大切な人への感謝の気持ち
小さなお子さんでも読めるように、最初に出てくる漢字には全てふりがなをつけております。
ご了承ください。
「いってきます」
「いってらっしゃいあなた」
「いってらっしゃいお父さん!」
私とお母さんは、お仕事に行くお父さんを笑顔で見送る。
外はもう雪が降っていて、手が凍りそうなくらい寒い。
「さぁミユキ、ご飯途中でしょう?一緒に食べましょうね」
「うん!お母さん!」
私とお父さん、お母さんの三人暮らし。
お父さんは大工のお仕事をしているらしくて、いつも朝早くに出て、夜遅くに帰ってくる。
だから、私がお父さんと会えるのは朝の短い時間だけ。
時々早く帰ってきてくれたら、ずっと私と一緒に居てくれる優しいお父さんが大好き。
お母さんは私をよく叱るけど、それは私を大事にしてくれてるからだって分かってる。
まぁ、反発しちゃうんだけど……理性と気持ちって、難しい。
ご飯を食べ終わって、食器を台所に持っていく。
そうしたら、お母さんからいつも通り言われた。
「ミユキ、お母さんちょっと買い物に出かけてくるけど、家でお留守番はできる?」
「うん!大丈夫だよ!知らない人がきても、開けちゃダメなんだよね!」
「はい、良く出来ました。もっと言うなら、チャイムが鳴っても出なくて良いからね?お母さんやお父さんは、鳴らさないから」
「うん!」
「ミユキは良い子ね。それじゃ、お留守番お願いね。お母さん、すぐに帰ってくるから」
そう言って、お母さんも外に行っちゃった。
実は、私はお母さんが外に行く時を待っていた。
毎日、少しの間お母さんは買い物に出かける。
それは本当に短い時間だけど、私はその時間にある計画を立てていた。
そう、お父さんとお母さんへの、いつもありがとうのプレゼント。
お母さんと私の為に、毎日お仕事を頑張っているお父さん。
疲れてるだろうに、そんな事を全然感じさせないで、笑顔で私に接してくれる。
掃除に洗濯、毎日の料理と、大変だろうに私の事をずっと気に掛けてくれるお母さん。
そんな大好きなお父さんとお母さんに、感謝の気持ちを伝えたい。
そう思っていた時に、もう遠い場所に行ってしまった友達のエリク君からプレゼントを貰った事がきっかけ。
「なぁミユキ、プレゼントって知ってるか?」
「なーにそれ?食べ物?」
「いや、まぁ中身がそうな事もあるかもしれないけどさ。そうじゃなくって、プレゼントってのはさ」
「うんうん!」
「その、これやるよ」
「……え?」
それは、エリク君がずっと大切にしていた、宝物だって言っていた、貝殻。
水の大精霊、ウンディーネ様の加護を受けている貝殻で、耳に近づけると波の音がする。
「これ、エリク君の宝物じゃない!そんなの貰えないよ!」
「ああ、宝物だ。だからこそ、ミユキに貰ってほしいんだ」
「どういう、事?」
「俺さ、両親の仕事の都合でこの国を出るんだ。だから……もう会えなくなる」
「え……」
「だからさ、これをお前にやる。俺の宝物、親友のお前に貰ってほしいんだ。これが、プレゼントだ」
その言葉に、涙が零れる。
だって、エリク君がずっとこの貝殻を大切にしていたのを知っていたから。
そしてそれを、私にって。
物凄く嬉しいのと、これからエリク君と会えなくなるのが悲しくて。
「な、泣くなよ!それに、ずっと会えなくなるってわけじゃないだろ!俺が大人になったら、絶対この国に帰ってくる!」
「……ホント?」
「ああ、約束する!」
「……うん、約束。ゆびきり、しよ?」
「お、おお!ゆーびきーりげーんまーん」
「うーそつーいたーら、大精霊様のおしかーりうーけちゃーうぞ!」
「「ゆーびきった!」」
そうして、二人で笑う。
「ミユキ、元気でな」
「うん、エリク君も」
それを最後に、エリク君とは会っていない。
でも、あの時に貰ったエリク君からのプレゼントは、今も私の宝物だ。
その時の気持ちは、とっても温かいものだった。
お父さんとお母さんも、私からのプレゼントを受け取ったら、同じような気持ちになってくれるかな?
なってくれると良いな。
そう思って、この計画を立てた。
プレゼントは悩んだけど、お父さんにはマフラーを。
お母さんには手袋を編む事にした。
うん、すっごく難しくて、挫けそうになった。
まずお父さんへのマフラー。
私の指はそんなに大きくないけど、毛糸を指にくぐらせていくのを繰り返して少しづつ完成させていく。
そして次に、お母さんへの手袋。
これがもう難しすぎて、何度も失敗。
挫けそうになりながらも、出来上がってプレゼントした時のお母さんの顔を想像して、心を奮い立たせて頑張った。
結果、なんとか手袋に見えなくもない?ような物が出来上がった。
……うわーん、やり直しだー!
という事を繰り返し、もはや何回目か覚えていない。
私のお小遣いは、毛糸に全て消えていったよ、ぐすん。
それから数日、ずっとそんな毎日を繰り返していたある日。
「明日は少し早く帰ってこれそうだよ。夕飯は久しぶりに一緒に食べれそうだね」
「まぁ、本当に!?それはあの子も喜ぶと思うわ」
そんな会話が聞こえた。
今、私はお布団の中でもそもそと編んでいた。
ばれないようにこっそりと。
お母さんが買い物に行っている時間だけでは、寒い水の月が終わっちゃう。
そうなったら、私のプレゼントの意味が無くなっちゃうからだ。
焦りながらも、少しづつ進めていく。
そうして、完成した。
不格好ながらも、ちゃんとマフラーと手袋の形ができてる。
小躍りしそうになる気持ちをなんとか我慢して、お父さんとお母さんにプレゼントするのを明日に決めた。
次の日、いつも通りお仕事に行くお父さんを見送って、お母さんのお手伝いをする。
うぅ、水が冷たいよー。
食器を洗うのって、こんなに辛いのー!
お母さん、いつも一人でしてるんだよね……私も少しでも手伝わないと!
「ありがとうミユキ。無理しないでね?お母さん、大丈夫だから」
あぅー、逆にお母さんに心配されてしまった。
それからお昼寝をして、夕方が近づいてきた。
「ただいまー!」
お父さんの声だ!
走って玄関に向かったら、笑顔で私の名前を呼んでくれるお父さん。
抱きついたら、抱きしめ返してくれる。
「あのねお父さん、今日はお父さんとお母さんに、大事なお話があるの」
「うん?ミユキがお父さんに?」
「お帰りなさいあなた。あら、私にもなの?」
お父さんとお母さんの手を引っ張りながら、いつものリビングへ移動する。
「それでミユキ、お父さんとお母さんに大事な話って、なんだい?」
「ま、まさか恋人ができたとかかしら!?」
「なんだって!?ミユキにはまだ早い!!」
なんだかよく分からない事で騒ぎ出すお父さんとお母さん。
恋人ってなんだろう?
「えっとね。お父さん、いつもお仕事お疲れ様です。これ、感謝のプレゼントです」
「え……」
固まるお父さん。
私はお父さんにマフラーを手渡してから、お母さんに言う。
「お母さん、いつもありがとう。叱られたりもするけど、大好きだよ。これ、感謝のプレゼントです」
「み、ゆき……」
お母さんは、目に涙を浮かべた。
あ、あれ、どうして?
「「ミユキ!!」」
お父さんとお母さんに抱きしめられた。
く、苦しいです!?
「あぁミユキ、ありがとう!俺は世界で一番の幸せ者だよ!」
「ありがとうミユキ!お母さん、本当に嬉しいわ!」
お父さんとお母さんが、目に涙を浮かべて喜んでくれた。
どうしてかな、お父さんとお母さんに喜んで欲しくて、感謝の気持ちを伝えたくてプレゼントしたのに……。
私の方が、嬉しくなっちゃってる。
ありがとうお父さん。
ありがとうお母さん。
私を生んでくれて、私を大切に育ててくれて。
私はお父さんとお母さんが、大好きです。
温かい食事をお父さんとお母さんと一緒に食べて、お風呂に入って、お布団の中で、色々なお話を聞かせてくれた。
まどろみの中で、想う。
この幸せな時間が、ずっと続きますように……。
その日、私は夢を見た。
お父さんとお母さん、それにエリク君と一緒に、大きな木の傍にある大きな泉で遊んでいる夢。
その泉から、綺麗なお姉さんが出てきて、私にプレゼントをくれた。
「ご両親の事を大切に想う貴女に、少しばかりのプレゼントです。どうぞ受け取ってくださいね」
それは、とても綺麗な虹色の貝殻だった。
「あ、ありがとうございます。あの、お姉さんは?」
「クス、私は大精霊・ウンディーネ。貴女の綺麗な心が、私にはとても好ましい物でしたので、少し覗かせて貰いました」
そう言って、そのお姉さんは泉の中に消えてしまった。
「ま、待ってお姉さ……!」
言い終わる前に、パチっと目が覚める。
横にはお父さんとお母さんが、まだ寝ている。
「夢、かぁ」
そう思って布団をめくると、そこにはエリク君から貰った貝殻に似た、夢の中で見たそのままの、とても綺麗な虹色の貝殻があった。
こ、これって……!
「お、お父さん!お母さん!起きて!これ!これ!」
私はお父さんとお母さんに夢の内容を伝えた。
お父さんもお母さんも驚いていたけど、言ってくれた。
「大精霊様は、私達の事を見守ってくれているんだよミユキ。良い子にしていたミユキに、大精霊様がプレゼントをくれたんだよ」
って。
どうしよう、私、お父さんとお母さんにプレゼントをしたのに、こんな凄い物を、大精霊様に貰っちゃったよぉー!?
宝物が、二つに増えちゃった!
そんな、まだ寒い日の暖かな出来事でした。
このお話の世界は、二人の自分 私と俺の夢世界~目が覚めたら男じゃない上に人間ですらなかったけど、異世界を謳歌する~というお話と同じです。
なので、大精霊という存在が実在した世界です。
ですが、人々にとって大精霊とは伝説上の存在で、直接会う事はほとんどありません。
今後、このお話で出てきたミユキとエリクに両親が登場するかは定かではありませんが、同じ世界のお話ですので、登場する可能性もあります。
もしよろしければ、そちらも読んで頂けたら嬉しいです。
お読みくださり、ありがとうございました。