第1話
やってみたかった溺愛ものに挑戦してます。
頑張りますのでよろしくお願いいたします!
「姫が誘拐?・・うーんぶっちゃけどうでもいい・・。」
「いいえ、どうでもよくありません!行ってきて下さい!ね?」
セシルの声は必死だ。
事態がキャパオーバーで、もう泣きそうになっている。
(なんでこんなことになっちゃったのか・・。)
その答えを語るには、3ヶ月前に遡らなければならない。
ある日のこと。
セシルは朝のサラダのために野菜を収穫しようと家のドアを開けて、外に出た。
その瞬間。男が空から降ってきた。
「風!」
短い詠唱で、魔法が働く気配がして、セシルはバランスを崩してしまう。
思わず腰を抜かした上にはくはくと口を動かすものの、声を失っていたセシルの前で、
「いてててて。」
腰をさすりながら立ち上がったその男は、
「やあ。驚かせてごめんね。大丈夫?」
と軽い感じで言って、手を差し出しながらくしゃっと笑った。
彼はセシルの手をとっておこし、ルイス、と名乗った。
「本当にごめん。空を飛んでいたらいい匂いにつられちゃって、竜から落ちちゃったんだ。」
「竜?」
「うん。ほら。」
言われて空を見上げれば高い場所でくるくる回りながら飛ぶ竜の姿。
「初めて見ました・・。」
「ジストっていうんだ。目がアメジストみたいに赤くて綺麗だから。おーい、ジスト!僕は大丈夫だから、先に宿舎に戻ってて。」
「聞こえるんですか?」
ルイスと、ジストと呼ばれた竜の距離を思って尋ねたが、
「もちろん。・・ほら。」
と言うと、確かに竜が離れていくのが見えた。
見とれていたセシルだったが、
ぐうううう!
という空気を震わす音に我にかえった。
見ると、ルイスがお腹を押さえて苦笑いしている。
『お腹を空かした人間を放っておくべからず』
かつて一緒に暮らしていた祖母が言っていた言葉がセシルの中に響き、セシルは小さくため息をついて、彼に言った。
「ちょうど朝ごはんの用意をしてたんです。一緒に食べます?」
ルイスの目が輝いた。
結局、ルイスの配慮で、野菜の収穫を手伝ってもらうのが先になった。しっかり収穫し、手を洗ったルイスは、期待に満ちた目でダイニングに座っている。
余り待たせるのも気が引けて、調理の間に温めておいたポトフを皿に盛り付け、先に出した。
「いいの?」
「もちろん!野菜の収穫まで手伝ってもらったんですもの。遠慮しないで食べてくださいね。」
そう言うと、ルイスは一口スープを飲んで
「うまっっ!」
と声をあげると、すごい勢いで食べ始めた。
(玉ねぎにニンジン、ジャガイモにたっぷりキャベツ。ベーコンもお手製なのよね。ちょっと自信作!)
なんてことない具材だけど、しっかり手間をかけて野菜はとろとろだ。
ルイスの反応に気をよくして、調理にかかる。
パンをフライパンで調理し、フレンチトーストを2人分作る。
あとは、採れたて野菜のサラダ。オニオンドレッシングをかけて。
本当はオムレツもあればいいが、セシルもお腹が空いていたので急いで食べることにした。
(誰かと食べるご飯って悪くないな)
なんてそのときは思っていたのだが。
次の日の朝、セシルはめちゃくちゃ後悔することになるのである。