第4話
「あ、お客様だ。誰かしら。」
(とにかく来たれ!第三者!)
セシルは、天の助けに思ってドアを開ける。すると。
「ルイスー!!わらわを放っておいて、こんなところにいるとは何事じゃ!」
セシルを押し退けて、ずかずかと入って来たのは、露出の多いドレスを身にまとったナイスバディの女性だった。
ドアの外には、馬車と数人の騎士らしき男性。
「げ。アリシア姫。」
苦い声でそう言って顔をあげたルイスには、涙のあと一つない。
(騙された。・・ん?姫?)
アリシア姫、と呼ばれたその女性は、ルイスの首に腕をまわし、しなだれかかる。
「帰ってこないから、どこにいるのかと思ったら、こんな田舎娘と浮気しているとは。わらわは心が広いゆえ許すが、次はないぞ。」
田舎娘、のくだりでセシルをチラリとみたその目は、憎しみに満ちている。
(いや、なんかもうよく分からないんだけど。)
「なんでここが分かったの?」
アリシア姫を引き剥がしながら、ルイスが尋ねるとアリシア姫は胸を張る。
「わらわが聖剣と聖魔法の気配を逃すわけがないじゃろう?我が国の勇者にして、最高の剣士のルイス・バートンのいる場所など、いつも筒抜けじゃ!」
「いやいや、怖いって!」
端から見れば、じゃれ合う二人。
(仲、良さそうじゃない。)
アリシア姫の様子から察するに、姫とルイスは恋仲。
じゃあ、さっきのは。
「・・からかったんですね。」
低い声に、ルイスのみならず、アリシア姫さえ静かになる。
「田舎娘が、勇者様の妻になんてなれるわけないです。何だか私、バカみたい。・・帰って下さい!!」
悔しい。悔しい。
男女の恋の経験もない自分をからかって、求婚までするなんて。
ルイスは怒りに震える。
「ルイスも悪い男よのう。わらわというものがありながら、不釣り合いな田舎娘に夢を見せるとは。」
アリシア姫が、嫌な笑顔で笑う。
「セシル!違うんだ。僕は!」
必死に見える顔で弁解しようとするルイスの声は、傷ついたセシルの耳には届かない。
「出てってください。もう二度と来ないで。」
セシルはプライドを傷つけられた悔しさでにじむ涙を必死で隠しながら言った。
早く一人になりたい。
「セシル!」
「お願いします。帰って下さい。」
ルイスの上着や荷物を外に放り出し、ルイスと彼にくっついたままのアリシアをぐいぐい外に押し出して、ドアを閉め、鍵をかける。
「一体、私が何をしたって言うのよ。」
ひどい。ひどすぎる。
しばらく外は騒がしかったが、やがて馬車に乗り込む物音がして、続いて馬車が遠ざかっていくのが聞こえた。
(おばあちゃんの言いつけを忘れて、知らない男の人に心を許し過ぎたんだわ。)
長い間一人だったから、寂しかったのだ。
弱い自分に腹が立つ。
窓の修理なんか断れば良かった。
あんなやつだって知ってたら、朝食だって振る舞わなかったのに。
(もう、絶対に騙されない。)
セシルは心に誓う。
たぶん再び尋ねてくることはないだろうが、もう、誰にも心なんて開いてなるものか。
あんなやつとの出会いなど、なかったことにしてやる。
一瞬、ルイスのくしゃっとした笑顔や、求婚されたときに跳ねた胸の事がよぎったが、頭をふって、全て消した。
それなのに。
(なんで私に関わってくるのよ?)
事態はちっとも終わらなかったのである。