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世界は魔王によって支配されていた。
魔王は、海峡を挟んだ大きな島から、大陸の国々を攻め落としていった。
大陸の国々は、無人の島から突如として攻めてきた魔物の群れに、為す術もなく蹂躙されて行った。
しかし、大陸の国々も見ているだけではない、同名を組み、各国の軍隊を集結させて、幾度となく挑んだが、人を超える力を持つ魔物達が無秩序に暴れるだけでなく、一人の指導者により、統率された魔物の軍隊とも言える群れに、尽く玉砕した。
沢山の村、街、国が、蹂躙されていく中、東の大国『ソシア』にて、凍りついた大地が溶け始めた3月の終わり頃、起死回生の大博打が行われた、其れが、この世界に勇者様を召喚した、勇者召喚の儀である。
勇者の冒険の書より
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収穫の無い魔法書に飽きて、「勇者の冒険の書」この国の国教である勇者教の教典を読み込んでみている、面白いのだが、魔法の手がかりなんかはさっぱり見えてこない。
どの魔法書でも、魔力の量でマウントを取り合っているので、魔力という物を使って、魔法を使っているようなのだが、元日本人の私的には魔力なる謎物質が体の中にあると言われても、全く解らないし、魔法発動のプロセスもどの本でも知っていて当たり前のごとく書かれていないためさっぱり解らない、これは本格的に先生をお呼びするしか無いかもしれない。
なので、先生に関しては既に当たりをつけている、その人は、色々な魔法書で、変わり者だとか、変人だとか、気狂い魔女だとか言われている方なのだが、その人の著書が、小難しい理論と数字で構成された、実験結果のレポートを纏めたような本なのだ。
確か名前は「リーラ・アベリア」彼女は、他の魔法書の著者のように、自慢するわけでも、威張るわけでも無くただ淡々と纏めているという感じで、この人ならきっと論理的に魔法についてご教授下さるだろう、後はお父様にお願いしてご招待するだけだ。
招待に関しては問題ないだろう、彼女は当主とは言え女男爵、家のお父様は辺境伯の当主様だ、お父様からお願いすればほぼ間違いなく来てくれるだろう。
さて、方針は決まった、私が今すべきは魔法使いの自慢話を読むことではなく、私にゲロ甘なお父様が断れないように、鏡の前で上目遣いと涙目を習得することである。
お父様にお願いして、未来の師匠にお手紙を出して一月ほど。
朝いつものように身支度を済ませ、朝食を取りに食堂に来ている、我が家ではお父様が忙しく、夕食時に帰って来れない日が多いため朝食だけは一緒にというルールがある。
「おはようございます、お父様、お母様」
「「おはよう」」
お母様は微笑みながら、お父様は相変わらずいかつい顔で挨拶が返ってくる、ちなみに弟のシュバルツは、半分寝ていて私に気が付いていないようだ、まあ、何時も通りだ。
「ノワール、昨日アベリア男爵から、手紙が届いた、今日家に来るようだ」
「まあ!ようやくお会いできるのですね!たのしみですわ!」
というのが少し前の話し。
一ヶ月も待った私は朝食を急いで食べて、部屋に帰り急いで余所行きの服に着替え師匠をっている。
というか一ヶ月って、この世界の輸送技術、大分貧弱ですわね、まあ、馬車が主流の移動手段なのだから仕方ないといえばそうだが、魔法があるのだからもっと早く出来無いのだろうか、でも、今は良い、もうすぐ師匠がやってきて、魔法を教えて下さるのだ、輸送技術なんてもうどうだって良い、昨日王都に到着されて先程我が家にいらっしゃったらしく、今はお父様に挨拶をされている、そろそろ私のところへいらっしゃるだろう。
アベリア師匠については色々な魔法書に登場しているので少し前情報を持っている、例えば、魔法には火、水、土、風の基本的な物と雷、無、神聖などの希少な属性があり基本的にこの世界の住人のほぼ全ての人が一つの属性を保持している、二つ三つ持っていれば天才と言われるが、彼女は全て扱えるらしいとか、女性ウケするタイプの美人だとか、超楽しみだぜ、おっと、楽しみですわ。
「お嬢様、アベリア様をお連れしました」
来たみたいね、ココからは日々お嬢様として言葉遣いから所作までお母様に叩き込まれて、女の子になったって感じで楽しくて頑張った私のお嬢様が火を吹くぜ!おっと、吹きますわよ?
「入って」
入ってきたのは赤みがかった紫のロングヘアを大分適当に梳かしたカッコいいタイプの美人、お父様とはまた違った凄みがある。
この人に師匠になって貰うのだ、だがまだ決まったわけじゃない、今から行われるのは面接のようなもの、ココで、できるだけいい印象と相手のメリットを提示して師匠になって貰うのだ。
「本日は、急な呼び立てに応じてくださり感謝いたします」
「いや、此方こそ一月も待たせてしまって申し訳ないです、魔法の研究を途中で放り出すわけには行かず、区切りをつけるのに少々時間がかかってしましまいました、申し訳無い」
本当に魔法最優先なんですね、魔法書なんかでは国王にでも呼出されないと研鑽をやめない廃人だと言われて、だいぶ嫌われているので、時間がかかる事はわかっていたのだ。
だから待つこと自体は予想できていたので特に気にしません。
「いえ、時間がかかる事は分かっていましたから、構いませんよ、其れより、本題へ入りましょう」
「そ、そうですね、何故わざわざ私を?」
おや?師匠、お疲れなのですかね?少しボーとしてらっしゃいませんかね、大丈夫でしょうか?
まあ、続けますか。
「本日、貴女様をご招待したのは、他でもない貴女に魔法をご指導頂をお願いするためです」
「なぜ、私に?もっと他に高名な魔法使いを呼べたのでは?」
「いえ、貴女ほどの魔法使いは他にはいないでしょう」
呼ぼうと思えば大概の人は呼べる、其れは師匠の言う通りだ、ただ、呼びたいかどうかと言えば別だ。まともそうな方は他にも居たのだが皆、感覚派なのだ、魔力とかいうのが全く分からない私としては、何言ってんの?っ感じだ、だからなんとなく分かりそうな師匠をお呼びしたわけだ。
「そんな事は無い、もっと優秀な魔法使いはたくさん居ます」
おっと、凄く自虐的だぞ?
私としては、他の方々がどの程度の魔法使いなのかわからないので比較の仕様がない、正直に言えば、優秀な方が良いのは当然だが、何方かと言えば魔法を理解できるかどうかのほうが大事だ。
「ご謙遜を、貴女ほどの方は中々いないでしょう、其れに、私が魔法を習いたいのは、魔法を非常に論理的に捉えている貴女なのです、他の方の本では、魔法や魔力というのがどのような物なのかが分かりそうにありませんもの」
「...魔法を論理的に...か、たしかに其れなら私が適任かもしれないですが、普通に魔法を覚えたほうが効率的だ、其れに君は血筋的にも魔力量も多いはずです」
何かまた知らないことが出てきただが、取り敢えずは話を反らせたぞ!
んで、何だって?血筋的に魔力が多い?、どゆこと?
「血筋が関係有るのですか?」
「おや?知らないのですか?」
「ええ、その様な事は余り魔法書には書いていませんもの」
「まあそうか、ホントに血筋が優秀な者は其れを自慢しないし、自慢好きなのは其処まで高くない地位の貴族たちだからな」
「そうなのですね、少しご教授頂けませんか?」
さあ、自然な流れで、授業入れそうだ、ココから私の有用性を見せつけてやろう、というか私も魔法の研究とかいうロマンの塊に関わりたい。
「...ふむ、何処から話そうか、そうだな、まずこの国の成り立ちから話しましょう」
「よろしくおねがいします、師匠」
「し、師匠?できれば先生とかのほうが良いのだが」
え?師匠だめ?大分本気で困惑してらっしゃいますね、じゃあ、仕方ない師匠は諦めますか。
「では先生と呼ばせていただきますね、先生、私は生徒なのですから敬語は取って頂けませんか?」
やったね、先生が認知してくれたお!
「そうか、じゃあ、敬語はやめよう、えーと何だっけ?ああそうだ、血筋と国の成り立ちだったか」