不良どもに傘を差す その2
「んの野郎ォ…よくもリーダーをやりやがったな!」
「まぐれで当たったからって調子に乗ってんじゃねぇ!」
「泣いて謝ったって許してやらねぇぞオイ!」
リーダー格が倒され、一時は驚いていた不良たちだったがすぐさま何が起こったのかを理解し激昂。
各々がまるで不良という台詞を発し、己の武器を手に雨傘に向かって行く。
多勢に無勢。まぐれで投げた空き瓶でリーダーを倒せただけ、と。ただの冴えないおっさんが虚勢を張ってるにすぎない、と。
不良たちの誰もがそう思いながら、我先にと向かって行く。
それが、大きな間違いであることも知らずに。
「バッ!?」
「ベッ!?」
「ブッ!?」
向かって行く不良たちのうちの数人がたどり着くまでにその場に倒れこんでいく。
先ほどと同じく、顔に空き瓶をぶつけられて。
________この状況を割と冷静に見ていたモヒカンは後に次のように語る。
『いやまぁ…俺もそりゃ躍起になって突撃しようかなーとも思ったんだ、でも気になることがあってな』
『あいつはいったいどうやって空き瓶をぶつけたんだろうかって思ってよ』
『そんで後ろの方で観察してたんだ。どんな肩してやがんだーって…』
『けど現実は違ったね』
『投げてたんじゃない、引っ掛けて飛ばしてたんだよ、それも傘の持ち手に…』
『こうバットみたいな要領で…流石にあれはまぐれとは言えねーよ。あいつが傘を振るうたんびに落ちてる空き瓶が飛んでいくんだからな。ありゃブルったね』
『けどまぁ、弾切れってのは来るわけでよぉ…』
______空き瓶が砕け散る音。その音が響くたびに一人、また一人と倒れていく。
不良たちが半分の数ほどになった時、雨傘の周りに手頃な空き瓶が無くなった。
好機だと、不良たちは倒れていった仲間たちを文字通り踏み越えながら向かって行く。
そして、先頭の不良が雨傘に向かって木刀を振り下ろした。
が、それは空を切る。
雨傘は身体を少しだけ横に動かして回避、そのあとカウンターと言わんばかりに不良の後頭部に傘をフルスイングする。鈍い音とともに顔面から不良は地面に倒れ込んだ。
「あ〜…これは骨いったかな。まぁ自業自得ってことで」
わずかに痙攣している不良を見下ろしながら雨傘が呟いていると、その周りを不良たちが囲んだ。
「こいつただのサラリーマンじゃねぇぞ!囲んでリンチにしてブッ殺せ!」
「だからリストラされたんだって…まぁいいけどさぁ」
殺気満々な不良たちとは対照的な雨傘に二人の不良が同時に殴りかかる。雨傘はこれをしゃがんで回避すると同時に片方の不良の足首を傘の持ち手で引っ掛ける。踏ん張りが無くなった不良は前のめりになりもう一人の拳を顔面で喰らい倒れ、驚愕の表情を浮かべる間も無く、もう片方のほうも雨傘が身を起こすと同時に顎を傘の持ち手でかちあげられ膝から崩れ落ちる。
後ろから別の不良がバットを振り下ろすがこれを振り向かずに傘でガード。時代劇のワンシーンかの如くこれをいなし、側頭部に傘で殴りつけ対処する。
ナイフを持った不良が突き刺そうとする先に、雨傘が振るった傘がナイフをはたき落とし、正面から脳天めがけて傘を振り下ろしこれを対処。
不良たちが一斉に襲いかかって来るもこれを対処。対処。対処………
気づけば不良たちはモヒカンを残して全滅していた。
(こんな…こんなことがあるかよ!?)
目の前で起きたことが信じられず、ただただ震えるばかりのモヒカンに対し、傘を持ったそれはゆっくりと近づいて行く。
武器に手をかけようとするが、身体が動かない。まさしく蛇に睨まれた蛙、いやこの場合はおっさんに睨まれたモヒカンだろうか。雨傘はモヒカンの目の前に立ち、
「あとはよろしく頼むわ。おじさんもやり過ぎた感は否めないけど、いい授業にはなったろ?ほいじゃ」
それだけ告げると呆然とするモヒカンの横を欠伸をしながら通っていき、夜の闇に消えていってしまう。
モヒカンは無事だったことに安堵すると同時に、不良なんか辞めよう。そう密かに決意するのだった。
戦闘描写って難しいなぁって…。




