第45話
森は穏やかだった。
モルベール領の森は広い。
昼の温かい光が、木々の間から差し込み、白く地面を照らしている。
水の流れる音、鳥の鳴き声。
自分の住んでいた森とは少し違う、それでいて懐かしい空気に、セシルの心は弾む。
「楽しそうだね、セシル。」
「ええ。素敵な森です!」
はしゃいだ声を出すセシルに、ルイスが目を細めた。
「しかし、獅子の姿はないですね。」
アランが言う。野うさぎは見たものの、獣自体あまり見かけなかった。
「目撃情報は、夕方近くの時間が多かったですね。もう少し待ってみましょう。」
セイラの言葉に、四人はもう少し進む。
「獅子は、あの、精霊の王なのでしょうか?」
不安げなアラン。
と、その時。
シャラン・・。
(何かしら?)
なにやらきらめいた音が聞こえて、セシルが振り返ると、白いものが通った気がした。
「あっ!」
深く考えず、セシルはその後を追う。
「セシル?」
セシルを常に意識の中にいれていたルイスは、早い反応でセシルを追いかけた。
二人が駆け出したのに気付き、セイラが後を追い、アランが慌ててその後ろに続く。
白いものは、獅子のようにみえなくもないが、思ったより小さく、どちらかというと毛の長い猫、といった感じ。
その猫が突然ふっと消える。
勢い余って消えた辺りまで走り込んだセシルは、急に宙に放り出されたような浮遊感に驚いた。
落下、ではない。
体はそのままゆっくりと降りていく。
「セシル!!」
大きな声がして見上げると、同じ場所からルイスが飛び込んでくる所だった。
「ルイス!」
セシルは手を伸ばすが届かない。
セシルに気をとられていたルイスは、その時、何かが飛びかかってくるのに気づくのが一瞬遅れた。
勢い良く飛びかかったそれによってルイスは吹き飛ばされ、セシルとは軌道を変えて遠くに行ってしまう。
「ルイス!」
セシルは叫びつつも、無力に着地を待つしかなかった。
「うそ・・。」
森ではセイラの呆然とした声がむなしく響く。
追った先で、セイラには、空間が歪むのが見えた。
セシルがその歪みに飛び込み、ルイスは迷いなく後を追った。
セイラは後に続こうとして・・躊躇した。
当然の躊躇。
歪みに飛び込んだあと、何が待っているか分からない。
だが、ジャンニのために、セシルを連れ帰らなければ。
セイラが意を決して飛び込もうとしたとき、その腕を強くつかむ者がいた。
「っ!アラン!」
アランが必死の顔でセイラを止める。
「放してよ!」
セイラが必死で訴えるも、アランは首をふった。
「ジャンニ様から頼まれてる。セイラが自分の身を省みない行動に出ようとしたら止めるようにって。今日は、案内人をまっとうすればいいからって。」
「でも!」
「セシル様は大丈夫。契約の地に入っただけだ。」
妙に確信めいた言葉にセイラはハッとする。
「アラン、あなた、なにを知ってるの?」
アランは、今までセイラが見たことのない大人びた顔で笑った。
「僕は、守り人なんだよ。」
その時、空間の歪みがなくなり、いつもの森が戻ってくる。
「うそ・・。」
セイラの呟きは、なにに対してのものなのか、もはや本人にも分からなくなっていた。




