第22話
1ヶ月ほどは、ルイスに大きな仕事はなく、定時上がりでセシルのもとに来る日が続いた。
実はこの森含めセシルの住む家周辺は、かなり広い範囲で人知れずルイスが魔物を倒して回っていたため、夕方の護衛はいらないくらいなのだが、一応それを口実に入り浸っている彼としては、まだそれはシークレット事項である。
「あー、セシル?」
ある日妙に歯切れの悪い口調で、ルイスは言った。
「なんですか?」
少し違和感を抱きながら、セシルは返す。
ルイスの用件はちょっと意外なものだった。
「王宮・・ですか?」
「うん。そうなんだ。魔王があいたがってるらしくて、アリシア姫から、連れてこいっていわれてる。」
「珍しいですね。ルイスはいつもなら、絶対行かせないようにしそうですけど。」
ルイスの目が泳ぐ。
もちろん、いつもならセシルの耳にすらいれない。だが・・
「えーとね。アリシアが、セシルに似合いそうなドレスがあるって言ってて。またドレスアップしたセシルを見たいなあって。」
以前のドレス姿が結構グッときているルイスである。
ちなみに、それは、見せられたドレスの露出の多さにあらぬ妄想を掻き立てられたから、ではもちろんない。・・たぶん。
「・・なるほど。ドレスの件はともかく、アクタスさんが会いたがってるというのは、気になりますね。また、愛とアイデンティティの板挟みになってるのかも。」
「よく分からないけど、行くってことでいいのかな?セシル?」
珍しく利害が一致して、セシルの王宮行きは決定した。
行く、と返事をすると、すぐに日取りが決まり、2日後にはルイスに連れられてセシルは王宮に向かっていた。
久しぶりの町の賑わいに、あちこち覗きながら王宮に向かう。
普段は野菜の配達販売と、本当に必要なものの買い出しにしか来ないため、ぶらぶら町を歩くのは新鮮だった。
実はこれも、しくまれていたりする。
『よいか、ルイス。ここまで近い関係になっているのに進展がないのは、問題大有りじゃ。わらわを袖にしたのじゃから、セシルとちゃんと結ばれねば、わらわが浮かばれぬわ。』
そんなことを言い出したアリシア姫の提案で、王宮への移動を口実に、デートのプランを授かったのだ。
『町を歩き、セシルの目の動きをよく見ておくのじゃ。特にアクセサリーじゃ。気に入っていそうなものを後でこっそり買っておいて、プレゼント、これで落ちぬ女はない!』
そう力説するアリシア姫の後ろ手には、今流行りの恋愛小説が握られていたのだが、ルイスは気づいていない。
アリシア姫の案じたいは、悪くなかったのだが。
「わあ、すごい!」
セシルがキラキラした目を向けるのは、新鮮な、魚を初めとする海の幸、大きな固まり肉などなど、
(食べ物ばっかりじゃないか!?)
と突っ込みたくなるものたちだ。
(そろそろベーコンとか、干物とか、保存食系がほしいのよね。あ、野菜の種でいいのはないかな?)
町は新しい刺激が多い。
狙いとは異なるものの、輝いた目で町を歩くセシルに、それはそれでいいか、と思うルイスである。
途中、食べ歩き用のクレープをみつけ、買うか悩んでいるのを見たルイスは、なんとかプレゼントに成功した。
「わあ。チョコと生クリームとバナナって、なんて完璧な組み合わせなんでしょう?」
心から幸せそうなセシル。
(クレープとセシルって、なんて完璧な組み合わせなんだろう?)
とろけそうなルイスに、セシルは笑顔で
「一口食べます?」
と勧める。
ルイス、ボン、となる。
理由はもちろん、
(か、間接キス!そんな、セシル、積極的な!)
という例のアレ。
「あ、嫌いでしたか?」
気まずそうなセシルに、
「いや、食べます!!」
と意を決してパクリといき、クレープの美味しさに二重の喜びを噛み締めるルイス。
ゆるーいデートは、約束の時間まで続き、特になんの進展もないまま、二人は王宮にたどり着いた。




