと変わっていたし、肌も以前よりきれいになっていた。
こ、この僕が知らない間に……。
そういえば、全部僕がやったんだった。
食生活も、栄養バランスを考えながらもおいしくて飽きないように献立をつくっていたし、疲れがたまっているときにはマッサージとかしてやったし、肌ケアとか髪へのケアも全部……。
というか僕、ちょっとやりすぎなんじゃないのか、他のやつも数えだしたらきりがないぞ。
そんなこんなで才神遥は、元々の顔立ちと、身長が高いことも相まって、クール系大和撫子という言葉が似合う感じの女性になっていた。
まあ、僕はずっと一緒にいたから、あまり実感ないけどな……。
☆☆☆
さらに三年が過ぎた……。
ここ一年でようやく遥の仕事が落ち着いてきたが、その前まではスケジュールがパンパンだった。
遥が有名になってしまい、色々な国にゲストとして呼ばれるため、休みが全くないのだ。それに加えて、遥は毎日絵を描くため、時間もないのである。
そして、それを調整するのがスーパーエリートの……って、これはもうやめよう、別に大学を出たわけでもないし、財前コーポレーションの跡継ぎになったわけでもないのだから。
そういえば、志帆はうちの財前コーポレーションに就職したらしい、今では会社内で新人ながら期待のエースと呼ばれているんだとか。
どこかから聞いた噂によれば、酔うといつも「ヤッパリアノトキウケテイレバ」とずっと言っているみたいだ。
まあ、うちの会社は結構厳しいからな、他の企業を受けていればよかったと後悔してるのだろうな。
とにかく忙しかったのだが、今日は久しぶりの休日だ、まあ、どうせ、遥がエッフェル塔の絵を描きたいとか言って、それに付き添うことになると思うのだけれど……。
しかしその日は、遥に普段行かないようなおしゃれなレストランへと連れていかれた。
なんでお前がこんな店を知ってるんだ?
「ねえ、秋人君、あの絵、私が描いたんだよ」
ああ、自分の絵画が飾られているから知っていたというわけか。
そう思いながら、遥が指をさしている絵画を見ると、それは、エッフェル塔をバックにして、男女が抱き合っているシーンだった。
ん? なんか既視感というか、知っているというか……。
「私ね、秋人君にすごい感謝してるの、秋人君がいなかったら、こんなに楽しく絵なんて描けてなかっただろうしさ、多分、そのままどこかで野垂れ死んでたと思う」
なんだ急に、まあ、それは僕も同意見だな、自分のこと、よくわかってるじゃないか。
「それでね、この絵って、エッフェル塔で私が困ってた時に、秋人君が助けてくれた時のことを描いたんだよね」
やっぱりな、あれはかなり印象的だったからな。
「でね、この時に、秋人君のこと、異性として好きになったんだと思う」
「……えっ」
おい、今こいつさらっとなんて言った?
「ねえ、秋人君、私と結婚しよ」
「……えっ!」
ちょ、ちょっと待て、僕には志帆が……。
いや、でも、あの頃の元スーパーエリートの僕が彼女をつくろうとしたのは、自分に釣り合うような女性が志帆しかいなかったからであって。
志帆にはフラれてるし、僕はもうスーパーエリートではないし、遥はクール系大和撫子美人になって、それに加え、最近では超高額で絵画が取引されるようになった有名画家ときたものだ
これ、断る理由、なくないか……。
「やっぱり、だめ、かな……」
ふっ! 妥協はしないと、徹底的にやると、この僕が『人をいたわる』ことを決めたではないか! 僕が一度決めたことを投げ出すなどありえない!
「いいぞ! 遥! この僕が結婚してあげよう! ありがたく――」
「秋人君! 大好きーー!!」
「って、最後まで言わせろーー!!」
こうして、フラれたエリートの僕は『人をいたわる』ことによって、幸せを掴んだのだった。