第51話
「え?だから、ルイスよりも、僕の方が、ちゃんとセシルさんを愛せると・・あれ?」
ジャンニは、混乱していた。
(なんだ?どこで間違った?女性にこんな顔をされるのは初めてなんだが?)
「セシルさん?」
そう。彼は知らない。
『いいかい。出会ってすぐに好きだの愛してるだの言う男にろくなのはいない。それだけは確かだよ。』
というジルダの教えが、セシルの中にしっかり根付いていることを。
「なんなんでしょうか?私の周りだけなのか、それとも、世の中の大半はこんな感じなのか・・。」
「いや、僕は本当にセシルラブだから!」
ルイスはここぞとばかりに半身を起こしてセシルに訴えている。
「当然です!これでルイスに裏があったら、私、許しませんよ?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!君たちの関係がつかめない・・。ルイス。君は番という本能のままに、愛を押しつけているんだろう?」
「それは・・。」
反論できないルイスを見て、ジャンニはやっと勢いを取り戻す。
「セシルさんが愛だけを求める女性なら、君を選ぶかもしれない。だけど、僕は女性が求めるものを与えられるという自負がある。貴族の女主人の座、自由になるお金、センスのいい装飾品、そして、僕自身は生涯一途に愛し続ける。どちらを欲しいと思うかは、セシルさんが決めるべきだろう?」
ジャンニの人生において、出会った女性は、みな例外なくそれらを欲した。だが、ジャンニとて、彼女らに価値を見いだせなければ無償で全てを与える気などない。
ジャンニはセシルがほしい。モルベール家当主として、モルベール領の未来のために。
「あの。言葉で分かった気にならないでほしいのですけど。」
セシルの声は小さいながら、部屋によく響いた。
「ルイスの愛を押しつけているんだろう、と言うのは全くその通りですけど、ジャンニさんが言うほど軽くないですよ?もはや常軌を逸しているレベルです。」
ぐさり、という音が聞こえた気がしたが、気のせいか。
ルイスは無意識に胸を押さえる。
「しかも、本人に負けず劣らず常軌を逸している人たちが周りにいるせいで、その被害は二乗三乗、もはや迷惑以外のなにものでもありません。」
ぐさり、ぐさり。
「私、ジルダおばあちゃん亡きあと、誰からも構われずに一人で生活してたんですよ?そこに、空から突然降ってきた人からまさかの求婚されて、今日までどれだけ大変だったか、見てない人にコメントしてほしくありません。でも。」
セシルは言葉を探す。
「その中で、なぜか分からないけど、ルイスの言葉は信じられるようになりました。それは、私が、今素直にルイスが好きだから。そうじゃなきゃ、こんな重たい愛、受け入れられません。」
「受け入れ・・あれ?え?セシル?」
ルイスが解釈に混乱している。素直に受け取ることに対する警戒はこれまでの学習の成果なのだが。
「ルイスの言葉には嘘がありません。番だからというのはまだ受け入れきってないけど、私は今初めての恋を育て中です。裏ありありの言葉でそれを妨げようとするなら、私、怒りますよ?」
セシルはにっこり笑う。
だが、その場にいた二人はその笑顔が相当怒りを含んでいることを察する。
一瞬その後ろに魔王と精霊王の気配がした。なぜか分からないが、
(あ、手に負えない。)
ジャンニがそう悟ったのは、生存本能が働いたとしか言いようがない。
「食事の用意が整いました!!」
そこに、セイラが飛び込んできた。
「ジャンニ様、セシル様、食堂へどうぞ!!ああ!ルイス様うごけますか? まだ休まれた方がいいのでは? お部屋にお持ちしますよ?」
セイラ渾身の圧をかけて、引き離そうとするも、ルイスはすくっと立ち上がる。
「大丈夫!僕は今調子がいい!一緒に行く!というか、セシルに確かめたいことが・・。」
「ルイス。」
セシルは立ち上がったルイスを優しくベッドに押し戻す。
ルイスは意外とすんなりベッドに沈んだ。まだ、全回復したわけではもちろん、ない。
「まだ休んでいてください。私は大丈夫です。ジャンニさんと話したら、すぐ戻ります。確かめたいことは、そのあとで、ね?」
目を見つめてそう諭すと、ルイスは拗ねた顔をしつつ、了承した。




