第31話
魔法を振るっていたルイスは、近づいた影の正体も、唇の感触の理由も初め分からなかった。
柔らかいものが唇から離れて、そこにセシルの顔があることで、ルイスは突然今のがセシルの唇だったことに気づき、頭が真っ白になる。
魔法が霧散し、カルドフとロベルトがむせこんだが、それも全く視界に入っておらず、ルイスの世界にはセシル以外誰もいなくなった。
「セ・・セシル?」
あわあわと、落ち着かなくなりながら、セシルから目は離せず、ルイスは今の意味を目で問う。
「やっとこちらを見てくれましたね。」
セシルはにっこりと微笑んだ。
セシルにとっての最善は、ルイスが彼らを葬り去ることではない。
最善のまじない、と思い出したとき、同時に浮かんだのは、
(ルイスに会って、あの腕に包まれたい)
という素直な願いだった。
「ルイス。あなたは、私を救いに来てくださったのでしょう?早くここから救い出して抱き締めてください。」
セシルの言葉に、ルイスは真っ赤になり、目が潤む。
うん、と子どもみたいに頷いたルイスはセシルを抱き上げ、
「テレポート」
と詠唱して、その場から消えた。
その、30分ほど後。這うようにして屋敷からでて、助けを求めたヴィンスによって、事件のあらましが明らかになると、衛兵が到着して瀕死のカルドフとロベルトが拘束された。
同時にカルドフを筆頭にした反王政の勢力が一気に削がれ、王宮は大きな騒ぎになり、ロベルトもその一人として幽閉された。
以下、全ての報告を課せられたヴィンスの証言である。
(注・以前と同じくプチパニックのため、言葉づかいが時々素に戻ります。)
・・ルイス様が消えたあとから、でしたよね?
魔王が・・そう!魔王アクタスが生きていたんす。でも、なんかよく分からないけど、やつはセシルさんを助けに来た感じで・・。
ルイス様とセシルさんがいなくなったあと、突然一切のやる気を失ったように、
「つまらん。」
と言い捨てて消えてしまったっす。
去り際に
「・・一番いいタイミングで来たのになんで勇者が同時なんだ!?」
ってぶつぶつ言ってましたけど、なんだったんすかね?
とにかく、びしょびしょの気絶した男二人と残されて、俺は思ったっす。
俺、前世とかで何したんだろうなって・・。
あまりの悲壮感に、同情のあまり涙ぐんだ者がいたとかいなかったとか。
状況だけ見れば、またしても反王政派のクーデターを未然に防いだ英雄なのだが、さすがに状況説明を求めることとなり、ヴィンスが断固拒否したため下っぱの騎士が迎えに走ることになった。
げっそりした顔の騎士と共に、ものすごい不機嫌な顔のルイスと、苦笑いのセシルが登場したのは、想定より一時間ほど遅い時間だった。




