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第13話:内と外


13話は短いので14話とまとめてアップです。




 家の中にある扉と言う扉、窓という窓、全て生命布で覆われてしまっていた。

また青葉がどんなに力を込めて突き破ろうとしても、生命布に綻び一つ作ることが出来なかった。

布は、一気に動こうとはせず、じわりじわりとゆっくり家を閉めあげていく。

まるでなぶり殺しだと青葉は恐怖を感じる反面、どこまでも陰湿な赤マントに対して怒りも覚えいた。


「リオン、助けに来るかな?」


 電波が遮断されてしまったせいで、リオンに場所すら満足に伝えることができなかった。

状況だけは伝わったと思うが、それだけで彼が青葉のもとに駆けつけられる可能性は低い。

間に合わないかもしれないという思いが、青葉に絶望を与えた。


しかしだからといって、じっと死を待つことができないのが青葉の性分であった。

昔幸平にもらった古い金属バットを押入れから取り出すと、生命布にむかってフルスイングした。

何度か試してみて手ごたえが無いのが分かると、次ぎはバットを縦にして赤い布を突く。

びくともしなかった生命布が、僅かながらにたるんだ。


「よし!」


 手ごたえありと青葉は何回も同じ場所をバットで打ち続けた。

だが先端が当たった時は布がたるむものの、すぐに元に戻ってしまう。

よほど強力な力を与えないといけないらしい。

斧やハンマーなどがあれば良いのかもしれないが、そんな物が一八百屋にあるはずもなかった。


「どうしよう」


 さすがの青葉も弱音が口に出た。

交通事故から奇跡の生還を果たした矢先に、また命の危機に遭遇するとは、青葉は自分の不運さを呪った。


「交通事故?」


 青葉の脳裏にかすかなひらめきが生じた。

自分がダンプカーとの衝突からどうやって身を守ったか。

最初は単なる偶然だと思っていたが、月音によれば無意識に引き起こした念動力でダンプカーをひっくり返したという。

何トンもある大型自動車を横転させられるなら、こんな布ごとき破れないはずが無い。


 上手く行くかどうか全く分からなかったが、「やってみよう」と青葉は思った。

頭のおかしい男に殺されるなんて真っ平ゴメンだったし、何より青葉にはやらなければならないことがあった。


――チョコを殺した奴を、絶対に見つけ出してやる――


 青葉はまだ死ね無かった。







 リオンの思惑通り、月音と誠治は沈黙の状況に陥ってからすぐに到着した。

商店街に似合わない黒塗りの高級車から、黒髪の美少女とオタク青年が降りてくる。

リオンはとりあえず一息ついた。


「つくね遅いじゃん。もっと早く来てよ」

「すみません。それにしても凄い状況ですね」

「おうふ!おうふ!大変であります!」


 目を白黒させている誠治とは対象的に、月音は一切取り乱さず冷静に事態を分析していた。

月音は突然の仲間の登場に慌てふためく赤マントを一瞥すると、リオンの方に顔を向ける。


「とりあえず『無音奇襲装置』と『狐狸煙幕』を配置しましょう。こんな所を一般人に見られたら厄介です」


 『無音奇襲装置』とはある一定範囲にいる人間の聴力を全て遮断する発明兵器である。

『狐狸煙幕』は煙幕のその名の通り人の視覚に効果を及ぼし、続いている道を行き止まりに見せたり、特定の建物を無いように錯覚させたりする。

もともと戦場用に作られた発明兵器であったが、今回のように人目に付く場所で戦うときには欠かせない装置だった。

どちらも人間の脳に直接作用を引き起こしてそうさせるらしいが、技術的なことは誠治の専門なのでリオンは詳しくは知らない。


 月音は車のトランクから二つの装置を取り出すと誠治に設置させた。

目くらまし用の発明装置は、一番戦闘能力の低い誠治が稼動させるのが暗黙の了解である。

他の二人が生命活力を全て戦闘に注ぎ込めるようにするためだ。

誠治の後方支援と、リオンと月音の攻撃力。

三人がそろえば、どんな相手だろうと怖くない。


「人数はこっちが多いんだよ。さっさと降参したら?」

「黙れ!こっちには人質がいるんだ。降参なら貴様らがしろ!」


 青葉を人質に取っていることが、多勢に無勢とはいえ赤マントに大きな自信を与えているようであった。 

落ち着きを取り戻し余裕たっぷりの様子であったが、月明かりに照らされた美しい月音の顔を確認すると、その表情が一変した。


「おい、お前の横にいる女はなんだ!?」

「つくねのこと?」


 リオンは戸惑いつつも、月音を指差した。


「そうだ。その女だ。まさかその女もお前のオンナなのか?そうだな?そうなんだろ!?」

「え、ちょっ、ちがう……」


 リオンが否定するより先に、男は青筋を立てて先程のように喚き散らし始めた。


「チクショウ!!くそイケメンが!テメェらばかりいい思いしやがって。ガキのくせに二人も可愛い子はべらしてよおぉ!テメェらイケメンは何もしなくても女寄ってくるんだろ?女切らしたことないんだろ?いっつも女連れてやがって!テメーらどうせ俺みたいのを嗤ってるんだろ、顔がいいだけでよぉ!俺たちを見下してんだろ?勝ち組だと思ってチョーシのってんだろうがよおおおぉぉ!!」


 赤マントは罵倒し終わると息も絶え絶えになっていた。

さすがの月音さえもあっけに取られているのをよそに、男は一人で興奮のボルテージを上げて行く。


「お前もだ!お前もだ!お前にも裁きを下してやる!見てろよ、くそイケメン。テメーの彼女がぺっちゃんこになるのを指をくわえて見てやがれ!」


 赤マントはさっと右手を振り上げた。


――マズい!――


 リオンはその腕が振り下ろされるよりも早く、男に向かって足を踏み出した。


「つぶれろおおおぉぉぉぉ!!」


 生命布に彼の命令が伝達されるよりも早く、何かが裂ける音とドンという鈍い地響きが静まり返った商店街に響いた。


「あいたたたた」


 リオンがうめき声のする方を見ると、ちょうど自分のいる屋上の真下辺りで青葉が尻を押さえていた。



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