拝啓、お兄様いかがお過ごしでしょうか?《連載版もあるよ》
注意
【人によっては蛇足になりうる後日談が少しだけあります苦手な方は設けた余白のところで読むのを終えることをおすすめ致します。】
私は、人が嫌いだ。
社交界に出るのも嫌だ、婚約者を探すのも嫌だ。両親が暗殺されてからそれがより一層強くなった。
両親が亡くなったことによりそのままバハール侯爵の地位を継いでなおも公の場に姿を見せないせいで両親を私が殺してこの地位を手にしたと勝手に解釈された時はもう全てを捨てて山に篭もりたくなったものだ。
それをしなかったのは、両親が守っていた領地を守らなければという使命感と、幼かった妹を育てねばならなかったから。
祖父に似た私の灰のような髪と瞳に対して妹の髪は母の金の髪に父の赤い瞳を受け継いでいる。
その容姿も華やかで、私には無いものだ。妹が微笑めば近くに居るものもだらし無く微笑み返す。その様をずっと見てきた私は自分の人嫌いが妹に移らなかったことを心底ほっとしていた。
幼い頃より育て導いた立場として社交界の花、淑女の鑑と称えられる妹がいっそ誇らしい。
そんな妹も十四になると学園に通い始めた。一年がたった今では十五になっている。領地からというよりあまり屋敷から出ようとしない私の代わりにあの子は周りを観察した記録を手紙で送ってくれる、とても優しい子だ。
「旦那様、ルーシュ様と陛下からお手紙です」
「…そこに置いておいてくれ」
「はい、では失礼しました」
礼をして執事長が下がるのを見届けてから扉の脇に設置してある棚へ足を運ぶ。基本人に近付きたくないので私に必要なものはそこに置いてもらうようにしていた。
にしても妹から手紙が届くのは久しぶりな気がする。いつも定期的に送ってきてくれていたが、今回は長かった。
何かあったのだろうかと恐る恐る手紙を開けて、中の文へ目を通し始める。随分と量が多いが。
『拝啓、お兄様
いかがお過ごしでしょうか? 学園では美しい花々が咲き誇っております。きっとバハール侯爵領の花も美しく咲いていることだと思います』
ふむ、花か。特に気にしたこともないが後でなにかつんでこさせるのも良さそうだ。
『ルーシュはとても楽しく学園で過ごしておりますの。それはもう本当に、本当に、楽しいですわ、是非お兄様にもこの楽しさを分けて差し上げたくてお手紙を書き始めたのですが、存外書きたいことが多すぎてお手紙よりも記録や報告書のようになってしまったので今書き直しているところです』
記録…報告書?これでも結構な枚数あるが最初はもっと多かったのか…。
『最初に語るべきことは決めておりました、初めて知ったのですが…私に婚約者が居たのですね? とても驚きました。きっとお兄様はお優しいから私に切り出せなかったのだと思います。』
…え?
婚約者? ルーシュに?
記憶をいくら漁ってもそんなもの作った覚えはない。断ったことなら何度もあったが一度たりとも大事な妹を本人の許可無く頷いたことなどない。例え王からの婚約打診の手紙も否と答えれる私だぞ。無理矢理婚約させようとする者は全て首を絞めたはずだ。
『学園に入学した時、いきなり私の婚約者を名乗る男性に罵られましたの。初めてですわ! 初対面の相手をあんなに罵れる方いらっしゃるんですね。 私もうとっても面白くて思わず淑女にあるまじき笑いが出てしまいかけたので入学初日から休んでしまいました。今思うと通わせて下さってるお兄様に失礼な事をしてしまいました。ごめんなさいお兄様。』
罵った? 私の可愛いルーシュを? 初対面で?
しかもそれが婚約者だと?
理解不能な情報に思わず手元の手紙を破り捨てかけたので思い止まる。一枚目を読み終えたのでそれを机に置き、二枚目に目を通し始める。
『その次の日から学園で私のことを悪女と噂する人が増えてきたのです。悪女とは何かと共に居てくれたマナに聞いてみましたの、そしたら“貴女と正反対な女よ”と返されました。正反対な女性というのならなぜ私がそう呼ばれるのでしょうか? なんだか推理小説のようで心が踊るようでした。』
マナは昔からルーシュのことを気にかけてくれる娘だったか?そうかルーシュと同い年だったのか…しかも隣にいてくれたのか。
いや、それよりも悪女? しかもそのマナにルーシュの反対の様な女と言わせたものだと?
兄の私から見ても妹のルーシュは純新無垢で、好奇心旺盛だが、控えめで野に咲く花のように清廉潔白だ。
それの正反対などろくなものでは無いぞ。
『それから何ヶ月かは特に何も起きませんでしたわ、残念だけれど。マナが他の子に人気なのか良く呼び出されていて、私がそれに着いていこうとしましたらマナに着いてくるなと怒られてしまいましたの…。いくら親友だとしても踏み込む場所は考えるべきですわよね? 私、その後とても反省しましたわ。』
その呼び出しはマナが人気だからか? なにやら私にはルーシュ関連で呼び出されているような気がするんだが。本当に人気だからか?
『そうそう、例の婚約者様のことなのですが、新しく編入してきた女性にご執心のようですの。授業を抜け出してはその女性に会いにゆき、花や宝石にドレスを贈っているようですわ。』
仮に婚約者だとして。
仮 に 婚約者だとして!
婚約者が居るというのに別の女性に花はまだいいとしても宝石やドレス…?
いったいその男は何を考えているんだ!
『入学してから初めての学園内のパーティーで私は婚約者だというあの方がいらっしゃるからパートナーが出来ませんでした。 仕方なく一人で参加しようかと思いましたら、マナが男装してエスコートしてくれました! とても凛々しくてマナが人気なのがわかりましたわ! そうそう例の婚約者様は例の女性をエスコートしておりました』
力を込めて手紙を握りしめてしまったので慌ててシワを伸ばす。恐る恐る三枚目を読み始める訳だが今のところルーシュの言う“楽しさ”が理解できない。
『そのパーティーでも婚約者様は何かと罵りにいらっしゃって、とても忙しそうでした。でも沢山の男を誑かす…とはどういう状況なのでしょうか? 元々私男性があまり得意ではありませんし近寄る事も少ないと思います、お手紙だってお兄様以外に書いたこともありませんし…。』
また罵られたのか!
しかも誑かす!? 勝手にルーシュの美しさに目が眩んでる男達の事だろうか?
『途中からは隣にいてくれたマナが私の耳を塞いだのでよく聞こえなかったのですが、あとからマナに聞いたら“聞くに絶えない戯言”と言われました。優しいマナにそのように言わせるなんて…一体なんと仰っていたのか少し気になります。』
確実に聞かなくていい事だったんだろうな、余程口汚く罵ったんだろう。自称婚約者が酷すぎる訳だが、結局この男は誰なんだろうか。
『噂では私は男遊びが激しく婚約者に捨てられたことになっているそうです、少し口調は荒かったですが優しい女性たちが教えてくださいました。お礼を言ったら顔を真っ赤にされて可愛らしい方々だったのですが、何故か最後は怒って帰られて…なにかしてしまったのでしょうか。』
確実に嫌がらせをしに来たら礼を言われて逆上したんだな。そんな悪意が私の妹に通じるわけがないだろうに!
あの子ほど人の悪意に疎い子はいないぞ!だからこそ不安なんだが…まぁ今はマナが見張ってくれているらしく平気だろう。
少し心の余裕を見つけながら四枚目を読み始める。
『これ以上書くと本当に終わらなくなってしまうので最近あったことを書きます。お兄様に飽きられてないかとても心配ですが、きっとお優しいお兄様のことだから読んでくれていると信じております。』
ルーシュは本当に私に似ていない。似ていなくてよかったと心の底から思うけれど。少し眩しく感じる。
『今まで長々と書いてしまいましたので、今回は結論を先に書きたいと思います。婚約者様はパーティーの最中に、ダンス用の広く空けられた場所に私を呼び出すと婚約破棄をなさると宣言されました。』
「いや、そもそも婚約してないが!?」
私の大切な妹を信の置けない男共に嫁がせるわけがないだろ!さっきからいい加減にしろ!!
『お兄様の深い考えの元、きっとこの婚約はなされていたと思いますのに、申し訳ない気持ちでいっぱいです。お兄様、本当にごめんなさい、どうか、どうかルーシュをお嫌いにならないで下さい。』
「だから!」
なんで私は今この領地にひきこもっているんだ!? なぜルーシュの隣に私がいないんだろうか! こんなことになるんであれば学園など通わせず私が勉強を教えればよかった!
今ここで叫んだりしても届きはしないとわかっていても、叫ばずにおれぬ!
「ルーシュに婚約者など!居ないんだ!!」
だからお前は誰なんだ! 自称婚約者!
『私は、お恥ずかしながら、その時初めて怒りを抱いてしまいました。優しいお兄様の気持ちを無下にして学園を楽しんでしまった…もっと歩み寄ればもしかしたら仲睦まじい姿をお見せできたかもしれないと。お母様とお父様が亡くなってから私を守り育てて下さったお兄様にせめて出来る孝行の時をみすみす逃してしまったのではと。』
「…ルーシュ」
『でも、お兄様も悪いと思います。いくらなんでもあんな男性を婚約者になさらなくても良かったのではないでしょうか? 婚約破棄をパーティー中に行う上に、腕に転入生の女性を抱きしめている男性をなぜ選ばれたのでしょう…。』
なんだか不穏な空気を感じはじめて背筋が凍る気分だ。嫌な予感がする。思わず立ち上がる私を誰が責めようか。
『実はお兄様、ルーシュの事お嫌いだったのでは無いですか?』
「名も知らぬ自称婚約者! お前のせいで最愛の妹から愛を疑われた! 百万回殺しても殺したりん!」
湧き上がる殺意のままに四枚目を読み終わってしまったことに気づき恐る恐る五枚目に目を通し始めた。
『自分への怒りとお兄様への思いから淑女らしからぬと分かっていても私、泣いてしまって。それに“今頃自分の行いを後悔したのか!”と何故か婚約者様に言われてしまいました。ところで、この人のお名前って私聞いたことがないのだけれど、どなたなのでしょうか。』
「ルーシュも知らないのかい…」
『泣き始めてしまった私をマナが優しく抱き締めて慰めて下さったのですが、その胸がいつもより固く感じましたの。おかしいわと顔を上げてみたらマナがとっても怖い顔で、とっても低い声で、お話し始めました。』
「…いつもより、固い?」
どういうことだ?
『“貴方がルーシュを要らないと言うのであれば私が…このマグナ・ドォルがルーシュを愛す”と。唖然としていたら、別の場所からもう一人のマナが現れました。マナが二人になったんです!』
「……いやいやいやいや! マグナ・ドォル!? しかもマナが二人!? もしかしてマナって」
『実はマナは…マルナベル・ドォルはお姫様で、双子のお兄様マグナ様と時々入れ替わっていたそうなのです!』
「入れ替わるにしたって性別まで越えるの…えぇ…」
『一年生の頃パーティーでエスコートしてくれていたのはマグナ様だったみたいで…いつの間にか守ってくださっていたようです。』
頭の中で以前妹を息子にくれないかと笑った陛下に笑って拒絶したシーンが浮かぶ。話の結果諦め悔しそうな顔をしていた陛下の顔が記憶と違い今はいたずらっ子のようにほくそ笑む姿が見えるようだ。
『マナとマグナ様が何やら書類を周りの人に回すと、周りの方々は顔色を悪くして婚約者様を睨みつけその隣の女性を軽蔑したように見下しておりました。恐る恐るマグナ様に聞くと、私の噂は私に変装したその女性が行っていた事だったそうです。』
「気持ち悪っ! 私のルーシュの真似なんて…愚かすぎるだろう! というか、このままでは…」
もはや寒気がしながら六枚目に入る。これで最後らしいが。
『マナとマグナ様のお陰で私に着せられた冤罪は払拭されました。お陰でまた周りの観察に戻れます! 学園にはマグナ様が改めて編入してきました。
なんでも目的は果たせたからもう偽る必要も無いそうです。良かったですねと言ったらとても素敵な笑みを返されました。
ところで目的とはなんなのでしょうか』
「まてまてまてまて」
『つい先日は美しいと有名な薬草をくださいました。学園に実験用のお部屋まで作ってくださって、もう本当に毎日が楽しいですわ』
「よくない! よくないぞ! その流れは…!」
『このお手紙がお兄様の手に渡る頃、私は恐らくマグナ様とマナに招待されたパーティーに…───』
「誰か! 誰かいないか!」
そういうわけかとルーシュの手紙の下に置かれたパーティーの招待状を握りしめて叫ぶ。
「あんっのクソじじぃーーー!」
『陛下とお兄様はとても仲がよろしいと聞いておりますので私の知らぬお兄様を知れることが楽しみです!では、またお手紙を書きますので、お兄様も元気でお過ごしくださいませ。 ルーシュより』
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【人によっては蛇足になりうる、少しだけその後のお話。】
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私が馬を飛ばして王宮に辿り着くと既にパーティーは始まっていた。なんてことだルーシュを回収するだけだと言うのにこの人だらけの中に入らねばならぬのか!?
顔色を悪くしただろう私を着いてきてくれた執事長が優しく背中を撫で、宥めてくれる。
いつも世話になっている。申し訳ないなと思いつつも「ありがたいが、近いから離れろ」と拒絶する。苦笑いを返された。うん、本当にすまん。
さてこの間もきっと私の可愛いルーシュは陛下とその息子の魔の手に落ちかけているのだろう。どういうことだろうか王宮の華々しいこの見た目が魔王城にしか見えない。
なんて手の込んだ嫌がらせだ。あの爺覚えてやがれと殺意ありありで呟けば執事長がまた背中を撫でてこようとする。この執事長、長い付き合いだからこそ私が近付くのを拒否する際に頭が冷えることを逆手に取っている。
「ルリアルト殿!」
「…これはグルース殿、お元気そうでなによりだが、それ以上近寄らないでもらいたい」
「相変わらずの様ですね…今日は陛下がルリアルト殿は必ず参加するだろうから衣装だけ用意しておくようにと指示がありまして、その様子だと馬でいらっしゃったのでしょう」
やっぱり確信犯だ。有罪だ。ルーシュを俺から取り上げる気か、いいだろうその無駄に長生きな首掻っ切ってくれる。
「どうどう」と牛か馬を宥めるように執事長が触れない怒られないギリギリの距離で落ち着かせようと試みている。
「………本当に相変わらずですな」
グルース殿は私が学園の頃からの“知り合い”である。友人? 私にそんなもの必要ない。私の傍に来ることを許したのはルーシュただ一人だけだ。
家の名はメダー、位は伯爵。金に近いオレンジの髪に紅蓮の瞳の男だ。ちなみに王宮内での呼び名は近衛隊長だ。つまり筋肉の塊である。私とは正反対の男と言える。
「仕方ない、着替えるか……嫌だが」
「ルーシュ嬢はきっとルリアルト殿の正装をあまり見たことがないでしょうからきっと喜んで貰えますよ」
「ルーシュは私がいるだけで喜んでくれるいい子だぞ、何を言っているのだグルース殿」
「思った以上に喜びのラインが低い…いいのかそれで」
文句垂れながらも着替える。もちろん一人で。一人で着替えられる程度の装飾のものを選ぶ当たりグルース殿は有能だろう。あの爺には勿体ないな。
グルース殿を会場に先に入れさせ、その背後に出来る限り影を薄くして潜入する。気付くな。出来うる限り視線を合わせるな。合わせたら殺す。
「随分と遅い登場だな、バハール侯爵」
「…………」
殺…「ルリアルト殿」だめか。
「…お元気そうでなによりです、国王陛下」
「ほほほ、お主の正装姿を見るのは何年ぶりかのう! 実に愉快だぞ!」
「……」
「ルリアルト殿落ち着くんだ…な? その抉りこみそうな拳を下げるんだ、落ち着け…な?」
「うはははへへへぐはっはっ」
「陛下もルリアルト殿の珍しい様子が楽しいのかもしれませんがやり過ぎです!」
笑い転げ回りそうなレベルの陛下。もうこの人の呼び名ゴミでいいんじゃないか? 臣下の嫌がる姿がそんなに楽しいか、ほぉー。
「お兄様!」
下がりに下がった機嫌を一気に払拭する軽やかな美しい声に顔を勢いよくあげる。私の目はゴミを見る為ではなく私の天使を見る為のものとルーシュが産まれた日から決まっている。
「ルーシュ! まるで冬を耐え春を迎えた花のような美しさだ!」
「まぁ! お兄様こそ雪夜の様な美しいその瞳に朝日の様な衣装が映えてらしてとても素敵ですわ!」
グルース殿のセンスにより選ばれた群青の生地にオレンジや金の刺繍がされた衣装を私はいま身にまとっている。普段着ないような色合いだが、ルーシュが褒めてくれるだけで素晴らしいものだと思える。この衣装買い取れるか後で聞こう。
私に駆け寄り抱きつこうとしたのだろうルーシュがピタリと足を止める。ルーシュの手を取っている男に私は嫌々ながら視線を向けた。
「これはこれは、マグナ殿下お久しぶりです」
「お久しぶり、バハール侯爵…貴方が正装しているのを初めて見た気がするよ、こうしてみるとルーシュと似ているな…」
陛下と同じ色を持つマグナ殿下は美しい金の髪に銀の瞳を持っている。柔らかな笑みを浮かべているが、この表情悪巧みしている陛下とそっくりである。有罪。纏めて神の元へ送った方が平和だろう。…私が。
表面上はにこやかに握手を交わす。嫌だという気持ちはあるがついでだと握った手に全力を込める。いっそ骨が折れれば私のルーシュをエスコート出来やしないのに私の非力さではそれは叶わない。
諦めて握手を終え、もじもじと私へ視線を向けるルーシュに両手を広げる。
何せ学園に送り出してから一年会っていなかったのだ。その一年でも何やら非公式の婚約者に傷付けられた最愛の妹をパーティーだからと抱きしめぬ訳が無い。
「おいでルーシュ」
「お兄様!」
ぱっと女神と例えても良い程に美しい笑みを浮かべ私の腕の中に収まる可愛いルーシュをぎゅっと抱きしめる。あぁ可愛い。ゴミと腹黒に傷付けられた心が癒されていく。
悔しそうなマグナ殿下をちらりと見てルーシュに微笑み返す。
「ところでルーシュ」
「なんですか?」
「ルーシュに婚約者は居ないからね? 大切なルーシュの意志を尊重しない縁談を受けるわけがないと分かってくれるね?」
「え…でも学園で…」
「原因は私が調べ尽くすよ、だからどうか私の愛を疑うような事はしないで欲しい…」
優しく微笑んで頭を撫でてあげると嬉しそうに頬を赤らめたルーシュが「わかりましたわ! お兄様からの愛を疑うなんて愚かな真似を申し訳ありませんっ」とさらに抱きつく力を強める。あ、ちょっと私の筋肉貧弱だから締めすぎると意識飛んでしまうからそこまでで頼むね?興奮して喜んでくれる妹を宥めながら、悔しそうなマグナ殿下にゆっくりと微笑む。
“本人の許可無く縁談を受けるわけがない”んですよ? ほら私の妹は可愛いでしょう! 愛らしく抱きしめたくなるでしょう!
「ところでお兄様?」
「なんだいルーシュ」
「お兄様の学生の頃のお話とても新鮮でした」
「…え?」
「陛下と本当に仲がよろしいんですのね! 羨ましいですわ!」
「ルーシュ?」
「特に婚約者を探すパーティーのお話がとても切なくて…お兄様のお気持ちを思うと…」
「ルーーシュ?」
「まさか初恋が───」
やばいことを口走りそうになったルーシュの口を手で塞ぐ。グルース殿とマグナ殿下が首を傾げているのを見ると仕込んだのはこの二人ではないらしい。
…となると。
「…ふはっ」
吹き出す陛下へギロりと視線を向けると耐えきれないとばかりに腹と口を抑え肩を揺らしていた。
どうやら妹が外堀から埋められ嫁ぐことを防ぐ上に私の黒歴史が露見しないよう手を回さなければならないらしい。
集まる視線にキリキリと痛む胃に腕の中の天使を抱き上げ帰ることを決意した。
ざわめく人をかき分けその場からにこやかに立ち去る中、背後で耐えかね激しく笑う陛下の声を聞きながらいつか絶対あの爺殺してやると心に決めた。
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ちょこっと後日談いらないよ!なかった方が良かったよ!って思った方申し訳ありませんでしたっ