第15話
「・・食べましたね。」
セシルは、ゆうに自分なら3日分くらいのディナーが、まるっとなくなったことに驚く。
(ヴィンスとロベルトにもあげようと思ってたのに。)
「美味しかったからね。」
と笑うルイスだが、アクタスと意地の張り合いをしてしまったため、もうお腹はパンパンである。
「うむ、なかなか・・悪くない味だ。」
アクタスもはち切れそうなお腹で言う。
(なんか、二人、似てるわね。)
そう思ったのもつかの間。
「さて、じゃあ、もう遅いし、帰るよ・・ああ!!」
お腹をさすりながら立ち上がったルイスが大声をあげた。
「なんですか?」
「なんだ?」
ルイスは、ワナワナと震えながら言う。
「今夜、アクタス、どこで寝るの?」
しーん。
「・・うちで、いいんじゃないでしょうか?」
「うむ。我が輩もそのつもりだ。」
「いや、だめでしょ、知らない人泊めたら。というか、人じゃないんだよ?魔王だよ?危機感なさすぎるでしょ?」
何故か泣きそうになりながら訴えるルイスだが、セシルにはいまいち響かない。
「確かに知らない人を泊めるのはもうこりごりですけど。こんな小さい子どもを放っておけないし、なんだか、アクタス君の方が信用できる気がします。」
「女、なかなか見る目があるな。」
満足げなアクタスに対して、ルイスはまたもや特大ブーメランをくらいながらも食い下がる。
「いや、信用できない。魔王は闇魔術を使うんだよ?魅了とか束縛とか麻痺とか使われて、ペロッと食べられたらどうするの?・・やっぱり灰に・・。」
「ルイス。それは大丈夫です。」
セシルが冷静にさとす。
「もとがどうかは分かりませんが、今のアクタス君は、闇の魔力はゼロですよ?」
ドキッとした顔でセシルを見るアクタス。図星だ。
「そんなの、どうやって分かるの?」
ルイスが聞くと、セシルは涼しい顔で答えた。
「魔物避けの結界は、闇の魔力を持ってたら入れませんから。」
「・・なんというか、アクタス。不憫だな。」
「やめろ。」
あわれみの視線を向けるルイスを、全力で拒絶するアクタス。
闇の魔力がない、ということは、彼は魔法が一切使えないということを意味する。加えてこの体では確かに何もできない。
魔王が生きていることは、公にすれば大混乱必至。セシルのところがいろんな意味で安全、ではあるのだが。
「くそー!早く一緒に暮らしたい!!」
小声で悔しげに地団駄を踏むルイスだったが、今日のところはセシルのシャワーまでアクタスを見張り、その後帰宅、で話が付いた。
夜。
シャワー後、なんだか真っ赤な顔で顎ががくーんとなっていた二人だったが、ルイスが火と風の魔法を器用に組み合わせて瞬時に髪を乾かしてくれ、
(やっぱり便利だな、魔法。)
と思いながらベッドに入る。
もう遅い時間だったので、アクタスはすぐに眠ってしまい、ちょっと悩んだが、セシルは彼をベッドで寝かせてやった。
背中を向けて距離をとると、自分もベッドに潜る。
(あ、温かい・・。)
アクタスが発する子ども体温に、あっという間に眠りに誘われるセシル。
「○☆$@&✕☆@!!」
朝、抱きつかれていて悲鳴をあげたのは、アクタスの方なのは、もはやお約束である。




