第27話
「大変そうですな。」
台詞にあわない笑いを含んだ声。
片眼鏡が光る。
(えーと、この人は・・ああ、名前が浮かばない。)
「セシルさん、誰っすか?」
ソファーの背もたれで見えないらしく、ヴィンスが聞いてくる。
「あー、えーと、モノクルさん?」
「カルドフ、です。」
たまらず本人から修正が入る。
「カルドフさん??なんで?・・っうう、いてて・・。」
ヴィンスを支えて寝かせていると、カルドフは埃を払うような素振りをしながら部屋に入ってきた。
「うかつですねえ、ヴィンス君。こんなに簡単にロベルト君にやられて、セシルさんを奪われるなんて。」
カルドフは嫌味な言い方でヴィンスを一瞥してから、セシルを見た。
「セシルさん。あなたの利用価値はかなりのものなんですよ。私と手を組む気はありませんかね?」
カルドフが笑顔で言う。
「・・あなたが、私をここに連れてこさせたのですか?」
セシルは警戒しながら尋ねた。
セシルの手札は少ない。相手が油断しているときに、情報を集めなければならない。
「あー、いえ。ロベルトの目的と私の目的は違うのでね。セシルさんを連れ出してここに閉じ込めるまでは手を組んでいましたが。」
(目的が、違う?)
「あなたは、何が目的なのですか?」
尋ねると、カルドフは問いには答えず、
「あなたは知らなくて良い。ただ、ルイス君に何があっても動かないでいてもらうための人質になっていただきたい」
と言った。
「・・っ、最近王宮内で、王を失脚させようという動きがあるときいたっす。カルドフさん、まさかあんた・・!」
「ヴィンス君。君には黙っておいてもらう必要がありそうですな。」
カルドフが静かに近づき、手をヴィンスにかざした。
「・・!だめ!」
集まる魔力の気配を感じとり、セシルが間に入る。
「おっと。あなたを傷つけるのはまずい。面倒な方ですな。」
魔力を分散させて、顔をしかめるカルドフ。
セシルは、ヴィンスを背に、ソファーをつかむ。
「ルイスは、もうこの事を知っているんですか?」
「まだ知りませんよ。国王の命で遠くまで行っていましたから、今日は休みをとっていますしね。」
カルドフはその言葉をルイスが知らない根拠として言っているようだが、セシルは確信した。
(何かが起きていることは絶対気づいてるはず。)
ルイスはセシルの家に来たはずだ。異変は察知したはず。
お友達になってから、セシルは今までルイスを出迎えなかったことはない。
休みなら、朝からもきていたはず。そこにセシルがいないのに、素直に納得するルイスではない。
だとすれば、彼にこの場所を探し当てることができるか、だ。
ヴィンスへの危害まで頭が回らなかった。
持ってきた薬と包帯で、安静にしていれば、回復には向かうはずだ。
ロベルトに捕まった時は、少しだけ共犯を疑ったが、カルドフの行動を見るとそれはない。
ならば必ずヴィンスを助けなければ。
「ロベルトさんは、ヴィンスさんを傷つけることをよしとしないはずです。私も言うことを一切聞きません。」
セシルはカルドフから目をそらさずに言う。
カルドフは、ち、と舌打ちをした。
その時。
「カルドフさん、僕がいない間に交渉、とはずいぶんですね。」
そこにやってきたのは、闇の魔力に包まれながら笑顔を浮かべるロベルトだった。




