第2話
朝起きると、隣にルイスが寝ていた。
余りの驚きに絶句し、パニックになるが、ルイスが寝返りをうって、ちょっと離れたため、とりあえず、こっそりベッドから出る。
(???・・だめ。落ち着かなきゃ。雑草抜きたい!!)
(なんでこうなったんだろ?)
セシルは日課の畑仕事で気を落ち着かせながら大きくため息をついた。
昨日の流れを反芻する。
(朝ごはんを食べていた時、風で窓がガタガタ揺れたのよね。)
「立て付けが悪そうだね。朝食のお礼に直すよ。」
そう言ったルイスは、うちにあった工具で手際よく窓を直してくれた。
(で、そのお礼にお茶とクッキーを食べたのよね?)
お互いにちょっと身の上話をした。ルイスは、フルネームをルイス・バートンといい、王宮に勤めているらしい。
「なんの仕事をしてるんですか?」
と聞くと、
「ああ、まあ、剣で戦う、的な?」
と歯切れの悪い口調で答えるので、騎士の下っ端かな、と勝手に思う。
竜から落ちるくらいだし、まだまだ修行中といったところだろうか。
セシルも、早くに両親を亡くして祖母に育てられたこと、その祖母も昨年亡くなり、今は一人であることなどを話す。
今から思えば、初対面の男性にそんなことを話すなんて無用心極まりないのだが、その時は自然と話していた。
ルイスは表情豊かにセシルの話を聞き、
「ご両親とおばあさまの話を聞くことになったのも何かの縁だし、お墓を参らせてくれない?」
と言い、家の裏にあった小さな墓石に花を摘んで手向け、手を合わせてくれた。
「料理も祖母から教わりました。一番得意なのはチキンの香草焼きなんですけどね。」
家にはいると、ルイスが朝のご飯をあまりに褒めるので、思わずそんな話をすると、
「何それ、めちゃくちゃ食べたい!ねえ、俺チキンをゲットしてくるから作ってよ。」
とルイスの目が輝いた。
「うーん。じゃあ、今度持ってきてくれたら。」
「了解!じゃあ行ってくるよ!」
「え?」
セシルの声が漏れるより先に、ルイスは家から出ていった。
(えーと。上着とか置きっぱなしなんだけど・・どういうこと?)
そしてきっかり2時間後。
満面の笑みで丸鶏肉と、何やら袋をぶら下げたルイスが玄関に立っていた。
(今度じゃなくて今?!)
とツッコミをいれつつも、艶のいい新鮮なお肉に感動して、ちょっと腕がなる。
「・・分かりました。作ります!」
ハーブは乾燥させたものをずらりと並べているので、鶏肉に塩コショウをして馴染ませている間に取り出していく。
(バジル、ローズマリー、オレガノ、タイム、セージ・・)
いろいろ混ぜることで味に深みが出る。必要なものは砕きながらお肉にまぶして、オーブンで焼く。
いい匂いが漂ってくると、それだけでお腹が空く気がする。
「絶対美味しい匂いだ!」
セシルが作るのを興味深く観察していたルイスも、はしゃいだ声を出した。
絶妙のタイミングで取り出して切り分ける。
もう日が落ちて薄暗くなってきたのでランプを付けて、パンとサラダを並べると二人の晩餐が始まった。
「ワイン、持ってきたんだ。」
袋から、ルイスが赤ワインとグラスを取り出す。
「ワイン・・。私、飲んだことないかも、です。」
「アルコールはダメ?」
「わからないけど、料理には合うのですよね?ちょっとだけ飲んでみたいです。」
そんな会話のあと、二人では乾杯をしたのだ。
そして、今朝。
セシルはルイスと一緒にベッドの中にいた。
(いや、落ち着いて、セシル!あなたは軽い女じゃないわ。)
雑草を抜きながら、セシルは自分を励ます。
服も着ていたし、少なくとも一線は越えていない。はず!
記憶は怪しいが、たぶん眠りこけたセシルをルイスがベッドに寝かせて、自分も寝てしまったのだ。
ただ、異性と一晩過ごしたことは間違いなくて。
(おばあちゃん、ごめん。)
なんとなく後ろめたくて、セシルは心の中で祖母に土下座した。
『貞操は運命の相手に出会うまで守るべし。』
これもまた、祖母の言葉である。
あまつさえ、危険な香りのするアルコールを、初対面の異性と二人きりで飲むなんて、どうかしていた。
毅然として帰って頂かなければ。
そう決意して立ち上がったとき。
ドカーン!!
大きな音と共に、木が倒れ、ゴブリンが姿を現した。