第11話
評価いただいた方、ブックマークしてくださった方ありがとうございます。勇気をいただき、エピソード2開幕です!
1ヶ月が過ぎた。
日々は思いの外穏やかに過ぎている。
いくつかの変化はあったけれど。
「でね?聞いてくださいよ、セシルさん。ルイス様の訓練が、もう過酷でー。」
「訓練って言ってもひたすらルイス様と剣を交えるっていうだけなんですけどね。」
「だけって言いたくないっす!昨日なんて、八時間ぶっ通しっすよ?絶対八つ当たりっす!」
「君がセシルさんのケーキを食べたと、他のやつに自慢したからでしょう?全く、学ばない男なんだから。」
目の前で、年季の入ったやり取りをしているのは、ルイスの部下であるヴィンスと、ロベルトである。
魔王を倒したとはいえ、魔物がいなくなったわけではない。数は減ったが、王宮から離れた辺境の方では魔王領から流れていった魔物を中心に群れができ、領主からの要請で勇者の派遣があった。
若干・・いやかなりの問題はあったものの、姫の救出を果たしたルイスに、王は褒美として欲しいものを尋ねたのだが、
「長期有休!」
との答えに、
「しばらくは無理だから!」
と保留になり、それならば・・と、ルイスが希望したのが、自分が遠征で帰りが遅くなるときにセシルの護衛をつけること、だった。
「まあ、指名されたってことは、信用があるってことなんでしょうけどね。」
ロベルトはそう言ったが、ヴィンスは大げさに震えて見せながら言う。
「でも俺、怖い笑顔で、『分かってると思うけど、セシルに指一本でも触れたら殺すからね』って言われたっす。そして、この手袋をプレゼントされました。信用って何ですかね?」
ヴィンスは、律儀にいかなる時も、その手袋を装着している。
「セシルさん。こう見えて、ヴィンスは騎士団でルイス様の次に強い剣の使い手なんですよ。チャラいのが珠に傷ですが、セシルさんには絶対手を出せませんから、安心してくださいね。」
もちろん私も、神に誓って手は出しません。命が一番ですので、と付け加えてロベルトは微笑む。
二人とも、モテるオーラ満載だが、セシルとしても、彼らとどうこうなる気はさらさらなかった。
そんな二人が来てくれる時間は、意外と楽しい。
彼らは魔王討伐以降、セシルに対して何やら親近感を持ってくれているようで、ルイス苦労話が異様に盛り上がるのだ。
「セシルさん。俺ら、ちょっとした恐怖はありますけど、基本的にはセシルさんの存在はすごくありがたく思っています。」
ある時ヴィンスがそう言った。
「セシルさんと会うまでのルイス様は、なんというか、何にも執着してないっていうか。訓練だって言ってジストに乗って飛び立つのを見送った時、ふと思ったことがあるんです。もしかしたら、もう、帰ってこないかもしれないなあ・・って。」
「ああ。なんとなく分かります。アリシア姫のアプローチも、どうでもいいからやりたいようにやらせてる感じでしたしね。」
横でロベルトも、うなずく。
「でも、セシルさんと接してるときは、喜怒哀楽がちゃんとある感じがして、なんかほっとするところもあるんっすよ。セシルさんがいるんだから、ちゃんと帰ってくるっていう確信が持てるんで。」
「まあ、ルイス様のあの感じでアプローチを受け続けるのも大変だと分かりますけどね。」
保護者みたいに話すヴィンスに、苦笑いのロベルト。
いい人たちだな、と素直に思う。
「だから、無理にとはいえないけど、セシルさんとルイス様、うまくいってほしいなとは俺、思ってますんで。」
にかっと笑うヴィンス。
まあ、そちらは曖昧に返すしかないのだが。
ルイスのことは嫌いではない。
だが、恋愛感情があるかと聞かれると分からなくなってしまう。
「好きってなんなんでしょうね?」
素直に口に出せば、ヴィンスもロベルトも困った顔をする。
「まあ、正直俺も分かんないです。女の子はみんなそれぞれ可愛いし、みんなどうやって一人に絞ってるんだろう?」
「絞るっていう言葉自体、あまり誠意を感じられないけどね。」
そんなやり取りをしながら、過ごして彼らが帰れば、入れ替わりにルイスが戻ってくる。
「ただいまー。セシルだー。」
帰ってくるなり抱きついてくるルイスを無下にもできず、
「お疲れ様です。」
と頭を撫でる。
(まあ、友達として、ね。)
ルイスのいる日常。
泊まることはないけれど、恋人と友達の境目はなんだかよくわからない。
けれど、今の生活はちょっと心地よくて、一人きりの日常に戻れる気はもうしていない。
そんな毎日に変化をもたらしたのは、ある、小さな来訪者だった。




