第10話 魔王討伐編完結
「報告します!」
アリシア姫が寝室に運び込まれ、余りに早い救出に、皆が事情を聞きたいと思っている。
玉座の前にいるのはヴィンスと、ロベルト。一番の立役者、ルイスの姿はない。
皆が固唾を飲んで、見守る中、報告が始まった。以下、その報告内容である。(語り手、ヴィンス。注・プチパニックのため、言葉づかいが時々素に戻ります。)
・・行くぞって言ってからのルイス様は、とにかく行動が早くて、宿舎に帰るや否や、俺とロベルトのほか、必要な人員を十名ほど指名して集め、装備を調えて整列させました。
魔王に感知されるギリギリまで、あれ、エリアテレポートって言うんですかね。初めて見ました。騎士と馬と竜全員を一気に魔王領までワープさせて、「先に行く。」と言い残して、ルイス様はジストと先に向かったんです。
俺たちは、テレポート酔いをなんとか冷まして後を追いかけました。
魔王城に近付いた時、ドーンって音がして、さらに近付くと、まわりには魔物の死体だらけで、その中央にルイス様がいました。
こちらに気づいた魔物が襲ってくるのに応戦して・・
そしたら、辺りの空気が重くなって、空からゆっくりと魔王が降りてきたんです。アリシア姫を連れて。
魔王って、めちゃくちゃ怖いんですよ。見た目は人間の男なのに、発する圧力が半端ないんです。
そいつが、アリシア姫を降ろすと姫の周りをバリアで囲いました。
「ルイス!」
と叫んだときのアリシア姫、可愛かったっす。
いや、それはいいんですけど。
魔王が言うんですよ。
「早かったな。さすが、というべきか。それでは、はじ・・」
なんで途中で切れたかって?
どっちが先だったか覚えてないです。
何がって?
「悪いけど、早く帰りたいんだ。」
って、ルイス様が言って、にっこり笑ったのと、瞬時に魔王との間合いを詰めたルイス様が、魔王のどてっぱらに手を押し付けて、聖魔法をぶっぱなしたのと、ですよ。
ただ、その時感じたことは、よく覚えてます。
俺、はっきり思いました。
「ルイス様、魔王より、魔王じゃん。」って・・。
(以上、ヴィンスでした。)
震えが止まらなくなるヴィンスをロベルトが支える。
「しっかりしろ!王様の前だぞ!」
「まあ、よい。それで、アリシアはなぜ気絶しているのだ?」
王が尋ねる。
ヴィンスは、震えを押さえて、語りきった。
「魔王がぶっ飛んで、バリアが解除されて、アリシア姫は涙を浮かべながらルイス様に抱きつこうとしたんです。・・それを、ルイス様は、ルイス様は・・軽やかに避けて、アリシア姫の首の後ろをとん、とついて気絶させると・・。」
甦る記憶。
「小麦粉の袋を担ぐみたいに担ぎ上げてジストに乗り、そのままみんなに一斉テレポートをかけたんです。」
静まり返る玉座の間。
ちなみに、二人が報告者に選ばれたのは、他のメンバーがテレポートの負担に耐えられず、今もおう吐を繰り返しているからである。
二人は普段もルイスと近いいちにいるため、いろいろ耐性があったが、そうでないものはたぶん3日くらい寝込むだろう。
それくらい、全てが衝撃的だったのだ。
「ルイスは?」
やがて、王はもっともなことを聞く。
「定時を過ぎてるから、と言って帰りました・・明日は仕事休むかも、だ、そうです。」
ロベルトは恐る恐る言う。
「聞いてのとおり、やることはやりましたし、怖くてひき止められませんでした・・。」
と付け加えて。
姫を救い、魔王を倒した英雄の話をしているとは思えない雰囲気の中、空気はどんより沈んでいた。
「はい、今までで一番張り切って作った自信作です!」
満面の笑みでシチューを出して、キラキラ見つめてくるセシルと、
「わあーい、ありがとう。そうそう、これー!」
ひきつった笑顔で香り高いクリームシチューを食べている、当の本人ルイスは、城での異様な空気など、知るよしもない。
溺愛ものって難しい。
私が挑戦したら、こんな感じになってしまいました。
セシルに愛情が振りきっている勇者様は、もう少し活躍するお話が予定されています。
とりあえず、魔王討伐編が終わりました。
ここまで読んで、この後も続けてみたら?と思ってくださるかたがありましたら、現段階での評価をいただけると嬉しいです。
若干迷走中ですが、もう一波乱起こしたいと思いますので、応援よろしくお願いいたします。




