第14話
「やっぱりセシルのご飯は最高だね!」
キラキラした笑顔で言うルイス。
「人間にある味覚というのは不思議なものだな。繊細な味の違いがよく分かる。」
研究者みたいな言い方だが、ワイルドに頬張るアクタス。
しかし、その二人の間には、緊迫した空気が流れている。
・・セシルがご飯作りに没頭する間、マフィンを飲み込んだルイスの、
「で、どうするつもりだ?答えによっては灰にするけど?」
と言う一言目で、静かな戦いは始まった。
「その性格で、闇の魔力がないなど、・・もぐもぐ、信じられぬ。なぜお前がもぐ・・勇者なのだ?」
「いや、そんなのしらないし。なんか魔力の質とかよく分かんないけど、聖剣扱えたのが僕だけなんだからしょうがないだろ?」
「もぐ、アリシア姫も、お前みたいなのの、もぐもぐ、どこがいいんだか・・。」
「僕が聞きたいよ。お前アリシア姫をちゃんと射止めろよ。」
「誘拐後も聞き惚れるほどの罵詈雑言だったぞ、もぐもぐ、あの闇具合はもぐ、わが妻に、もぐふさわしい。」
「いや、とりあえずしゃべるか食べるかどっちかにしろよ。ていうか、そのチョコチップ、最後の一個!」
もぐ、とその一個を口に詰め、ニヤリと笑うアクタス。
だが、どんなに嫌がらせをしても、神に愛された勇者であるルイスは全く闇に染まらない。
(こんなに破綻した性格してるのに。)
面白くないアクタスである。
勇者の聖魔法を最大出力で当てられたため、核が傷つき、辺りにあった障気でなんとか修復し、かろうじて実体化できたのが、この人間の子どもの姿だった。
全盛なら竜にだってなれるというのに、大変プライドが傷つく姿である。
ルイスに見下ろされているこの状況。
(耐え難い・・。)
実体化に力を使い、魔力は枯渇。セシルの食事で、この体の体力は回復したが、ルイスと戦えないことは明白である。
「・・あの戦いは無効だ。」
ポツリとアクタスは呟く。
魔力も充実して、ノリにノっていたはずの自分が、なぜあんな形で致命傷を負わねばならないのか。
「で?」
と、ルイスは聞く。
「セシルを我が物にってのは、どこまで本気なのかな?」
凄まじい殺気を視線に集めて射抜くようにみつめる、ルイス。
アクタスが返事に詰まったのは、ルイスの視線に怯えたから、ではない。
(どうしたものか?)
「セシルは、思いの外よい娘だ。嫌がるのを無理やりどうこう、ということはやめた。」
「・・まあ、その見た目でそういうこと言われても反応に困るけど、ちょっとでもそういう思惑があるならやっぱり灰にしとく?」
「っいやまて。だから、手は出さん!」
今はか弱い子どもである。
「セシルには弱っていたところを助けられた恩があるからな。それを仇でかえしたりはせん。」
「・・お前、ほんとに魔王って感じしないよな。」
「魔王はその辺は義理堅いぞ。悪魔と一緒にされがちだが。」
「ただ・・。」
とアクタスはちらりとセシルに目をやった。
「徐々に魔力が戻れば、我が輩とて大人の男になれる。その時は、セシルの方から、しもべになりたいと、来るのではないかな?」
「まさか。お前、セシルの固さ知らないだろ?僕でさえお友だちになるのに3週間かかったんだぞ?」
それは、たぶんルイスの責任なのだが、ここにはツッコミ役は存在しない。
「では、ラウンド1といこうではないか。我が輩が大人の姿になれるまでに、どちらがセシルを落とせるか。」
「・・お前、アリシア姫一筋じゃなかったのかよ?」
「アリシア姫は別腹だ。家庭的なのも、悪くない。」
見た目5歳児と20代男性の会話である。
大事なことなので、二回目だが、ここに、ツッコミ役は存在しないのだ。
「アリシア姫に見向きもされず、我が輩は傷ついている。癒すのは、セシルのような情の深い女だ。」
「いや、セシルは度を越えたお人好しなの!でも、キレさせたら怖いから、甘くみるなよ。」
「むろんだ。お前と一緒にするな。」
にらみあったその時、
「さあ、できたけど。食べます?」
目の前に並んだチキンとハンバーグという禁断の取り合わせに、彼らは一時休戦したのである。




