最後の遺跡
ギギガが長年かかって見つけ出した遺跡を、アルフと二人で片っ端から歩いて回っていた。遺跡はこの世界のあちこちに点在。そのため、ひとつひとつの間は非常に距離があり、数百キロメートルも離れているところも。とても骨の折れる旅だった。しかも、遺跡など見向きもされないため、道なき道を切り開いて進むことも多々あり。店どころか、家のないところも多く、アルフはギギガからプレゼントされた弓矢を使って、獲物を狩るのが上手くなっていった。
各々の遺跡の壁画には、色々な情報が描かれていた。
最初に訪れた最南端のデカ遺跡とエプタ遺跡には、神話から、人類誕生までが。アルフたちが住むオクト遺跡から北上し、東西にひとつずつ存在する、ペンデ、テッセラ遺跡には、人類が文字を作るまでのことが。
そこから、少し南下して、エクシー遺跡を訪れた時、アルフとギギガは、『マギア』という、全く見当もつかない言葉に出くわした。二人はそこに、一週間滞在して、考えに考えたが、答えには辿り着けなかった。先に進めばわかるのではという、アルフの意見を尊重し、旅は続けられた。
北上し、ズィオ遺跡には、思いもよらないことが書いてあった。今から、五千年ほど前までは、エガフォスに行くことができたというのだ。しかも、どうやら、交流があったらしいことが読み取れた。
トゥリア遺跡には、そこへの道が開くのは時期が決まっていて、ギギガの計算によると十五日と三十日になる。アルフとギギガは、遺跡に何かが起こるのではないかと、一ヶ月滞在したが、何も起こらなかった。このままでは、らちがあかないと悟ったふたりは、さらに北にあるエナ遺跡を目指した。この時点で、すでに三ヶ月が経過していた。
そして今、最北端にある、十番目の遺跡エナにアルフとギギガは来ていた。ギギガが調べた遺跡では、ここが最後だった。この場所は、アルフたちが暮らすオクト村よりも、かなり気温が低く、ふたりは途中で狩った動物の毛皮に身を包んでいた。
今までの遺跡と同じように、最奥部では何かを警告するように、赤と青に点滅する泉を見つけ、ドーム状になっている壁画の写真を携帯に撮った。
外へ戻りながら、古代文字を解読。長い旅の間、切ることのできなかったアルフの黒髪が、肩より下にまで伸び、今は途中で抜いた草を乾かして作った、紐で一つ縛りにしていた。ギギガも白髪が松明からの光を長く映し取っていたが、じいさんはあまりそういうことに気を止めないたちで、伸び放題だった。
泥だらけで、ボロボロになったアルフの靴が、松明の並びの終わりーー遺跡の出口に差し掛かった頃、
「エガフォスに危機迫る時、泉の水、点滅す……最後の遺跡」
アルフはそこまで言って、後ろからゆっくりついてきていたギギガの方へ、引っかき傷だらけの顔をやった。
「じいちゃん! 大変なことになってんぞ!」
「そうみたいじゃな」
ギギガじいさんはあまり驚いた風もなく、ひげを引っ張り始めた。アルフは待っていられないというように、急いで遺跡の中へ引き返した。洞窟に孫の声が響く。
「先、行ってんぞ。じいちゃん」
「ほほほほ……」
ギギガは余裕の笑みで、あとをのんびりとついて行った。
最奥部にようやくたどり着いたギギガの目に飛び込んできたのは、あっちへ行っては壁に手をつき、こっちへ行っては耳をすましたり、泉の中を覗き込んだり、あらゆることをしていたであろう、アルフだった。
綺麗なドーム状のその場所は、点滅している泉が中央にあるだけで、何かの影や隙間があるわけではない。壁も色々と、アルフが調べてみたが、何もなかった。汗だくで、泥だらけになっている孫に、ギギガが優しく、
「今日は休んだ方がよいじゃろう」
アルフは諦めたくなかった。ギギガに背を向けたまま、壁を探り続ける。ここに、何かがあるんだとしたら、すぐにでも見つけたい。闇目病を治す手立てになるかもしれない。その気持ちだけで、アルフは動き続けていた。だが、遺跡へ一度入って、外に戻り、また引き返してきている。もう、三時間以上も休みなしで動いている状態。疲れているはずなのに、アルフはやめようとしなかった。
「はあ、はあ、はあ……」
息が切れていることも、構ってはいられない。若さに任せて突っ走っている孫に、ギギガは知恵を利かせた。
「マジョルカが待ってるじゃろう?」
アルフは壁についていた腕の、携帯をはたと見た。動きをピタリと止める。遺跡の中では、携帯は通じない。今まで、毎日電話してきた。今日出なかったら、マジョルカはきっと心配するだろう。アルフは探すのをやめた。
「そうだな、明日にするか」
ギギガの機転がきいて、ふたりは入口へ引き返した。
寒さを少しでも和らげようと、遺跡の中の入り口付近に、テントを張っていたが、携帯は通じないので、アルフは氷が広がる外で、マジョルカと携帯で話しては、寒さにブルブル震え、遺跡の中で眠り、最奥部へ行っては、エガフォスへの道を探す日々を二週間ほど繰り返した。
だが、残念ながら、道は見つからなかった。アルフとギギガが検討した結果、最後の遺跡は、どうやら地図にはなく、どこか他にもうひとつあるのではないかという結論に至った。
★ ★ ★
カイヤシティー、国立研究所、一室。業務時間は過ぎており、同じチームの人たちはそれぞれ帰り支度をしていた。マジョルカもそうで、彼女は書類を片付けながら、アルフと電話。
「今度の実験で、治療法が見つかるかもしれないわ」
いつもの彼女とは違って、上機嫌。マジョルカとは正反対に、天気のないアルフ。
「お……おう……そうか」
マジョルカはバインダーを掴んだ手を止めて、宙に浮かぶ携帯の画面を覗き込んだ。
「どうかした?」
「ここ……マジで……寒いんだよ」
「エナは川があまり流れてないものね」
マジョルカの言葉から、どうやら、赤オレンジの川は熱を発しているらしい。ペン立てにシャープペンをしまいながら、
「調査はどう?」
アルフは歯をガチガチ言わせつつ、
「もうひとつ……地図にない……遺跡を明日から探す。そこに……治療の鍵が眠ってるかもしれねえんだ」
マジョルカはいたずらっぽく、
「それじゃあ、どっちが先に見つけるか競争ね!」
「おう!」
アルフの笑顔がふとゆがんだ気がした。
「ん……?」
マジョルカは目を閉じて、眉間を押さえる。心配そうなアルフの声が。
「どうかしたのか?」
マジョルカは目を開けて、少し考えてから、
「ここのところ、残業が多かったから、目が疲れたみたい」
「じゃあ、早く帰って寝ろよ」
アルフが画面から消えた途端、
「熱っ!」
マジョルカは身体中に焼けるような感覚を覚え、机の上に置いてあった研究資料をなぎ倒し、床にどさりと倒れてしまった。他の研究員たちが、
「どうした?」
「大丈夫か?」
声が遠くで聞こえる。
「熱い……痛い……」
マジョルカはか細い声で返すのがやっとだった。
「早く、電気、消せっ!」
チーム長の声が研究室に響く。マジョルカは途切れそうな意識の中、
(アルフ、私は探せなくなったわ……)
心の中でつぶき、意識を失った。
★ ★ ★
アルフとギギガはエナ遺跡で、二週間も足止めを食らっていた。
外は猛吹雪。ビュービューと吹き込んでくる、風の叫び声を聞きながら、ふたりは地図をじっと睨んでいた。まだ見つかっていない最後の遺跡の場所を予測する。闇雲に歩くわけにはいかない。多くの人が闇目病に苦しみ、不便な生活を送っている。一日も早く、治療が必要だ。それに、この吹雪の中、下手に歩き回れば、凍え死にかけない。
ギギガは赤いペンで、遺跡と遺跡の間に線を引いた。アルフは描かれた図形を見ること、しばし。あることに気がついた。
「おう!? じいちゃん!」
アルフは地図の中心より北の方を指差す。もちろん、そこには何も記されていない。
「エナ遺跡から、エクシー遺跡の間、不自然に空いてねえか?」
孫は今いる遺跡から、南へ下がったところを差していた。
「どれ?」
ギギガは定規を当てて、ほかの遺跡との距離と比べてみた。
「そうじゃのう」
孫の言っていることがあっていると知り、じいさんはひげをひっぱり始めた。
考えているギギガの横顔に、アルフは問いかける。
「ここにあんじゃねえか? 最後の遺跡」
「そうかもしれんのう」
ギギガは一向に動く気配を見せなかった。しびれを切らしたアルフは、地図をパッと掴み、カバンにさっとしまい、
「ここでじっとしてても、最後の遺跡は見つからねえんだから、行こうぜ、じいちゃん!」
ギギガの服を引っ張って、アルフは無理やり歩かせた。
★ ★ ★
暗い部屋で、マジョルカは一人きり。必死の形相で、宙に浮かぶ携帯の画面を見つめていた。そこには、白衣を着た男が映っていたが、
「あ、待ってくだ……!」
一方的に切られ、待機画面へと変わった。マジョルカは両膝を抱えた。
「今日もダメだったわ……」
ため息をつくが、マゼンダ色の瞳は意欲を失っていなかった。マジョルカは病気になってわかったのだ。治療法はないが、症状を抑えることはできると。人工灯を浴びれば、浴びるほど、症状はひどくなっていく。それならば、人口灯の光を遮るものを作ればいいのだ。
もう行けなくなってしまった研究所に、マジョルカは援助を要請しようとしたが、研究員にも闇目病は蔓延しており、人手不足。一刻も早い、治療薬の開発をと躍起になっている研究所では、彼女の提案を受け入れてはくれなかった。
マジョルカは黒いカーテンをマントのように羽織って、オクト遺跡の原っぱへやって来た。草の上に、一人腰を下ろし、寂しげな街を眺める。
「ずいぶん、明かりが少なくなったわ」
アルフたちが遺跡への旅に出発してからも、患者は増え続け、政府の政策もより厳しいものとなり、街の上にかかる雲が明かりを反射し、ほんのりと色づく光景は見ることができなくなってしまった。
風に吹かれながら、マジョルカは膝を抱え、悔しさに身を固くした。自分と同じように、苦しんでいる人たちがいる。何も形にできない現実に、マジョルカは憤りを感じ、唇を強く噛みしめた。じっと動かず、風の音に耳をすます。アルフとの思い出が、次から次へと走馬灯のように、浮かんでは消えてを繰り返す。
『旅に出る』
アルフのその言葉が、マジョルカの止まっていた思考にエネルギーを与えた。さっと立ち上がり、
「そうよ! 自分で作ればいいのよ」
マジョルカは家まで駆けていった。
★ ★ ★
一方、アルフとギギガは厳しい旅を強いられていた。ひどい吹雪に見舞われ、視界が一メートル先も見えない中を、一歩一歩進んでいく。あたり一面氷に覆われていて、食料もほとんど手に入らない。飢えと寒さが、二人を打ちのめそうとしていた。
しかも、遺跡にたどり着けるかもしれない。たどり着けないかもしれない。そんな疑心暗鬼の日々。アルフとギギガは精神的にも肉体的にも限界に来ていた。
だが、南下の一途を少しずつ辿り、氷にも吹雪にも悩まされることはなくなった。そうして、三日が過ぎたのち、ふたりは深い森を抜け、岩場へ出た。アルフとギギガはパターっと、仰向けに寝転がり、疲れた体を大地に預けた。アルフは乾いた喉で、
「人生、うまくいかねえもんだな……」
「そんなもんじゃ。じゃが、時には上手くいく」
人生の先輩、ギギガに慰められるが、
「今、上手くいってくれねえと、意味がねえんだよ」
アルフはいじけて、ギギガと正反対へ寝返りを打った。常に、灰色の雲が広がる景色が急に変わり、
「あぁっっ!!」
アルフは突然、あたりにこだまするほど叫んだ。
「何じゃ?」
ギギガの疲れた声がすると同時に、アルフはパッと上半身を起こした。さっきまでの疲れはどこへやらである。
「じいちゃん! あれ、見ろよ!」
「何じゃ、そんなに騒ぎおって」
ギギガは首だけをひょいと持ち上げた。二人の視線の先には、木々に覆われているが、まっすぐ伸びる暗闇、遺跡だ! 最後の遺跡だ!!
アルフはリュックを背負い直して、すくっと立ち上がった。
「じいちゃん、行くぜ!!」
岩の割れ目をうまく避けながら、全速力で走り出した。置いてきぼりを食らったギギガは、
「まったく、若いもんは……」
文句を言ってから、ゆっくりと起き上がり、孫のあとをのんびりついて行った。
遺跡の最奥部まで一時間。他と同じように中央に泉があり、赤と青に点滅。アルフはいても立ってもられず、携帯に撮影せず、古代文字を読み始めた。
「ここ、ステマ遺跡……エガフォスへの道……あり。エガタに災い来る時……水……エガフォスにありけり……」
アルフは目を輝かせ、
「ってことは、闇目病を治す方法はエガフォスにある水ってことになるよな? じいちゃん」
壁を眺めていたギギガは、髭を伸ばしながら、
「……続く道、ここにありけり」
泉に視線を落として、
「どうやら、そこの泉がその道のようじゃな」
「よし、行ってみようーー」
いつも前のめりな孫を、ギギガは止めた。
「今日はここまでじゃ」
祖父の言葉に驚いて、アルフは遺跡中に響き渡るような声で、
「あぁ!? 行かねえのか?」
「今日は二十九日じゃ」
「あぁっ!?」
アルフはエガフォスへの道が、十五日と三十日にしか開かないことを思い出して、彼の声が遺跡中にこだました。
★ ★ ★
その頃、マジョルカは薄暗い部屋で、慣れない裁縫をし、指に針を刺しまくっていた。
「痛っ! ……痛っ!!」
それでも、めげずに作業を続ける。ろうそくの炎に映し出されたのは、買ってきた大きな黒い布。それをフード付きのマントに加工する。そうすれば、人工灯の光に苦しむこともない。マジョルカは俄然やる気になっていた。
「これを研究所へ持っていって、量産してもらえば、ひとまず、みんな普通の暮らしが出来るようになるわ」
ふと、左腕の携帯が鳴った。意識化で回路の繋がっているそれは、研究所を表示していた。マジョルカは心躍った、マントの話ができるかもしれないと思って。手を動かさなくても繋がる。
「はい、もしもし?」
だが、電話の向こうの声は、彼女の心を打ちのめした。
「ご両親が闇目病になられた」
マジョルカは手に持っていた、布と針を落とし、体中の力が抜けていった。
★ ★ ★
マント作りをする気にも慣れず、両親を励ますこともできず、マジョルカは逃げるように外へ出てきた。オクト遺跡のそばの原っぱに、一人座っている。
大好きだった街の夜景も、今や真っ暗になっていた。遠くの空の稲光がよく見える。厳しい現実へ引き戻されて、マジョルカはしょんぼりした。下を向いてはいけないと、自分で自分を励まし顔を上げるが、人工灯をつけることができない自分の家が寂しげに見えた。マジョルカの視界は涙でにじむ。彼女はアルフには言っていなかった、闇目病になってしまったことも、研究所に行けなくなってしまったことも。
「アルフに会いたい……」
いつも隣で、元気に笑っていた彼が頭の中をよぎり、ほんの少しでも、彼の温もりを匂いを感じたかった。膝に顔を埋めていると、携帯が鳴った。アルフからだ。マジョルカは急いで涙を拭って、無理やり笑顔を作った。意識化で通話にする。
「おう! 体、大丈夫か?」
自分を気遣うアルフを前にして、マジョルカは思わず泣きそうになったが、なんとか答えた。
「……大丈夫よ」
「そうか」
「そっちは、どう?」
「闇目病を治す方法を、見つけたぞ」
アルフの自信満々の笑顔がにじみそうになり、マジョルカは泣かないよう深呼吸をして、
「……それは、どんな方法なの?」
彼女の心に気づかず、アルフは得意げな顔で、
「エガフォスにある水だ。明日、じいちゃんと一緒に、エガフォスに行く」
「…………」
マジョルカは言葉を失った。この世界からアルフがいなくなってしまう。今、会いたいのに、会えなくなってしまう。熱いものがこみ上げてくるのを、彼女は止められなかった。急に泣き出し、アルフは驚いた。
「な、何かあったのか!?」
マジョルカはしゃくりあげながら、
「……父と……ひっく! ……母が……っ! 闇目病になって……」
「マジか!?」
アルフは大きく目を見開いた。少し間を置いて、できるだけ明るい声で、
「けど、心配すんなって、もう少しでーー」
マジョルカはアルフの言葉を遮った。
「私もなっていたの!」
マジョルカは次々に襲いかかる苦しみのあまり、とうとう、アルフに病気のことを打ち明けてしまった。
「…………」
アルフは唖然とした。研究員になるのが夢で、闇目病の治療法がもうすぐ見つかると言って、喜んでいたマジョルカが、ろうそくの薄暗い明かりの中で過ごしている。アルフは心の底から、救いたいという気持ちが溢れてきた。
「待ってろ、すぐ戻るから!!」
アルフは急いで電話を切ろうとした。マジョルカは慌てて息を整えて、
「ううん、大丈夫」
それだけ言った。アルフには、やりたいことをやり遂げて欲しいと、彼女は強く願う。マジョルカはしばらく泣いていた。アルフはかける言葉が見つからず、ずっと無言のまま。
しばらくして、マジョルカは涙をぬぐい、
「今……私……人工灯を遮るマントを作ってるの」
アルフはただ聞き役に呈した。
「おう……」
「それが完成したら、研究所へ持って行って、量産してもらうわ」
「そうか……」
マジョルカは泣き腫らした顔で、無理に笑った。
「……エガフォスに……行ってきなさいよ」
「…………」
アルフはイエスともノーとも言えなかった。マジョルカは砂色の髪をかきあげて、もう一度笑顔を作る。
「私のことは心配しないで、アルフは自分の道を行って」
「……おう」
アルフはとりあえず頷いたが、マゼンダ色の瞳を直視することはできなかった。マジョルカは構わず、できるだけ明るく、
「それじゃ、戻ってきたら、電話ちょうだい」
アルフの返事も待たず、電話を切った。マジョルカは自分の膝に顔を埋めて、激しく泣き始めた。
★ ★ ★
一方的に電話を切られてしまったアルフは、しばらくぼんやりしていた。あたりは、赤オレンジ色の川が少なく、街の明かりもない。ホタルも飛んでいないため、焚き火を消したら、真っ暗になってしまう。そのため、アルフの電話が終わるまで、ギギガは火を消すのを待っていた。よっこらしょっと立ち上がって、火の始末をし始めた。
「出発は九時じゃ」
「…………」
アルフの返事がないことを不思議に思い、ギギガは手を止めた。ぼんやり腰掛けている孫をじっと見据える。長く生きてきた人の勘。アルフは連れていけない。ギギガはわざと考えるふりーーひげをさすって、
「やはり、わし、一人で行ったほうがよいじゃろう」
「あぁ……?」
置いていかれる言葉を聞いて、アルフは初めてギギガを見た。
「万が一、エガフォスで何か起きて、わしが戻ってこれなかった時、跡を継ぐ者がおらんと、研究は終わってしまうじゃろう?」
「…………」
アルフは視線を地面へ落とした。自分も行きたいと言いたいが、マジョルカのことを想うと、行くとは言えなかった。言葉を返してこない孫を前にして、ギギガはマジョルカに何かあったのだと気づいた。じいさんは火を消し、寝袋に入りながら、
「明日は早い、よく休むんじゃ」
「おう……」
複雑な気持ちのまま、アルフも眠りについた。